義人は、生きていた。
『ゴメ遺跡』の財宝を盗み去っていた。
“伝説”の盗賊は、“神話”になった。
あの遺跡の倒壊の中から生きて帰ってきたことは、本当に奇跡としか言いようがない。彼も自分の命はほとんど諦め、せめて閑香に一矢報いようと思っての行動だったが、その勇気が功を聡したらしい。瓦礫の中から生きて這い出た彼は、命からがら、K村を脱出した。共に遺跡の下敷きになった閑香がどうなったのかは、彼にも分からない。
K村を脱出した彼は、その財宝を売りさばく。
小分けにして、闇ルートでの販売。それにも関わらず、小分けにした1つ1つにつく値段は、彼の想像以上だった。
これだけの金があれば、どんなに豪遊しても、それを全て使い果たすことはできないのではないか。そう思われるほどの巨額の金。
彼は名前を変え、整形で顔を変え、社会を操作して自分の履歴を創りあげた。そうして彼は、偶然にも“石油王”として巨額の富を得た幸運な男として、海外で人も羨む贅沢な生活を送っていた。それを可能にさせるだけの価値が、あの財宝にはあったのである。
50階建ての超高層ビル。その最上階が、彼の部屋。――そう、このビル丸ごとひとつが、彼の自宅なのである。
最高級のワインを傾け、最高級の食事をとる。彼以上の資産家は、世界にいないだろう。
その一方で彼は、その「自宅」の警備も、より厳重なものにしていた。豪華な生活の中で、まるで何かに怯えるかのように。
ビルの各階には10名ずつ、計500人の警備員を配置。さらに彼の広い自室には、世界中から選りすぐった“最強”のボディーガード50人が常に控えている状態。
そこまでして彼が怯えている存在。――もちろん、行方の知れぬ米田閑香であった。
だが、裕福な生活は人の心に余裕と、油断を与える。次第に彼の頭の中からはあの地獄のような『ゴメ遺跡』での出来事は次第に薄れ、ただひたすら、金に浸る生活を送るようになっていた。
グラスを傾ける。
まるで世界が自分のものになったかのような錯覚。
そして世界で、自分が“神話”になったような錯覚。
――それを、喧しいブザーがかき消した。
ビィーッ!! ビィーッ!!
それは、緊急事態を知らせるブザー音。
「何事だ?」
義人はボディーガードの一人に尋ねる。無線で連絡をとる男。
「侵入者のようです」
「集団か?」
「いえ、一人だけのようで。心配には及ばないでしょう」
そう、たった一人の侵入者など、心配には及ばない。門番のガードマンをどうやってくぐり抜けたのか疑問ではあるが、一人の人間がビルに入ってきたとしても、各階に配置された警備員に取り押さえられるのが関の山である。
しかし、義人の胸騒ぎは止まなかった。たった一人だけ。そのことで逆に、彼の頭に引っかかるものがあったのである。
――まさか、な。
自分を落ち着かせようとしても、不安は止まない。いつの間にか握りしめていた手は、汗で湿っている。忘れかけていた恐怖。あれは幻想だったのだと思いこもうとしていた過去。思い出すだけで、背筋に嫌な悪寒が走る。
そしてそれは、不幸にも的中することになる。
普通であれば一人の侵入者など、5分もかからずに取り押さえられる。しかし、今回はそうではない。それどころか、各階に配置された警備員からの連絡が、一人、また一人と途絶えていくのである。
「おい! どうした! 何があった!」
義人のボディガードの一人が無線で連絡を取っているのは、24階に配置された警備員。23階までの警備員230人の無線は、既に通じなくなってしまっている。
「そ、それが私にもよくわかりませんッ」
無線から響く警備員の声は、明らかに狼狽えていた。
「同じ階の警備員もやられました、な、何が起こったのか分からないんです……ッ」
「馬鹿なことを言うな! 相手は何人いるんだ?」
「ひ、一人です、し、しかも一人の女で――、あ、ああッ!! ひ、ひ、ひぃいぃいいッッ!!」
ブツリ、と音を立てて、無線が切れた。
警備員が言い残した一言。“一人の女”。その言葉に、室内が静まりかえる。
「……失礼ですが、この部屋をお出にならない方がよろしいかと」
ボディガードの顔も険しくなる。相手は一人。だが、並大抵の一人ではないらしい。
「ああ……、お前達も用意していた“アレ”、準備しておけ」
「了解しました」
義人の言う、「用意しておいた“アレ”」を取り出す50人の、最強のボディガード達。それは彼が自分に巣喰う恐怖に対抗するために講じていた“保険策”の一つだった。
不審者の侵入から1時間以上が経過した。
義人の個人部屋内に緊張が走っている。ついに、全ての警備員との連絡が取れなくなってしまった。無線の不調ということも考えられる。あるいは妨害電波で故意に通信を妨げられているのかもしれない。――しかし、500人の警備員全てが倒されたという可能性も、無論残されている。
そしてついに――
ガチャ! ガチャガチャガチャ!!
