久住:キャスティングが決まった段階で、見た人から「五郎のイメージが(松重さんとは)違う」という声が上がるのではないか、と、僕もプロデューサーも、松重さんご本人もとても心配していました。そこでまず、「松重さんが町の中を歩いている」というイメージで曲を作ったんです。それがこちら、松重“五郎”豊のテーマ 「STAY ALONE」(作曲:久住昌之・フクムラサトシ)です。

あの、せっかくですので記事から音楽にリンクを張りたいんですが、そういうことをしてもよろしいですか?

久住:どうぞどうぞ。この記事のBGMにしちゃってください。

松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」
 (作曲:久住昌之・フクムラサトシ)

 で、マンガには音楽がないじゃないですか。「こういう曲が『孤独のグルメ』なんだ」と映像と合わせて聴いてもらえば、松重さんごと、ああ、これが実写ドラマの「孤独のグルメ」の世界なんだ、と納得してもらえるだろうと。2回見て聴いてもらえばもう大丈夫、こちらの世界に引っ張り込める、と考えたわけです。

図に当たりましたね。しかし60曲もいっぺんに作ったんでしょうか。

久住:いえいえ、まずスタジオを借りてメインの3、4曲をみんなで収録して、あとは番組の内容に合わせて、たとえば「最終回は沖縄料理か、じゃ、沖縄っぽく4曲くらい作ろう」といった感じで、ネットでデータをやりとりして作っていきました。

予算とクオリティは比例しない

「孤独のグルメ」は音楽がとても印象的だ、と思っていましたが、ドラマの原作者が内容に合わせて作るんだったら、なるほど納得です。音楽以外の、松重さんの演技も妙に凝った映像の構図も魅力たっぷりでしたが。

久住:(撮影の現場は)とにかく時間がないんですよ。実在のお店の休みの日と営業前の早朝で撮っているので、食事のシーンはすべて一発撮りだそうです。川崎の回(焼肉店)では、たしか松重さんは朝の6時から焼き肉をもりもり食べなければならなかったはずです。

…個人営業のお店で営業時間にロケ、というわけにはいかないからですね。

久住:「深夜食堂」みたいにスタジオ撮りならやり直しも楽にできたんでしょうね。だけど、ドラマ「孤独のグルメ」は、店が狭いとカメラの置き場も照明の立ち位置も無いですし、本番は衣装やメイク、ディレクターも、寒い店外で待ち。そういう悪条件で考え抜いて生まれたものだそうですよ。松重さんは「いい仕事だな、太っただろう、と人から言われるんですが、早朝ロケと緊張感でむしろ痩せました」って言ってました(笑)。

「孤独のグルメ」は、短く説明しようとすると、ちょっとダンディな独身男性、井之頭五郎が、毎回違う町で、食事をする、という、お手軽な「ドラマ仕立ての町ネタ入りグルメ情報番組」みたいに聞こえるんですが…。

孤独のグルメ DVD-BOX 」(テレビ東京、1万1970円)

久住:有名タレントさんがマイク持って、店に行ってアドリブで笑わせながら進める、その手の食べ物番組の対極だと思いますよ、このドラマは。個人情報の問題から、店にいるお客さんもすべてエキストラを仕込んでいるし、照明や撮影もさっき言ったとおりものすごく作り込んでいる。自分の足でお店を探したり交渉したディレクターたち、少ない技術スタッフのあらゆる手伝いをしたADさんたちも大変だったと思います。

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