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受賞する前に言っておきます。『ドライブ・マイ・カー』が今回、米アカデミー賞で受賞したとしても、それは日本映画の勝利を意味しません。日本映画史に刻まれる快挙に水を差すようですが、実際そうなのです。
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もちろん『ドライブ・マイ・カー』は日本でつくられた作品です。枕ことばにも「日本映画」とつきます。喜ばしいニュースとして、弊紙を含め報じているのも事実。しかし、今作は日本映画を代表しているわけではありません。むしろ、今回のノミネートは日本映画の「敗北」が明るみに出た事態と言えます。
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まず、誰もが知る大手映画会社は『ドライブ・マイ・カー』の製作にも配給にも入っていません。過去、監督賞にノミネートされた黒澤明監督の「乱」にも、外国語映画賞をとった滝田洋二郎監督の「おくりびと」にも少なからず製作に関与していました。配給も同じく大手でした。
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しかし、『ドライブ』は中規模の映画製作・配給会社であるビターズ・エンドを中心に作られています。聞くところでは、予算は1億数千万円ほど。日本映画ではそこそこの額ですが、海外の映画人からは笑われるレベルです。
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欧州で評価される若手の監督が、ある作品に1億円近くの予算がついたことを海外映画祭の場で他の監督に誇ったところ「冗談だろ」と笑われたという逸話があります。それはフランスなら、映画学校を卒業したばかりの新人の自主映画レベルだというのです。日本の映画界とは、そんな状況なのです。
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邦画界が「代表」としてロサンゼルスに送り出したかというと、それも怪しい。8月の公開から観客を集められず、シネコンをメイン館に始まった興行では、スクリーンがみるみるうちに別の作品に変わっていきました。ロングランになったけれど、アカデミー賞のノミネートまでの興収は3億2千万円ほど。
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その後、ニュースなどになって8億円まで伸ばしていますが、邦画界が盛り上げたというより、よそ様の評価で価値を上げていったというのが正しい。業界全体で盛り上げ、アカデミー賞まで制した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」とは大違いです。
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日本の隣国は90年~00年代に自国の映画を売り出すことに注力しました。そこで海外に発見されたのがホン・サンスやポン・ジュノです。だから、『パラサイト』の栄冠は、そのまま韓国映画の勝利と言えるのでした。かたや日本映画界はどうでしょうか。才能ある作家の才能に頼って何もしませんでした。
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映画評論家の山根貞男が「日本映画の底が抜けた」と言ったは90年代。この頃、映画館の入場者数が底を打ったのですが、それから大手映画会社は自社の安定に汲々となって、才能に出資することはなくなった。この30年、結局はインディペンデントの作品ばかりが海外で話題になってきたわけです。
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『万引き家族』で受賞した是枝裕和監督はカンヌでの受賞後、日本映画界の資本で撮っていません。『真実』はフランス、『ベイビー・ブローカー』は韓国映画です。その次は、ネットフリックスだという。そのことを、「業界」はどう見ているだろうと考えずにはおれません。
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