部屋のドアノブが、乱暴にこじ開けられようとしてる。扉はオートロック式。専用のカードキーが無ければ開くことはない。
しかし――
………カチャリ
扉が、開く。
ボディガードが一斉に身構える。その後ろで、平静を装う義人。しかしその手の震えを隠すことはできない。
ギイィィ………
現れたのは――、ワインレッドのロングドレスを着た、一人の美女だった。
「義人さん、いますかぁ?」
その声に、義人の息が止まりそうになる。
忘れもしない。その美声。愛らしい表情。人並みに膨らんだ胸と、人並み以上に発達した尻。
「――米田、閑香」
震える声で、その名を呼ぶ。
部屋の奥にいる義人に気づき、閑香は笑顔を向けた。
「私の名前、覚えていてくれたんですねっ、嬉しいです! お久しぶりです、義人さん☆」
そう、あの遺跡の倒壊の中、閑香もまた、奇跡的な生存を果たしていた。
義人を取り逃がし、財宝まで奪われた。さらには義人に「臭い」と口にさせられなかった時点で、彼女はゲームにも敗北していた。
それだけで、閑香の本能の血がたぎるには十分だった。何としてでも義人を見つけ出し、抹殺しなければ。その使命に燃え、彼女もK村を人知れず抜け出すと、その機会を虎視眈々と狙い続けていた。そしてついに今日、彼女は義人の大豪邸へと侵入した。
「い、生きていたのか……」
「くすっ、それはこっちの台詞です。義人さんも、よく生きていましたね。すっかりお顔も変わってるけど、私にはすぐ分かりましたよ?」
「……、そ、そうかい」
「強がっても、すぐに分かりますよぉ。言ったでしょ? 『逃がしませんよ』って☆」
二人の会話に、ボディガードが割ってはいる。
「止まれ、そこの女」
その言葉に、閑香は素直に従った。
「どうかしましたか? 私はそこの、義人さんに用事があるんですけど」
「女、お前、どうやってここまで来た?」
ボディガードの質問に、閑香はうんざりしたように首を傾げる。
「階段でですよぉ。エレベーターが止まっちゃってるんですもん。ちょっと疲れちゃいました」
「そうではない!!」
ボディガードは大声を出した。
「ここに来る間の警備員達をどうした、と訊いているのだッ!!」
「警備員? ああ、あの人達ですね」
ぽりぽりと人差し指で頭を掻く閑香。
「このビルって、警備員さん何人いるんですか?」
「……500人が各階を守っている」
閑香の問いには、義人が答えた。そしてその返答に、閑香は満足したように微笑んだ。
「なら、全員私のおならに包まれて、天国に登っていきましたよ☆」
その一言に、部屋中の空気が変わった。
そう、閑香はビル内の警備員全員を虐殺し尽くしていたのだ。
最強の“守人”であった閑香にとってみれば、警備員の男10人に一度に囲まれたぐらいでは、大した恐怖ではない。一人一人の人体急所を丁寧に打ち抜き、行動不能にさせると、大きな桃尻をその顔の上に載せ、“本気”の一発を警備員にお見舞いする。彼女の“本気”であれば、男一人をあの世に送り去るには一発で十分。男達は例外なく、この世で最悪の地獄を見せつけられながら死んでいった。
それを、500回繰り返したのである。閑香にとって、それは大した仕事ではなかった。
「ば、馬鹿な――」
ボディガードは、それがまるで信じられないようだった。
しかし、義人には分かる。可愛い顔をしたこの女の本性が。
「――だが、残念だったな」
そんな義人にも、まだ余裕は残されていた。彼には金に物を言わせた“保険”があった。
義人の言葉で、ボディガード達50人が一斉に器具を自分の体に装着する。まるでスキューバダイビングでもするかのように、口元を覆い、タンクを背負う。
