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飢えてるんだ、僕。 - hamiの小説 - pixiv
飢えてるんだ、僕。 - hamiの小説 - pixiv
4,816文字
飢えてるんだ、僕。
乙骨×同級生女の子
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2021年5月30日 13:41


コンコンコンと、部屋に響いたノックの音。

自室でゆっくりと寛ぎながら携帯を触っていた私は、その音に顔を上げる。 スマホ画面に表示されている時間を確認すれば、22時過ぎ。 こんな時間に、一体誰が何の用事だろう。 高専の寮にいるわけだから、不審者ではないだろうし、見知った誰かだとは思うんだけど。 でも、こんな時間に誰かと会う約束なんてしてないし、スマホにも何も連絡が来ていない。 …急ぎの用事かな?

そんなことを考えながらも、とりあえず立ち上がる。 誰が来ているにしろ、ドアを開ければ分かるはず。 不思議に思いながらもドアに近づき、取っ手を掴んで押し開いてみる。

「どちらさ……ま」

ドアの向こうにいる人物を見た瞬間、言葉が出なくなるのが自分でも分かった。 驚きで何度も瞬きを繰り返す。 そこに立っていたのは、まさか今ここにいるとは思わない人で。

「え、憂太……?」

「うん、ただいま」

にこりと、少し疲れた顔で笑う彼。 いつもの白い制服に、焼けていない白い肌、肩には包まれている刀を背負ったまま。 任務帰り、なのだろうか。 ……いや、でも憂太が帰ってくるのは確か2週間後のはず。 どうして今ここにいるのか。 突然すぎる来訪に、ずっと会いたかったという気持ちよりも、驚きの方が大きくなる。

え、憂太、だよね…? 一瞬幻覚かな?なんて考えるけど、感じる呪力は確かに彼のもの。 最後に会った時より髪が伸びて、なんだか大人っぽくなってはいるけど、紛れもない彼本人。

「確か、帰ってくるの2週間後だったはず…」

「思ってたより早く片付いたんだ。任務終わってそのまま帰って来た」

にこりと笑いながらなんでもない事のように告げる憂太。 確か今回は3ヶ月くらいの長期任務だったはず。 それを2週間も短縮して帰ってくるなんて。 さすがは特級呪術師、レベルが違う。 それに、見た感じ怪我もしてなさそう、良かった。 ほっと息をついて、改めて彼を見る。

3ヶ月ぶり。 ずっと会いたかった。 離れるのは寂しいけど、任務だからわがままは言えなくて。 頑張ってね、気をつけて、と見送ってから随分と経った。 電話で聞く声だけでは足りなくて、早く帰って来ないかなとずっと心待ちにしていた。 だから思いがけない来訪に、思わず胸が締め付けられるくらい嬉しくなるのを感じる。

触れたくて、自然と手を伸ばす。 けど、私のその手をすり抜けて、憂太の腕が私の身体に触れた。 そしてそのまま強く引き寄せられ、掻き抱くようにぎゅっと抱きしめられた。 一瞬の出来事。 気づけば私の身体は、すっぽりと彼のものに覆われている状態。 180センチもある身体が、私に覆い被さるように首筋に顔を埋めている。 はあ、と吐かれた息が首筋に当たり、思わず息を飲む。

完全にオフモードだった私の服装は結構薄着で、彼の体温、感触、すべてをダイレクトに感じてしまう。 だけど憂太は隙間なんてないくらいに強く抱きしめてくるから、触れた所から全部熱が伝わりそうで。 でも、逃げられもしないし、もちろん身動きもとれない。

「……会いたかった」

ため息混じりに告げられる言葉。 その言葉はずしりと心にくるものがあって。 彼の背中にそっと触れ、そのまま抱き締め返してみる。 私も同じ気持ちだよ、と伝えるように。 するとさらに力が強まって、少し苦しいくらいに抱き締めてきた。 彼のそんな行動に、小さく笑いが漏れる。

「私も、ずっとずっと会いたかった」

今まで我慢していた感情が、一気に溢れてくる。 会いたかった、会いたくてたまらなかった。 ずっと手の届かない距離にいた彼が、今はこうして触れられる。 とめどなく溢れてくる気持ちは、抑えることができなくて。

