「これはルールで決まっている事です。それを変えて新たな事をするのなら、まずは政務調査会で議論して、どのくらいお金がかかるかを出さなければならない」
自民党の茂木敏充幹事長(66)が提案した“5000円年金”。党内議論が一切無かったことに、森山裕総務会長代行も小誌にこう不満を洩らさざるを得なかった。
年金生活者への「臨時特別給付金」支給案が浮上したのは3月15日。茂木氏や公明党の石井啓一幹事長らが、岸田文雄首相に申し入れを行ったのだ。
「年金支給額は毎年改定されますが、コロナ禍による賃金下落で、今年4月分から0.4%のマイナス改定に。国民年金なら年約3000円の減額。5000円支給でその分を補うのが目的です。対象は既に10万円の給付金が支払われた住民税非課税世帯を除く、約2600万人とされる」(政治部デスク)
全支給額は約1300億円、さらに事務経費も約700億円にものぼるという。
だがマイナス改定を給付金で補うのは、年金制度のルールを否定するもの。また給付の時期が、7月予定の参議院選挙の直前のため、“選挙目当てのバラマキ”との批判が相次いだ。
実は、首相への申し入れ書には「5000円」などの数字は無く、中身も党内手続きを経たものではなかった。
「数字は党職員が計算しただけで根拠は無い。高市早苗政調会長は政調をすっ飛ばした事に不満を持ち、『がなり声の人(茂木氏)が言ったから仕方ないけど。党内にも怒っている人が大勢いる』と言っている」(同前)
岸田首相側近も証言する。
「事前に官邸に根回しはなかった。与党の偉い人たちが官邸に来たから検討しないわけにはいかないが……」
年金を所管する厚生労働省も困惑気味。年金局の三好圭総務課長が言う。
「厚労省は関与していません。『2600万人』が何に基づいているのか。『年金生活者』といっても、例えば60歳から繰り上げ受給をしているような人も含めるのか、わからないのです」
“モノ言う次官”で知られる財務省の矢野康治氏も「何の話も降りてきてない」と、不満をぶちまけている。
党も官邸も役人も、一様に口を揃えて「聞いてない」と語る“5000円年金”。なぜ茂木氏は突き進んだのか。
「公明党への配慮ですよ」
そう呆れて語るのは自民党関係者だ。背景には、茂木氏の幹事長就任後、公明党の重点選挙区で自民党が公明党候補を推薦する代わりに、一人区で立った自民党候補に公明党が推薦を出す“相互推薦”が、暗礁に乗り上げていたことがある。
「最終的に自民党大会二日前の3月11日、合意に漕ぎつけた。『5000円年金』は、茂木氏が溝を埋めるべく、公明党が喜びそうな政策を先取りした“お詫び手土産”なのです」(同前)
参院選が山場となる茂木氏。最近も周囲に「オレの頭の中の4分の3は選挙だ。公明とは色々あったからさ。雨降って地固まるだ」と豪語している。だが暗雲も垂れ込めていて――。
「岸田首相は『5000円になるかわからない』と述べている。『ポスト岸田』も目指している茂木氏ですが、党内での求心力は低下しそうです」(前出・デスク)
茂木氏を電話で直撃すると、「幹事長室に聞いてください」。幹事長室からも締め切りまでに返答はなかった。
だが批判が集まる中、与党は3月22日に、年金受給者に限らず、幅広い支援策を検討すると発表した。
国民の税金での“手土産”が更に増えるとは……。
source : 週刊文春 2022年3月31日号