●スタッフといっしょにモノを創るということ

コジマプロダクションの“宇宙船”に潜入! オフィスツアーリポート_17
▲ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表の小島秀夫監督。現在、企画・脚本・ゲームデザインを手掛ける『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』を制作中。

──2016年は世界中の開発スタジオを訪問されていましたね。

小島秀夫氏(以下、小島) ツールという意味も含めたゲームエンジン探しです。ただ、エンジンだけではなくて、スタジオはどこに作られていて、建物の中身はどうなっているかなど、環境面も同時に見てきました。そこの風土や文化、税制など、スタジオを作るうえで気にかけるべき点は多いんです。とくに海外のスタジオにはいろいろな国から人が集まっていて、どのようにして人と人を結びつけているかということに、とても興味がありました。けっきょく、人とテクノロジーと環境、この3つが揃わないと、いいモノは創れません。

──海外はそうした環境作りが進んでいる印象がありますね。

小島 DreamWorksとかGoogleのオフィスは、もはやキャンパスですよね。敷地内にレストランや託児所、ジムやプールもあって、自由に使っていい。食事もタダです。家族やペットをオフィスに連れてくる人もいます。これを日本でいきなりやろうとしてもなかなか難しいので、どこを重要視するか、ですね。それで、トンネルのようなエントランスと、開発フロアの真ん中にキッチンを作ることにしました。

──あのエントランスはものすごいインパクトでした。

小島 何かとんがったところが欲しいなと思っていました。僕もそうですけど、人って日々、悩みとかありますよね。それを抱えたままモノを創るのはしんどいので、あそこを通ることでいったん忘れてもらおうと。頭の中を白くしてしまうというコンセプトです。

──まるで宇宙船のエントランスですね。

小島 僕はよくスタジオをエンタープライズ号(映画『スター・トレック』に登場する宇宙船)にたとえるので、そのイメージもあります。いちばん理想的なのは、自分たちが作っているタイトルの雰囲気とスタジオの雰囲気が合うことなんです。ああ、あのゲームを創ったスタジオなんだなと。

──コジマプロダクションらしい、こだわりを感じます。

小島 モノを創る仕事ですから、スタジオ作りも同じなんです。絨毯の柄から照明なんかまで自分たちで決めて、買いに行ったりしたんですよ。このタイルは高いなとか(笑)。

──楽しそうです(笑)。そして、キッチンの位置もずいぶんユニークですね。

小島 キッチンは作戦司令部です。キッチンが開発フロアの真ん中にあり、そこから全体が見渡せる。僕がその心臓部から指令を発信するという感じです。スタッフといっしょにモノを創りたかったので、“縦の構造”はなくしたかったんです。これは、『リトルビッグプラネット』を手掛けたイギリスのスタジオ、メディアモレキュールの雰囲気を参考にしています。

──どんなスタジオだったのでしょうか?

小島 メディアモレキュールは、とてもアットホームないいスタジオです。スタッフは100〜150人くらいで、横に広い。ふつうの家みたいなんです。マネージャーも女性が多く、彼女たちが現場を仕切っていて、雰囲気が違うんですよ。2階に大きな食堂があって、そこでみんなとご飯を食べたり。僕が帰ろうとしたら、スタッフたちが集まってきて集合写真を撮ったりして、とにかく温かい。

──ひとつの家族のような印象ですね。先ほどおっしゃった“縦の構造”を排した、横のつながりを感じます。

小島 僕らも会社の最大規模を100人くらいまでと考えていて、いまのところ僕はすべての会議に参加しています。会議といっても会議室にこもって行うものではなく、寄り集まりみたいなものです。問題があれば、その場で解決する。昔の開発現場はそんな感じでしたけどね。いまは、ひとりいないとすぐわかりますよ。あいつ昨日、顔色悪かったなとか(笑)。

──小島監督としては、昔の開発の環境に戻った感じでしょうか?