彼の黒髪にそっと触れれば、抱き締める力が少し緩んだ。 そしてそのまま彼の髪を撫でる。 指通りのいい黒髪は、さらりと指をすり抜けていく。 憂太に触れている、触れられるという事実が嬉しくて堪らない。

そう思いながら触れていたら、憂太が私の首筋からゆっくりと顔を上げた。 久しぶりに間近で見る顔に、鼓動が速くなっていくのを感じる。 ゆっくり、まるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで頬を撫でられる。 でも、その優しい手つきにときめいていたのは一瞬で。 彼の瞳がスッと細められたと思ったら、視界いっぱいに広がる憂太の顔。

「…充電させて」

その言葉とともに重ねられる唇。 私の頬に触れていた手はいつの間にか後頭部に回り、もう片方の手は腰に回って、ぐっと引き寄せられる。 久しぶりに感じる柔らかさと、熱。 何度も何度も角度を変えて落とされるそれに、だんだんと漏れる息が熱くなっていく。 薄く目を開けてみれば、熱のこもった瞳で私を見下ろす憂太がいて。 同級生達と接している時の、ぽわぽわとまるでマイナスイオンが出ているような陽だまりの彼は今どこにもいない。 そこにいるのは、獲物を狩る目付きをした獰猛な獣のような人。

長期任務明けは、いつもこの瞳の彼に捕まえられてしまう。 離れていた時間を埋めるように、激しく、貪るように。

「ね、舌出して」

唇が一瞬離れ、全く息の上げてない彼は低く呟く。 優しく問いかけてはいるけど、拒否できない何かが含まれているような気がして、ぞくりとした。 彼の服をぎゅっと握り、言われた通り小さく舌を出せば、満足げに微笑む憂太。 羞恥心なんて、彼に食らい尽くされたかのように今は感じなくて。

すぐにまた塞がる唇。 舌を絡められ、吐息が漏れた。 憂太の舌が、私に熱を落としていく。 舌を絡めて、吸いつかれ、唇を舐められて。 角度を変えて何度も何度も。 息をも奪うような激しいキス。 酸素が上手く回っていないせいか、それとも憂太から与えられる熱のせいなのか、頭がぼうっとする。 聞こえてくるのはお互いの吐息と、漏れてしまう自分の声。 感覚、聴覚が刺激されて、恥ずかしさで身体の熱が上がっていく。

終わりの見えないキスに、次第に身体の力が抜けていく。 縋り付くように彼の服を握れば、腰に回っている憂太の腕が、さらに私を引き寄せる。 まるで、絶対に離さないとでもいうかのように強く。

「ゆう、た…っ、まって」

息も絶え絶えの中、なんとか名前を呼ぶ。 熱で浮かされながらも必死に声を絞り出せば、憂太は一瞬動きを止めた。 ほとんど息が乱れてない彼の姿を確認し、体力の違いをまざまざと見せつけられる。

「……ごめん、今はやめてあげられない」

少し申し訳なさそうな顔をして、私の瞳を覗き込む。 でも、それはほんの一瞬だけで。 すぐにまた顔が近づき、吐息が触れる。 重ねられた唇は、隙間なく私のものを塞ぎ、漏れる息さえも奪うかのようで。 普段の彼からは想像できないほどに貪欲に、余裕なく求められる。 彼から与えられる甘く激しい愛情。 身体を巡る熱のせいか、それとも酸素が上手く回っていないせいか、頭がふわふわしてきて視界が霞む。

やばい、さすがにそう思って憂太の胸をトントンと叩けば、名残惜しそうに少しだけ唇を離してくれた。 ほぼ息が上がっていない憂太と、必死に息を整える私。 彼にもたれかかるように身体を預ければ、そっと顔を覗き込まれた。 瞳が、心配の色と欲望の色で濡れている。

「無理させすぎたかな…?」

「…っ、だいじょうぶ。なんとか…」

「…良かった」

息を整えながらそう告げれば、ほっとしたようににこりと微笑まれた。 優しいその笑顔に思わず胸がときめき、甘い熱が身体を駆け巡る。 ああ、好きだなあ、と改めて思う。

そんなことを考えながら、ぼうっと彼を見つめていれば、再び憂太の顔が近づいてくる。 え、いや、まって……! 慌てて彼の口に手を当てる。 咄嗟の行動。 そんな私の行動を予想していなかった憂太は、ぱちぱちと数回瞬きを繰り返し、少し不満げな色を瞳に映す。 ちょっと可愛い……、けど、だめ、このまま流されるわけには。 私の体力も持たないし…。

