Photo:Klaus Vedfelt/gettyimages
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  • 内々定取り消しから1カ月、騒動後からわずか数日で提示された30万円の「解決金」
  • 沈黙を保つVC、“身構える佐々木氏”を擁護するVC
  • 「感情的な報道」「誠意がない」内々定取り消し学生にもさまざまな意見
  • PRのプロが見たBluAgeのミス、求められる「社会との関係性」

2022年度新卒採用において、10月に入ってから47人中21人の内々定を取り消したことで批判にさらされた不動産スタートアップ・BluAge。

11月4日には「弊社新卒採用手続に関するお詫びと対応について」と題したプレスリリースをコーポレートサイトに掲載。

事態の原因について、BluAge代表取締役CEOである佐々木拓輝氏の名義で「選考の最終プロセスの結果によっては内々定を取り消す可能性があることを十分に説明できていなかったことが混乱の原因」「新卒採用2年目の弊社に採用活動・運営における業務経験が浅く、『内々定』という社会通念への認識も不足していた」などと説明。内々定を取り消した21人に対しては「最大限の誠意をもって個別にご対応させていただく為、既に弊社よりお詫びのご連絡を開始している」とした。

既報の通り、BluAgeはDIAMOND SIGNALでも取材し、記事化しているスタートアップだ。本件の事実を確認すべく編集部でも取材を申し込んだが、その対応は疑問の残る内容だった。同社とのやりとり、内々定を取り消された複数の学生、出資するベンチャーキャピタル(VC)、さらにはPR業界関係者などの取材から騒動の本質を探る。

内々定取り消しから1カ月、騒動後からわずか数日で提示された30万円の「解決金」

まずは時系列で経緯をたどろう。BluAgeでは2021年4月から9月にかけて47人に内々定を出した。また内々定者には宅地建物取引士資格試験(宅建)の教材を提供し、資格取得のため勉強するよう提案した。その後、9月28日には内々定者向けに座談会を開催した。

座談会は社長である佐々木氏やCFO/CLOの中村和典氏らが参加しており、「さながら役員面接のような内容」(参加した学生)だったという声もある。この座談会と、座談会前に行われた内々定者向けのアンケートが本当の意味での最終選考──つまり21人の内々定取り消しの判断をする場になった可能性が高い。

翌9月29日にはリード投資家であるAngel Bridgeのほか、NTTファイナンス、ABCドリームベンチャーズなどを引受先とした合計12億円の資金調達を発表。DIAMOND SIGNALでも記事化している。そしてその3日後の10月2日に21人の内々定を取り消した。

騒ぎが本格化したのは10月末のこと。BluAgeの内々定を取り消されたという匿名のTwitterアカウントのツイートに注目が集まった。これに呼応するように、次々に「BluAgeに内々定を取り消された」とするツイートが続いた。

DIAMOND SIGNALでは11月1日に、これまでBluAgeの取材を担当していたライター経由で佐々木氏および同社広報に直接、取材を打診。同社に出資するVC・Coral Capitalからの問い合わせ(詳細は後述)もあったが、最終的に佐々木氏はメールでの問い合せに同意した。だが同日、BluAgeコーポレート統括を名乗る人物から「問い合せにあった(内々定取り消しに関する)SNSの投稿は把握しており、事実関係を調査しているため、ご取材はご勘弁頂いている」として回答を拒否する内容のメールを受け取った。

編集部は佐々木氏らからBluAgeからメールでの回答に応じると言われていたこと、これまで資金調達のニュースなどで同社を取り上げていることから事実確認をする必要があるとして、同日、再度説明を求めて質問を送付した(当初回答期限を11月2日で依頼したが、BluAgeの要望により延長し、11月4日を回答期限とした)。

その翌日である11月2日からの数日間で、BluAgeは内々定を取り消した21人に対してメールで謝罪。合意書へのサインと解決金30万円の支払いをセットで提案した。合意書の内容は本件について今後一切の異議申し立てなどを行わないことや、この合意書の内容および、合意書の存在自体についても口外しないといった内容だ。同様の事例では、解決金として55万円の支払いを命じた福岡高裁の判例もある。だが、合意書の条件自体は特段珍しいものではない。内々定取り消しからは1カ月が経過していたが、Twitterでの騒動から、わずか2、3日でのスピード対応となった。