小島 昔というか、映画の現場みたいですね。全員現場の人で、横につながっている。コジマプロダクションではいろいろなスペシャリストを集めていますけど、スペシャリストとスペシャリストのあいだをつながないといけない。そのためには、全員を見渡せる環境は重要です。

──小島監督が全体を見られるということだけでなく、スタッフ全体もつながっている必要があると。

小島 マネージャーという“あいだをつなぐスペシャリスト”もいるのですが、マネージャーに管理させるとおもしろいモノができないんです。クリエイティブに携わるということは、たとえばミネラルウォーターを作るなら、水の成分を調整する人でも容器の原材料や商品の流通、ペットボトルのリサイクルまでわかっていなくてはいけなくて、自分がどういうものを創っているのかきちんと理解する必要があります。いまのクリエイティブは、分業の弊害でもありますが自分の担当領域のことしか知らない人が多くて、それではおもしろいことはできません。でも、これは人数が増えるとだんだん難しくなってくる。

──なるほど。その横につながれる人数が100人くらいということですね。

小島 そうですね。それ以上になると制御できなくなってきます。まだ100人にはなっていませんが、無理に増やそうとも考えていません。

──今後も小島監督が直接面談して採用を決めていくんですよね?

小島 面談する部屋がようやくできましたので(笑)。仮事務所のころは喫茶店で面談をしていましたから。海外メディアの取材なんかは会議室を1時間いくらで借りたり、コピーもコンビニまで行ったりして(笑)。

──小島監督といっしょに仕事をしたいという人はたくさんいると思いますが、かなり応募があるのではないですか?

小島 ものすごくきますね。ほとんどが外国の人ですけど。日本人でも、僕とやらんでもいいやんというくらい、けっこう有名な方から応募があったり。でも、基本的に“いい人”しかもう取らないです。

──いい人……ですか?

小島 クリエイターとしての経歴があって、これをずっとやってきました、だけではおもしろくないんです。

──どこがポイントになるのでしょうか?

小島 何でもできる人ですね。語弊があるかもしれませんけど、できる人は何でもできるんです。たとえば、オリンピック選手が現役引退後に大学に入って医者になった、とかあるじゃないですか。その心は、やる気があるからなんです。もともとの才能もありますけど、興味や探究心がある人は強い。

──先ほどのミネラルウォーターの話に通じますね。

小島 僕は会社を作りたかったのではなくて、モノを創りたいから集まっているだけの話なので、そこで力を発揮できる人ですね。企業に入って安定したいという人は要りません。

──どんな方が入社されているのか、とても気になります。

小島 ゲーム業界以外からも採用しています。のちほど何名か紹介しますが、ニコンで半導体製造装置のプログラムを作っていた人もいますし、モデリングのアーティストは映画業界出身の人たちが多いです。ゲーム業界出身の人もいますが、他業界のスペシャリストたちも多い。ゲームはそれくらいの領域に来ているんです。

コジマプロダクションの“宇宙船”に潜入! オフィスツアーリポート_18

──人事面といえば、平野真二氏がコジマプロダクションのプレジデントに就任されましたが、この経緯とは?

小島 スタジオとプロジェクトを垂直立ち上げしてここまで進んで来ましたが、クリエイティブのほうが忙しくなってきて、経営との両立はしんどいなと思っていたので、経営を任せられる人がいないかと捜していました。平野さんは前職からの知り合いで、仲がよかったんです。経営関係の社長は平野さん、僕はクリエイティブ関係の社長です。北野武さんのところのオフィス北野に社長さんが別にいるのと同じような感じですね。

──先ほどの他業種からの採用しかり、コジマプロダクションにはいろいろな可能性がありそうですが、いま動いているプロジェクトは『DEATH STRANDING』だけでしょうか?

小島 コジマプロダクションって上場企業じゃないので、量産する必要はないんです。計画通りに商品を作って、みんなに喜ばれて収益を上げれば、つぎのステップがあるだけです。これでぼろ儲けしようとか、楽しようとかは思っていないんです。株主にお金を還元する必要もないですし、右肩上がりである必要もない。でも、大きな組織だとそうは言っていられず、「もう1ライン増やせ」と言われたら、やりたくないこともやらないといけない。それだと、残りの人生楽しくないなと。いまは『DEATH STRANDING』に注力していますけど、うまくいったら違うこともやりたいですね。

──もうすでにアイデアが?

小島 やりたいことはいっぱいありますよ。ゲームだけじゃないですし。

──おお、ゲームだけではない?

小島 ゲームが作れる人は何でもできます。ロボットでもVRでもアプリでも。ゲームクリエイターは、アートとエンターテインメントとサービスのあいだにいる人たちだと思うので。そして、テクノロジーを使いこなせますから。