「ここにいるのは、世界中から選りすぐった“最強”のボディガード50人。下にいた警備員とは訳が違う。さらに“これ”だ。ガスマスク。スイッチを入れれば外界からの空気を0.000001%まで遮断し、ボンベの空気で呼吸できる。しかも機動性も確保してあるという、軍も採用しているものだ。お前も、自慢の“屁”なしで50人を相手にするのは辛いだろうな」
にやにやと笑いながら、義人は自慢げに説明する。
「しかもつい昨日、ガスマスクを新型にバージョンアップしたばかりだ。不良品は一切ないぜ。どうだ、俺がのこのこと、お前が来るのを待っているだけだとは思うな」
義人の言葉を、閑香は退屈そうに聞いていた。自信満々な義人を見つめては、閑香は溜め息をついた。
「うーん、確かに50人相手にするのは、ちょっとめんどくさいですね。まとめてやっちゃおっかなぁ〜?」
そう言って、自慢の尻を叩く。ドレスの上からでも、尻肉がぽよんと震えたのが見て取れた。
「ふ、ふん、話を聞いていなかったのか? おい、スイッチを入れろ」
「了解」
義人の命令で、50人のボディガード達は一斉にガスマスクのスイッチを入れ、タンクからの呼吸を開始する。これで閑香がいくら地獄のような放屁を繰り返しても、ボディガードは何も感じることはない。何しろ軍も採用している高性能なガスマスク。いくら閑香でも、この完璧とも言える対策には、流石の閑香でもついてこれない――はずだった。
しかし、事態は一変する。
「む、むぐぐぅぅうううッ!!!??」
「お、おっげええぇえぇえッッ!!!!」
「うご、ご、ぉお、ごごおぉお………ッッ」
ボディーガード達が、一斉にうめき声を上げ始めた。
閑香はその場を一歩も動いていないし、放屁をした様子もない。それなのに、彼が用意した“最強”のボディガード達は目を白黒とし、顔を真っ青にしながら、痛切な叫び声を室内に響かせて、バタバタと倒れていく。
「お、おいッ! どうしたんだッ!?」
慌てて側近のボディガードを揺すり起こす義人。だが苦悶に満ちた表情を浮かべる彼に、義人の声は届いていないようだった。
「う、く……、くさ、い………」
その一言を残して、彼は動かなくなった。――死んでしまっていた。
部屋を見回す。この部屋で立っているのは、義人と閑香の二人だけ。残りのボディガード達50人は、一人残らず床に突っ伏し、絶命していたのだ。
「ば、馬鹿な……、な、何が起きたって言うんだ……」
恐怖に震える義人。それとは対称的に、にこにこと微笑む閑香。
「義人さん、昨日にガスマスクを新しいのにした、って言ってましたよね? 昨日来た軍事用品会社の人って、いつもの人じゃなくて、女の人じゃありませんでしたか?」
「あ、ああ、確かに……、……ま、まさか――」
青ざめる義人。彼は直感的に気づいた。気づいてしまった。
「くすくすっ、私の変装、なかなかのものじゃありませんでしたかぁ?」
そう、昨日訪れてガスマスクを新しいバージョンに取り替えていったのは、他でもない、米田閑香だった。サングラスをして、髪型も違い、声色も変えていたので義人は全く気づかなかった。
新しいものに交換する。その名目で、閑香は義人が自信を持って採用していたガスマスクに、仕掛けをしていたのであった。
「お、お前――」
「くすっ、そうでぇす☆ そのボンベ、酸素の変わりに私のおならをたっぷり詰め込んでおきましたよ☆」
彼女の笑顔に、これほどゾッとしたことはない。
ボディガード達が背負ったタンクの中には、閑香のガスで満たされていた。それも、50人分全てが。何も知らずにスイッチを入れて呼吸を始めた彼らは、鼻に入り込むこれまで味わったことのないような腐卵臭に藻掻き、苦しみ、死んでいった。