「あの、あのね憂太。ちょっと落ち着いて。さすがにここ玄関だし、」

「玄関じゃなきゃ大丈夫?」

「えっ、いや、それは」

私の手の中でもごもごと喋る憂太。 予想してなかった切り返しに、思わず彼の口を覆っている力が緩む。 瞬間、手首を掴まれた。 ゆっくりと彼の口から離され、長い指がするりと滑る。 撫でるように手に触れ、指に触れ、感触を確かめるように指が絡まるのが分かった。 ぎゅっと握られ、じっと見つめられる。 どうしてもダメかな?そう言いたげな顔。 彼は無意識なんだろうけど、今ここでその顔をするのはちょっとずるいと思う。 ……流されそう。

思考を巡らせながら色々と考えていたら、絡まれた指をするりとほどかれ、そのまま彼の口元に持っていかれる。 ちゅっというリップ音。 キザなその行動も、憂太がすると絵になるくらいにかっこいいからずるい。

「………あれだけじゃ、足りない」

「っ……」

「だめ?」

首を傾げて聞いてくる姿は可愛いのに、有無を言わせない感じがするのは気のせいだろうか。 真っ直ぐ見つめられ、視線が逸らせない。 ……これは、うん、もう、どうしようもできない。

どうやっても逃げられないことを悟り、ゆっくりと身体の力を抜く。

「……部屋、上がって」

観念して、彼から視線を外して小さくそう告げる。 …私も、憂太に会いたかったのは事実だし、触れたかったのもほんと。 ずっと待ちわびてたわけだから、断るなんて、このまま追い返すなんてできない。 …というか、身体に残されたままのこの熱は、もうどうしようもない。

そう考えながら自分の手をぎゅっと握った時、突然襲ってきた浮遊感。 足が床から離れる感覚。

「ゆ、憂太……!?」

背中と膝裏に回っている憂太の腕。 気づけば彼に横抱きにされていて。 近づく距離と、広くなった触れる面積、思ったより厚い胸板。 色んなものを同時に感じてしまい、意識せずにはいられない。

どうしていきなりこんな状態に……!? そう思って慌てて憂太を見れば、にっこりと笑っていて。 でも、どこまでも優しいその笑顔とは裏腹に、有無を言わせない何かを感じる。 スタスタと、私を抱いたまま迷いなく歩を進める彼。 どこに向かっているのかなんて、わざわざ聞かなくてもある程度は想像できるけれど。

そして、どこまでもゆっくりと優しく、壊れ物を扱うかのように丁寧に降ろされたのは、やはりベッドの上で。 余計に意識してしまう状況に、鼓動が高鳴るのを感じた。

「…憂、太」

小さく名前を呼べば、彼はゆっくりと私の上に跨る。 ギシッとベッドが軋む音にさえ反応してしまうのは、緊張なのか、もしくは期待なのか。 彼の手が伸びてきて、髪に触れられ、頬に触れられ。 触れてくれる手はとても優しいのに、私を見つめるその瞳は、どこまでも欲望に満ちている。 捕食者のようなそれに、思わず息を飲む。

でもそんな私とは裏腹に、憂太はさらに私との距離を縮める。 さらりと髪を撫でられ、彼は私の耳にそっと唇を寄せた。 吐息がかかるほど近く、そして低く、甘く囁く。

「…飢えてるんだ、僕」

私の耳から唇を離し、スっと目を細めて見つめられる。 獰猛な光を浮かべるその瞳から、逃げられる術はどこにもない。 いや、逃げるなんて選択肢、元から存在しないのだけれど。 本当に、飢えた獣のよう。 先程のキスを思い出し、改めてそう思う。

そして近づく憂太の顔。

私の手に触れる彼の指にそっと自分のものを重ね、ゆっくりと瞳を閉じた。

飢えてるんだ、僕。
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2021年5月30日 13:41
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