11月4日、BluAgeは記事冒頭でも触れたプレスリリースをサイト上に掲載。掲載後にBluAgeコーポレート統括からメールがあり、「(プレスリリースに)回答内容の大部分が含まれている」として、それでも必要であれば再度質問を送るようにとの連絡があった。

プレスリリースが編集部の送った質問の回答になっているとは言えない内容だったため追加でも質問を送ったところ、以下のような回答があった。

(1)(内々定者に宅地建物取引士の資格試験のための勉強を強要していたという匿名ツイートに対して)昨年より内々定者全員に資格試験の教材を無償配布しているが、資格取得は個人の裁量に任せている。それ以外の採用プロセスの詳細は公表を差し控える。

(2)(BluAgeで採用した内定者は別企業で勤務するという匿名ツイートに関して)そうした事実はない。

(3)(スタッフ紹介ページでコーポレート統括が一時非表示になったほか、現在も広報などが非表示になっていることについて)コーポレート統括に関しては役職や名前に誤りがあったため一時非表示にしていた。それ以外の運用詳細は公表を差し控える。

(4)(佐々木氏との取材交渉中に取材内容を問い合わせてきたCoral Capitalとの関係について)株主の1社以上の関係はない。

(5)(学生に対して「内々定」の連絡を送ったあとに採用選考プロセスを継続していたことに対して)内々定の「最終選考結果」という意図。

特に(5)の回答など、同社の主張がメールだけでは理解できなかったため、あらためて対面での佐々木氏の取材を申し込んだ。だがコーポレート統括は「口頭では内容が不正確になるため、メールのみで対応する」「(佐々木氏は)本件対応を最優先に全力を尽くしているため取材は一切お受けしない」「質問等への回答は、佐々木も全て目を通して確認を行っている」として佐々木氏の取材を拒否した。

DIAMOND SIGNALではこれまでもBluAgeの取材を対面(ビデオチャット)で実施してきた。資金調達という経営上非常に重要な事項の取材だったにもかかわらず、同社は不正確な内容を口頭で語ってきたとでも言うのだろうか。

沈黙を保つVC、“身構える佐々木氏”を擁護するVC

では本件について、BluAgeへ投資するVCはどう見ているのだろうか。9月に発表した資金調達のリードVCはAngel Bridgeだ。編集部では、11月9日にAngel Bridgeのコーポレートサイトにある問い合わせ窓口から取材を申し込んだが、本記事執筆時点までに同社からの回答はなかった。Angel BridgeメンバーのSNSアカウントも騒動以降、ほとんど沈黙を保ったままだ。なお、一時はコーポレートサイト上にあったBluAgeのインタビュー記事を削除したというツイートも散見されたが、現在は閲覧できる状態だ。

また、前回の資金調達でリードVCを務めたCoral Capitalからは、11月1日にライターから佐々木氏と広報へ取材打診を行っている最中、ライターに対してFacebookメッセンジャーを通じて以下のような連絡があった。

Twitterで話題になっている件でBluAgeの佐々木氏に相談を受けている。背景事情を聞いてTwitterを見ると正しくない情報も拡散されており、そのこともあって佐々木氏が身構えている。どんなニュアンス(の取材)なのか。

VCが投資先スタートアップの広報支援をするのは、重要な施策の1つだ。同時にスタートアップを取材するメディアにとってVCは、取材候補となりえるスタートアップとの接点をつくってくれるキーパーソンの一角であることは間違いない。Coral CapitalはこれまでSNSでの“炎上”を起こしたことこそあれど、広報支援においてもスタートアップから高く評価されてきたVCの1社だ。

ライターに連絡をしたCoral Capitalのキャピタリストはメディア出身。開示しておくと、筆者とも同じメディアで仕事をしていた間柄だ。当時から発注者としてライターとも面識があり、現在でも投資先の紹介や情報交換などを直接行う関係でもある。

だが佐々木氏が取材に応じない中、ライターとの関係性を背景にBluAgeの擁護や取材情報の取得をねらうのは、取材への介入ともとらえられかねない行動ではないか。投資先を守るための行動とは理解しているが、同社はメディアなどの独立した立場ではなく、利害関係者なのだ。またBluAge自身がCoral Capitalを「株主の1社という以上の関係ではない」として、本件における広報代理の役割であることすら否定している。その説明とも矛盾が生じる。