外部の空気を0.000001%まで遮断するということは、裏返せば、彼らは呼吸の99.999999%を閑香のおならで支配されたということ。絶対に安全だと油断しきっていた男達の苦悶は、計り知れない。彼らが死してもなお、鼻にはボンベからガスが流れ込む。いつまでも、いつまでも、薄まることのない地獄の卵っ屁が。
義人は、手に持った自分専用のガスマスクを見る。と、いうことは、このボンベの中にも――
「あっ、義人さん、それ、つけない方がいいですよ。義人さんのガスマスクには特別いーっぱいおなら入れておきましたから。つけたら即死です☆」
即死――
その言葉は、嫌な響きと共に義人の耳に残る。
「く、くそ、う、うぅ、ぐ………ッッ」
「怯えないでくださいっ☆」
一歩、また一歩と義人に歩み寄る閑香。後ずさりしても逃れられない。そうは知っていても、後ろに下がるしかない。
「くすくすっ」
彼の背後に、ベッドが当たる。大きなシルクのベッド。もう、後ろには、下がれない。
「や、やめろ、く、来るな――」
「だめでぇす☆」
ぺろん、とスカートの裾をめくる。彼女は下着を履いていなかった。露わになる、美しい桃尻。それを向けたまま、閑香は義人を追い詰める。
ゆっくり、
ゆっくりと、
少しずつ、
しかし確実に。
「やッやめろッ、ひ、ひぃ、ひぃいいぃいぃいいッッ!!!!」
むっぎゅうぅうっ☆
閑香の超弩級特大ヒップが、義人の顔を押しつぶす。
「むぐッ!! むぐうぅぅううッッ!!!」
尻にこびりついた残り香だけで、悶絶するほど臭い。当然である。彼女はそのおならで、500人もの警備員を葬り去ってきた後なのだ。
「あっ、ワインですね」
サイドテーブルに置かれていた、義人の飲みかけのワイン。一本数百万という、一般人では拝むこともできないであろうワインのボトルを手に取ると、閑香はそれを豪快にラッパ飲みした。
待ちに待った念願――義人に復讐をするという念願を果たそうとしている閑香。高ぶった彼女の体は、多少のアルコールなどはねのけるほどだった。
「ぷはあっ! んん〜っ、美味しい☆ やっぱり良いワインは違いますねぇっ」
平和に酒に浸る閑香の尻の下では、義人が顔を潰されて藻掻き苦しんでいる。その事実を感じさせないほどの、彼女の微笑み。うめき声が尻に伝わる。その振動を楽しみながら、彼女はドレスのスカートをふわっと広げた。ロングドレスの中に包まれ、義人は尻に敷かれたあげく、スカートの密室に閉じこめられる形となった。
また、彼女はワインを口にする。その一口が数万円するワイン。いかにも上手そうに「んぐんぐ」と喉で音を立て、ついには飲み干してしまった。
「ふぅ〜っ、美味しかった☆」
にっこり。天使の笑顔。
「こんなに美味しいのいただいちゃって、ありがとうございますっ! くすっ、ちゃんとお返ししなくちゃいけませんね☆」
ぶっしゅぅうぅううーーぅうううーあぁーーーぁあああっっ!!!!
爆裂ヒップから、ついに化け物が、姿を現した。
「んんんんぅぅーーううぅうッッ!!!!!」
忘れかけていたその臭い。忘れたかったその臭いが、容赦なく義人に襲いかかる。常人では考えられない濃度の卵っ屁。
義人の顔の上に騎乗した閑香の尻から、ピンポイントに鼻穴へと注ぎ込まれる。周りはドレス。臭いの逃げ場はない。呼吸をすればするほど、臭いは全身に染み渡るようだった。
「んごぉぉおッッ!! んっごぉぉおぉおおおおッッ!!!!」
なんとかその地獄顔面騎乗から抜けだそうとするが、とても、不可能。男の義人が暴れても、閑香の桃尻は1ミリたりとも動かない。
「そうそう、もっと叫んで暴れてくださいっ。それが楽しみだったんですから☆」
ぶびぃいいッ!! ぶしゅッ!!!
