ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか   作:まだだ狂

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作者の欲望を綴った今作の閲覧、評価、および感想本当にありがとうございます。

一話を投稿した時には色が付くとは思っていなかった評価バーも、赤色と言う誠に喜ばしい評価を頂きました。投票してくださった皆様、ありがとうございます。

更に感想なども頂いて、読者の皆様には感謝しかありません。

そんな作者は喜びのあまり、今話を書き上げてしまいました。

これでプロローグはお終いです。それに伴い、今作を短編から連載へと変更させて頂きます。

拙い所もあるかもしれませんが、これからも「ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか」をよろしくお願いします!


英雄は進む

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

暗がりの空間(ダンジョン五階層)を支配するのは、少年の荒々しく吐き出される息遣い。そして逆立ちしても勝てないだろう筈だったミノタウロスを打ち破ったベル・クラネルという男の、英雄の威風。

 

「――僕の、勝ちだ」

 

ベル・クラネルが勝利を前にはじめて零した言葉は、勝つことの出来た歓喜ではなく、生き残れたことへの感慨でもなく、平々凡々とした現状の確認だった。

 

――まるでこれは予定調和と言わんばかりに。英雄譚の始まりに過ぎないとベルは言外に告げているのだ。

 

「強かった。けど、それだけだ…」

 

たしかに相対したミノタウロスは今まで出会った中でも一番の強敵だった、とベルは理解している。だが、それは己が負ける理由にはなり得ない。

 

信念すら持たぬ獣風情にベル・クラネルの心は打ち砕けない。

 

――そうだ。立ち上がれるのであれば、まだ負けじゃない。弱いのであればこの一瞬で成長すればいい。心が屈せぬ限り勝利はこの手にある。

 

諦めない限り必ず勝利できるという持論をただベルは証明しただけで。

 

――ここはまだ通過点にの一つに過ぎないと、少年は再び前を向きひたすら進む。

 

「こんな所で、ぐっ…!足踏みなんて、していられない…」

 

ベル・クラネルに敗北は許されないから。ベル・クラネルは勝利し続けると誓ったから。英雄になると願ったから。

 

だからこそ、諦めるという文字はベル・クラネルの辞書には存在しない。

 

「ガハッ!…はぁ…はぁ。ハハッ…さすがにキツイ、かな?」

 

左腕が無残にも捻じ曲がり、肋骨やあばら骨の多くが砕かれ、右腕にいたっては壊死寸前で、魔法の行使により精神枯渇(マインド・ゼロ)になろうともベルは気合と根性で踏ん張って立ち上がる。

 

ミノタウロスは倒したが、ここはまだダンジョンの中なのだ。魔法の余波で壁などが抉れたり破壊されているから、すぐモンスターは出現しないだろうが、それも時間の問題だ。

 

油断はできない、どこまでいってもダンジョンは人間の命を奪おうと魑魅魍魎が蠢く坩堝の中なのだから。休んでいる暇などベルには無い。

 

「…もう少し魔石を、集めたかったけど。今日はもう、帰ろう…」

 

瀕死の重体を負いながらもまだ戦うつもりでいたベルだが、この傷ではさすがに無理だと悟ったのかフラフラと足を引きずりながら来た道を引き返そうとする。

 

その時だった。

 

「ぐ…ぅ…」

 

鈍い痛みが全身に走り、熱湯を浴びたように頭がクラクラして意識が沸騰する。肉体すべてが警報を鳴らし、ベルの意識を強制的にシャットダウンしようと働きかける。

 

ミノタウロスとの戦いでベルは限界を二重、三重と突破してきた。無茶に無茶を重ねたベルの肉体は、奇跡的に原形を留めているに過ぎない。

 

傍から見たらベルは何故生きているのか不思議な位の重体で、死んでいてもおかしくない。あまつさえ気合と根性の精神論だけで今も立ち上がっているというではないか。

 

――倒れていないベルが常軌を逸し過ぎていたのだ。

 

だからこれは当然の帰結。本来訪れるべき少年の末路。

 

(倒れる…!)

 

ベルが気付いた時には、すでに身体は斜めを向いていた。踏ん張る気力すら残っていないベルは、そのまま重力に従って崩れ落ちるが。

 

地面にぶつかることは無く、温かく柔らかな感触に包まれた。

 

「…大丈夫ですか?」

 

ベルの耳に少女の声が聞こえた。精霊のような可憐な声が。

 

「え…?」

 

朦朧とした意識の中、ベルはゆっくりと首を後ろへ向ける。

 

牛の怪物を討伐し次にベルの前に現れたのは、女神と見紛うような、美しい少女だった。

 

その瞬間、「大丈夫じゃない。全然大丈夫ではない」と。ベルの心に新たな業火が()べられる。

 

(【剣姫】…アイズ・ヴァレンシュタイン…!!)

 

ベルは彼女を知っている。Lv.1の冒険者であるベルだろうと、その名声をしっかりと耳にしている。

 

【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者であり、女性の中でも最強の一角と謳われるLv.5。いずれ己が超えるべき一人であると、ベルが心に刻んだ者だ。

 

そんなアイズが己の肩を抱き、倒れないように優しく支えている。その事実がベルには悔しくて、悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

強くなると、英雄になると願っておきながら、乗り越えるべき少女に支えられなければ立ち上がることさえも出来ない弱い自分にベルは反吐が出そうになる。

 

まだだ!

 

(まだ、僕は一人で立ち上がれる!)

 

だからこそ、ベル・クラネルは前を向く。アイズが魔法の言葉だと思ったその言葉を胸の内で叫んで。今味わっている悔しさすらも糧として。

 

――乗り越えるべき存在(アイズ・ヴァレンシュタイン)とは対等でいたい!

 

――守られる『誰か』でありたくない!

 

――例え今は弱くても、強くなって見せると示すんだ!

 

(反省は済んだか?なら踏ん張れよ、ベル・クラネル!ここで立ち上がれないなら男じゃない…!)

 

肉体が、意識が限界を迎えた筈であるベルの心に鋼の意志が迸る。機能を失っていた傷だらけの肉体が息を吹き返し、朦朧としていた汚濁のような意識はその鮮明さを取り戻す。

 

ベルだって分かっている。相手はLv.5の冒険者であり、自分は駆け出しのLv.1。その強さは比べるまでもなく、アイズに肩を貸してもらう程度に何を悔しがっていると、思うかもしれない。

 

それでも、ベルは一人で立ち上がりたかった。己は前へと進めるのだと、この程度では倒れないと。

 

――アイズ・ヴァレンシュタインに伝えたかった。

 

(そうだ!強がりでもいいからいうんだよ…!口を動かせ!さあ!さあ!!)

 

「…肩を貸して頂いて、ありがとうございます…。でも、でも僕は〝大丈夫〟、です!」

 

消えていた四肢の感覚が蘇り、ふらついていた両足はしっかりとした足跡を辿りはじめる。ベルの身体を包んでいた柔らかな温もりは離れていき…

 

「あ…」

 

静かに一度、アイズに向けて頭を下げると、ベルはゆっくりとダンジョンの道を帰って行く。その速度は緩やかなものであったが、しっかりとした歩みでもあった。

 

――そんなベルの後姿を、英雄の進む道を、アイズは静かに見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…名前、聞き忘れた…」




作者の予想を上回るアンケートへの投票、ありがとうございました!

結果、ベル君以外の視点が欲しいという多くの解答を頂いたので、時々ではありますが、二話に投稿したアイズ視点のような感じで書いていきたいと思います。

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