その後、当該キャピタリストから「(平常時に投資先企業に)旧知の記者を紹介するということと、(本騒動においてBluAgeの)広報的コミュニケーションを自ら取るところを混同したのは間違いだった」として謝罪を受けた。だがあらためてCoral Capitalに本件への取材を求めたところ、その回答は「ノーコメント」のみだった。同社のコーポレートサイトでは、BluAgeへの投資実行について紹介した内容の一部が削除されている。

なおTwitter上では、BluAgeの2020年度決算公告にあった新株予約権の額(6900万円)が同社の規模に対して多すぎるのではないかという指摘もあったが、これはCoral Capitalがひな形を公開しているシードスタートアップ向けの資金調達手法「J-KISS」を活用した結果だ。詳細は割愛するが、この新株予約権は次回の資金調達のタイミングで優先株に転換される(9月に発表した資金調達の際だと想定される)。少なくともBluAgeの資本施策を批判する材料にはならない。

「感情的な報道」「誠意がない」内々定取り消し学生にもさまざまな意見

では現状、内々定の取り消しをされた学生たちはどんな状況なのか。その多くは内々定取り消しにショックを受けつつも、解決金を受け取る方向で話を進めているようだ。また10月以降に内定を取得し、それぞれ来春に向けての準備を進めている。

DIAMOND SIGNALでは複数人の学生に話を聞いたが、11月初旬に各種メディアで報じられていた内容に違和感を持つ学生も少なくない。ある学生は、内定者となった学生のことを気づかいつつ、次のように語った。

被害者側の私が言うのもおかしな話ではありますが、一部の学生の声を大々的に取り上げて、感情的な報道になっていると感じています。

内々定の段階では、他社選考もやめるように言われませんでしたし、ほかでも内々定を持っている人は多かったと思います。選考としては、改善点はもちろんあると思いますが、報道されているほどに不適切だったかというと、そうでもない印象です。

宅建の取得は強制されておらず、内々定以降も選考があることは言われていました。一部の学生は(その後の)選考を落ちないものと見ていたのは事実だと思いますが、多くがほかの内々定を持っているか、選考中の面接があったので、スムーズに他社の内定に至っていると思います。大学の友人でも、いままだ就活している学生はたくさんいるので、「新卒採用はもう間に合わない」などの(報道)内容と実態とは異なると思います。

BluAge社は、内々定や内定解禁日などを意識せずに採用活動をしていた印象がありました。内々定というややこしい言葉は使わずにいればよかったのにと思います。

編集部が入手した内々定通知メールには「最終選考結果」という文言が入っていたが、一方で座談会の案内メールには「正式な内定をお出しする判断をするにあたり、(座談会が)必要なプロセス」と説明する文言が入っていた。後者を文字通りに読めば、単なる手続きに関する話とも読めるが、BluAgeとしては選考が続くという意図だったということだろう。この点はBluAgeもプレスリリースで謝罪しており、また学生の中には口頭でも説明を受けたという声もあった。だが別の学生はBluAgeの対応や、座談会が事実上の最終選考だったことに対して、次のように憤りを語る。

内々定取消の連絡には、具体的な理由は何ひとつ記載がありませんでした。

落ち込んでいる時間は一切ないので、メールを受け取った後、即日就活を再開しました。とはいえ、この時期に内定が無く進路の見えない中で生活するのはとてもしんどい日々でした。なんとか無事内定を頂けましたが、この時期では募集を終了している企業もあり、なかなか難しかったです。

9月末には内々定者向けの座談会がありました。座談会なので社長や副社長がいる役員面接のようなものだとは思っておらず、驚きました。当日はある役員の方の態度が威圧的に感じた記憶があります。「座談会という名の役員面接」の時点で(内々定自体が)怪しいと感じましたが、もっと早く感じるべきだったと思います。

その後は謝罪メールや慰謝料関連のメールのみのやり取りですが、何ひとつ誠意を感じられません。「早く終わらせたい」という感情が見えすぎです。

また別の学生は一連のBluAgeに対する報道に懸念して、次のように語った。

10月に内々定の取消しがありました。ショックでしたが、実際は「内々定」と強調されていましたし、「他社を受けてはいけない」とも言われていませんでした。選考プロセスが続いていることも、口頭で言われていた記憶です。