「おぼおおぉおぉぁああっぉおぉおッッ!!!!」
「んん〜っ、格別☆」
スカートの中から臭いをつかみ取るようにして嗅ぎ、閑香は歓声を洩らす。臭い、あまりに臭い。それを義人が嗅いでいる。それに彼女は、快感を覚えるのだ。
ばびッ!! ばびぶぅぅぶうぅうぅぅうッッ!!!!
「もがががぁあぁああーーぁああッッ!!!!!」
「くすっ、ちゃんと嗅いでますぅ〜?」
「へ、へぎッへぎぃぃいいッッ!!!!」
「んー、もうちょっと出るかもぉ。えいっ☆」
ぶりぶりぶりッ!!! ぶっすぅううぅうううーーーぅううううッッ!!!!
「ほぼっばああぁああぁあああぅッッ!!!!」
「くすくすっ、臭いですかぁ? もう『臭い』って言ってもいいですよっ☆」
そう言うと、閑香は少しだけ、尻を浮かせた。口もすべて尻肉でふさがれていた義人に、ほんの少しの自由が与えられる。だが、もちろんそれは閑香が楽しむための自由。彼に与えられたものなど、何もない。いかなる大富豪でも、閑香の尻の下では、虫けらも同然であった。
「ぐ、ぐざい………」
「え?」
「ぐざい、で、ず……、ゆ、許じで……、お願い………」
「許して、ですか?」
「あ、あが……、ごめんなざい…、許じで………」
「くすくすっ」
あまりにも哀れな“神話”となった盗賊の姿を見て、閑香はそれをあざけ笑う。
「許すはずなんて、ないで、しょっ!」
そう言うと、彼女は己の美脚を義人の首に絡め始める。ムチムチとした太腿が義人の首を捕らえ、そのまま絞め上げる。さらに体勢をずらし、自分の桃尻が義人の顔の方を向くように調節した。
彼女がおならを嗅がせるためだけに開発した、変形版ヘッドシザースとでも言うのだろうか。首を絞め上げながら、閑香は体を震わせて笑う。
「ぐ、ぐ、ぐぅ………」
苦しそうに藻掻く義人。首を絞められ、息が出来ないのだ。閑香の大迫力の尻を向けられたまま、太腿で絞められる。恐怖の構図である。
「あ、ごめんなさい、ちょっとキツくしすぎましたか? ちょっと緩めますね」
閑香は僅かに、脚による絞めを緩める。そうなると義人はの体は、嫌でも酸素を確保するために大きく呼吸せざるをえない。絞められたまま、酸欠を防ぐために働く体の本能――
ばっふぅぅううぅううぅ〜〜ぅぅうう〜〜〜うううっっっ!!!!
そこを狙って、特大の屁が放たれる。尻の見事な位置から、義人の顔面に直撃する。
「へぎッいぎぃいぃいいいいぅぅぁああッッ!!!!」
「あんっ、出ちゃいました☆ 苦しいのと臭いの、どっちがいいですかぁ?」
臭いのは嫌だが、首を絞められ続ければ死んでしまう。太腿での首絞めと桃尻からの放屁責め。恵まれた閑香の女性らしいボディを存分に使った、最凶の拷問であった。
「ぐ、ぐ、ぐざい……、おなら、ぐざい……、許しで………」
うわごとのように、途切れ途切れに声を洩らし、許しを乞う。義人は、最早正常な思考ができていなかった。過去に受けた閑香からの放屁責めよりも遙かに強烈な拷問の前に、彼の神経はいかれてしまっていた。
「そんなに臭いの嫌ですか? じゃあ、絞め殺しちゃおっかなぁ☆」
ぎゅううぅ〜〜っ!!
太腿の絞め付けが増す。本気で殺そうという絞め技。息が出来ない。
「ぐ……、あ、あ゙あ゙……ッ、くッ、かは………ッ」
喉を鳴らして、コーコーという音を立てながら苦しそうに呼吸する義人。顔が赤くなり、やがて青くなる。指が震え出す。唇の色が変わる。
哀れな盗賊がまさに虫の息となってきた、ちょうどそこで、閑香は突然絞めを緩めた。
「くはあっ!! ゲホッ! ゲホゲホッ!!」
むせかえらずにはいられない。ようやく気道が確保されたのである。呼吸をせずにはいられない……。
ぼぶうぅぅぅううっっ!!!!
「へぎゃあぁあああッッ!!! ゲホッ! ガハッ!ゲホゲホッ!!!」
重低音の、短めの一発。しかし短くとも、信じられないくらい大きく開かれた閑香の尻穴から出たガスの量は、常人の数倍とも思えた。勿論臭いに関しては、常人の数十倍、いや、数百倍の卵臭……。
「くすくすっ、絞め殺すなんて、そんなつまんないことしませんよ。義人さんには私のおなら、たっぷり味わってもらいますから☆」
「ゲハッ!! ガハッ!! や、やめろ、もう、いや、だッ!!!」
閑香の太腿の間で暴れに暴れる義人。強力な絞めが絶対に外れないと知りながら、それでも藻掻くしかないのだ。ジタバタと、陸に揚げられた魚のように。閑香の絶妙のポイジションに顔を位置取られたその様子は、俎上の鯉とも言える。
「あんまりじたばたしてると、ぎゅーってしちゃいますよ」
その首が、さらにじわじわと、意地悪に絞めあげられる。
「げああッ!! かッ、ぐ、ぐぅ……ッ!!」
「ついでにぶーっともしちゃお☆」
ぶぼおおぉうぅうぉぉ〜〜〜〜ぉぉおううっっ!!!!
「ああがががあああぁああああッッ!!!!!」
一瞬にして、義人の全精神を生臭い“卵”が完全に支配する。それほどの大放屁を、彼女はもう何発放っただろうか。この部屋にやってくる前に、既に少なくとも500人の警備員を殺してきた。その後の、言わば「本番」でこれほどの放屁。今や彼女の腸に溜められているおならは、文字通り無尽蔵であった。いくらでも出るのだ。それを、義人が死なないように調節しながら、慎重に慎重に放りだしている。
もう耐えられない。顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らしながら、“伝説”の盗賊、“神話”級の大富豪は、惨めにも閑香の太腿をタップし、降参を示す。
「ゆ、許して……、ごめんなさい、お願いします……、許してください……、お金も全部返しますから……、もう勘弁してください、お願いします、ガスだけは、ガスだけは――」
ぼぶすうっ!!!
だがそんな必死な懇願も、まるで彼をたしなめるかのような短い轟音によってかき消されてしまう。閑香は義人のプライドを捨てた行動も無視していた。
「へぎ、ぎいぃいえええぇッッ!!! ゆるじでええぇええッッ!!!」
「許しませんよぉ、絶対っ。義人さんは余計なこと言わないで、臭い臭いって叫んで私を楽しませていればいいんですっ!」
そう、義人の命の危険を感じての悲鳴。それも閑香にとっては、何よりも楽しみなものの一つでしかない。1人の男の命は、閑香の遊戯のために弄ばれる。いや、1人どころではない。既にこのビルにいた、義人以外の男550人は、既に彼女の快楽のためにあの世へと送られていっている。
彼女の“遊び”は終わらない。もはやそれは、ただの“遊び”。工夫を凝らして義人を責め立て、死ぬほど臭いおならを嗅がせながら、閑香は“遊ぶ”。
「あっ、最悪に臭いのが出そうです☆」
そうやって言葉で弄ぶのも、一つの“遊び方”。
ぶっすうぉおぉおおおぉおおっっ!!!!
「あがあがあああぁぁあッッ!!!!」
言葉通りの最悪さ。何度も何度も、嫌というほど屁をすりつけられた義人だからこそ耐えられる。何も知らない男に突然この一発を嗅がせたならば、すぐに気絶、最悪、死に至るかもしれない。
「まだでますっ、んっ☆」
ぶぶうぶぶううぼぼおぉおおおぉおっっ!!!!