私はほかの内々定ももらっており、ほかの内々定者にも、選考を続けている学生や、他の内々定をもらっている学生も、多かった印象です。

正直、誤った情報が流れ過ぎました。テレビの報道も見ましたが、あまりにも違う事実を前提に報道がされていたので「これで拡散されるのは、正直どうなのかな?」 とも考えてしまいます。

この学生は、今回の騒動で「スタートアップ全般への印象は変わっていない」「過度な報道で自分たち(内々定取り消しの学生)も嫌な気持ちにもなる」とした上で、新卒採用のプロセス自体にも言及した。

BluAgeについてはとても残念ですが、スタートアップは大企業とは違うということを知っておくべきだったと思っています。
それぞれの会社で(内定までの)プロセス等が違って当たり前な部分を、もう少し、全員が認識できるような情報があるべきではないか。自分が内々定取り消しの当事者になって感じました。

PRのプロが見たBluAgeのミス、求められる「社会との関係性」

今回のBluAgeの広報対応を反面教師にして、今後のための学びにしたいと語るのが、企業広報やPR業界関係者だ。ある業界関係者は、内々定取り消しが例え法的には問題ないものであろうと、BluAgeが出したプレスリリースは「問題の本質を見誤っているのか、もしくは意図的に正面から向き合おうとしていないのではないか」と厳しい意見を述べる。

新卒就活において、倫理憲章の観点から入社式のある10月までは「内々定」としか言えないため「内々定≒内定」の認識が一般通念であることは明白です。

それにも関わらず、それを半ば一方的に大量取消しした企業に対する倫理観や誠実さを問う声、「常識はどうなっているのか。学生は被害者じゃないのか」という世間からの非難に対して、「説明不足だった」というのは回答にならないのではないでしょうか。

そんな広報対応の初手で間違えてしまったので、ここから対応をやり直せず、成り行きを見るという判断なのかもしれません。

関係者によると、BluAgeはTwitterで騒動となった直後に外部のPRコンサルタントを招き入れているという。そして佐々木氏が一切回答をせず、コーポレート統括がメールでのみ問合せにのみ対応するという体制を整えた。だが、肝心のプレスリリースの内容が世間に受け入れられなかったことが、SNSなどでの反応において火に油を注ぐ結果になったのではないかと推測する。

また上場企業広報の経験もある業界関係者は、BluAgeのプレスリリースや、その後の対応について「謝罪して沈黙することで、やり過ごそうという意図が見える」としつつ、こう語る。

ネガティブなニュースへの対応は延々と行う必要はありません。これは広報的な観点での原則です。
ですがそれは、最初の打ち手がしっかりできているかどうか次第です。そもそも、(プレスリリースの内容自体が)謝罪になっていないのではないでしょうか。

またあるPR業界関係者は、「普段、投資家や銀行とばかりコミュニケーションを取っていると、どうしても『今あるファクトをどうやって正当性があるように見せるか』という考えにでもなってしまうのでしょうか」と皮肉を言いつつ、広報のあり方を以下のように提案した。

PRの基本観念は「社会といかに良好な関係を築くか」です。法的なルールを守っていたかどうかだけではなく、社会を構成する一員かつ公器としてあるべき企業として、その振る舞いがどうなのかというのがポイントです。
それは(法的に)「正しい」「正しくない」ではなくて、文字通りにパブリックとのリレーションズをどう作るかという話なのではないでしょうか。

今回の騒動で直接影響があるのは、内々定を取り消された学生、内定者、そしてBluAgeの社員や経営陣、投資家らに限られるかも知れない。だがスタートアップをはじめとする新産業領域の企業が社会的にも認知されはじめ、新卒での就職活動においても、多くの学生が興味を持つまでになっている。その結果、今回の騒動がこれまでBluAgeを取り上げてきたメディアだけでなく、広くマスメディアやSNSを広く席巻する話題になったことは間違いない。

スタートアップにも社会との対話が求められるようになりつつある。失敗を越えて挑戦を続けなければならない。ならばBluAgeの経営陣は、自らの口で語るべき時なのではないか。