「いぎゃああぁあああぐざいぐざいぐざいいぃぃいぃッッ!!!!」
放屁の大爆音と同じくらいの泣き声で叫び、藻掻く。それを少々鬱陶しいと感じたときは、その太腿でキュッと軽く絞め上げる。
「かッ、は……ッ!!」
「あんまり五月蠅いと、しつこいですよぉ。ほぉら、次でラスト一発ですっ☆」
びぶぶびびいぃぃぃいぃーーぃいいっっ!!!!
「ごえええぇえぇーーぇええあああぁあッッ!!!!」
「くすくすっ、超臭ぁいっ!! あれ? あ、ごめんなさい、まだ出ました☆」
ぶびびぶびびぃぃいーぃぃいーーーぃいっっ!!!! ぶぴっ!!!
「や、ぐざあぁぁあああぁあッッ!!!!」
これでラストと言っておきながら、安心させておきながら――、屁は、とまらない。終わらない。不意をついて、いかに良い声で鳴かせようか。そればかりが閑香の楽しみであった。
「んん〜っ、くすっ、止まんないや☆」
ぶっ!! ぶりっ!! ぶぴぶぶぴっ!!
ぶっすぅぅううっっ!!!!
「やだあああぁあぁああもうやだあぁぁあああッッ!!!!」
「すっごい連発出ましたねぇっ☆ 臭いですか?臭いですかぁ?」
「ひ、ひぎ、ぎぃい、ひぃ……、ひぃ………、あぐ……」
「元気なくなってきちゃいました?」
「……ひぃ、こ、殺して………」
彼の口から、その言葉が洩れた。
「え?」
「ころして……、もうひと思いに…殺してください……、お願いします………」
苦悶に満ちた表情。
自ら死を選ぶほどの苦痛。
本当に、早く死にたい。死ねばこの臭いから解放されるのならば。早く死んで楽になりたい。
“伝説”の盗賊の口からこんな言葉が発せられるとは。
しかも、若い女におならを嗅がせられながら、「殺して」と口にするとは。
「……くすっ☆」
ぶっすびびぃぃいぃいーーぃいいっっ!!!!
「ぎゃあぁあああいやだあぁあああ殺してえぇええぇッッ!!!!」
無慈悲にも、下品な超絶卵っ屁が放たれる。惨い。あまりにも惨い。
「義人さん、もう死にたいぐらい臭いですか? くすっ、だぁめ、まだまだ殺しませんよっ。義人さんがおならでお腹いっぱいになるまで嗅がせてあげます☆」
「そ、そんな……、ごめんなさい、お願いです…殺して……もう……」
「そんなぁ、早いですよぉ。だってまだ始まって1時間も経ってませんよ? 義人さんには、たっぷり5時間ぐらい楽しませてもらわないと困りますぅ」
そう、この地獄の責めでも、彼女の基準では、まだ5分の1も終わってはいなかったのだ。
まだまだ、序の口。
本当の地獄は、ここからだった。
その事実に、整形を繰り返して整えられた義人の表情が、無惨にも歪む。
「ご、ごじかん……そんな…やめ、許して、もう終わりにして……」
「くすくすっ、そういうわけなので次行きますね☆ 次はどうしよっかなぁ〜。すかしっ屁でもしちゃおうかなぁ〜☆」
ぷっしゅぅぅぅううぅ〜〜ぅうぅぅうううぅう〜〜ぅぅうぅううっっっ!!!!
「あっぎゃあぁああっぁああぐざいいよぉぉぉぉおおおお!!!!」
「そうそうその調子ですよ☆」
それはもう、復讐だとか、財宝の脱却だとか、そういう目的ではない。
自分の尻を目の前にして、男が、死にそうで――、それでも死なない。
藻掻き続ける。
藻掻くことしかできない。
「――すっごく良い気持ちです☆」
閑香の満足は、どんな巨額の富を手にしても、買えない。
彼女が満足を手に入れるのは、ただ、思う存分、男におならを嗅がせたときだけ。
100を超える放屁を繰り返しても、まだ満足しない。
男が死ぬまで。男が死んでも。
義人が死ぬまで。義人が死んでも。