ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか   作:まだだ狂

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ベル君+「まだだ」=今作品


序章 英雄譚の幕は上がった
ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか


「オオオオオオオォォッーー!」

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

静寂に包まれていた暗がりの空間に、突如としてふたつの叫び声が雷のように轟いた。

 

ここは冒険者の集う都市、名をオラリオ。その中心に存在する迷宮(ダンジョン)の5階層だ。

 

対峙しているのは白髪赤目の少年と、本来であればこの階層には出現しないはずのモンスター『ミノタウロス』。

 

「速い…!」

 

筋肉隆々なミノタウロスから放たれた鋭い拳。

 

対峙した当初は躱す事が出来ていた拳の動きも、直撃すれば命すら奪われかねない状況下による極度の集中とそれによる疲労によって、少年の動きが鈍りはじめた。

 

「ぐ、身体が…!」

 

少年は体に重しを付けられたような疲弊感から動きが鈍り回避する機会を失う。

 

鋭く風を切る音が空間に響きわたり、そのままミノタウロスの拳は少年の腹部へと勢いよくめり込んだ。

 

「ガ!……ゴホッ!ゴホッ!」

 

会心の一撃を受け塵のように吹き飛んでいく少年は、受身を取れず肩や足などを何度も地面に強く打ち付けながら転がり続ける。その勢いが収まる様子はまるで無く、壁を粉砕し埋もれるように衝突したことでようやく止まることを許された。

 

「う…あ…」

 

ミノタウロスと戦い続けた少年はすでに傷だらけの満身創痍。着ていたであろう服は無惨に破れ去り、身体のそこかしこに酷い打撲痕が刻まれている様は実に痛々しい。

 

大切に使っていただろう短剣も、刀身はボロボロに欠けていてもはや武器として機能していない。

 

『ヴゥ…』

 

それに比べてミノタウロスは傷一つとしてついていない。まったくの無傷だ。この戦いは誰がどう見ても少年の劣勢だった。

 

それもその筈。

 

元々ミノタウロスは中層と呼ばれるLv.2の冒険者が踏み入れる階層に出現するモンスターであり、冒険者になってまだ日が浅いLv.1の少年(駆け出しの冒険者)が戦っていい相手(モンスター)では決してない。

 

寧ろ遭遇(エンカウント)したにもかかわらず、いまだに足掻き続けていられる少年の方が異常であり、奇跡なのだから。

 

『ヴヴォ……』

 

吹き飛んだ先で少年の気配が消えたのを理解し、ミノタウロスは心の内で安堵していた。右手に感じたのは命を奪った確かな手応え。己の前で猛威を振るったあのバケモノども(ロキ・ファミリア)とは違う、本当の人間(狩るべき獲物)を殺せたのだ。

 

心の中を支配していた恐怖はこの瞬間に得た高揚に塗りつぶされ、意気揚々と次の獲物を探す為にミノタウロスは辺りを見渡す。

 

――そうだ、人間など己の拳一つで吹き飛ぶような脆弱な存在なのだ。

 

――自分の感じた恐怖を、次は人間に与えなければいけない。

 

もうミノタウロスの頭の中には、さきほどまで戦っていた少年の記憶など一切として残されていなかった。

 

しかし……

 

「まだだ…」

 

ミノタウロスの耳に少年の声が響いた。小さく呟くほどでありながら決して揺るがぬ強さを携えた、少年の声が。

 

「まだだ!!」

 

ダンジョンの5階層に少年の声が轟いた。喉が引き裂かれんほどの怒号と、覚悟に満ちた瞳を(ミノタウロス)へと向けて、少年が立ち上がった。

 

少年の額からは血が流れ、左腕は有り得ぬ方向へとねじ曲がっている。なのにどうして立ち上がることが出来るのか、ミノタウロスには不思議でならない。

 

ミノタウロス()はすでに次の獲物を探していた。この少年はただ死んだ振りをしていれば良かったのだ。息を潜めてさえいれば、自分の命は助かった筈なのに。

 

『死にたがっているのか?』とミノタウロスは考えたが、その答えは間違っているのだと考え直さざるを得なかった。

 

瀕死の状態になって尚、少年の目は、表情は呆れるほどに『諦めていなかった』のだから。「おい、どこへ行く?お前は必ずここで討つ」と魂を燃やし気合いと根性だけで瀕死の肉体を奮い立たせているのだから。

 

「僕が…僕がここで…倒さないと…。あの日のように…もう僕は…誰も失いたくないんだ!」

 

少年の双眸に宿るのは雷火のような嚇怒の怒り。祖父を失ったことで自分の弱さや不甲斐なさを感じた少年は、その日を境に強くなりたいと心の底より願うようになった。

 

(今ここで僕が立ち上がらないと、ミノタウロスは他の冒険者を襲ってしまう…)

 

今少年が立つはダンジョンの5階層。ここでモンスターを狩っている者の多くはLv.1の冒険者であり、ミノタウロスを前に抵抗できるものは限りなく少ない。

 

その事実が、守るべき者のいる現実が、少年の心に鋼の決意を抱かせる。

 

(奪わせはしない!守ってみせる!『誰かの』涙を笑顔に変えたいから、僕は大志を抱くんだ!)

 

震える右手を強く握り、眼前に立ちはだかるミノタウロスを睨み付ける。

 

初めて感じた濃厚な死の気配を前に必要なのは揺るぎなき覚悟。

 

だから今も走馬灯のように脳裏をよぎる優しいあの日の思い出(祖父と過ごした日々)を今はそっと胸に仕舞い、少年は過去を振り返らず我武者羅に前へ進み続ける。

 

――英雄(■の■)になる為に。

 

「神様、ごめんなさい…。使うなって約束、守れそうに無いです!」

 

神様(ヘスティア)から神の恩恵(ファルナ)を刻んで貰った時、少年は一つの魔法を会得していた。

 

魔法というモノに憧れを抱いていた少年は跳び跳ねるように喜んだが、どうやら自分自身に危険を及ぼす可能性があるとして神様にも「いいかい!この魔法は本当に危ないんだ!絶~対に使っちゃダメだからね!」と口酸っぱく魔法の使用を禁じられていたのだ。

 

あの時のことを思い出し申し訳なさそうに俯く少年だったが、次に前を向き見せた凛々しい表情からはすでに後ろめたさなど消え去っていた。

 

紡ぎ出す言葉は弱き過去()との決別。英雄になると誓った少年の願い。

 

――もう誰も失いたくない!守られるだけなんてゴメンだ!

 

――だから僕は強くなって!「誰か」の笑顔を守ってみせる!

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

ゆえに少年が振るう魔法。それは、至高。それは、最強。それは、究極。それ以外に、形容すべき言葉無し。何故ならば、この魔法こそが少年の思い描く憧憬だから。

 

天空神(祖父)から受け継ぐ英雄への憧れが、少年に裁きの雷霆(鋼の意志)を宿らせる。

 

さあ、今こそ邪悪なるモノに裁きの光を齎そう。

 

「ガアアアアアアアア!!」

 

瞬間、雷光が迸る。地面を抉り、壁を粉砕する暴威となって、この空間を支配する。万象の悉くを、そして邪悪を断罪する天神の雷霆(ケラウノス)は、少年の覚悟をもって今此処に顕現した。

 

『ヴ…ヴォ…!』

 

その光景を見て、ミノタウロスの本能が警鐘を鳴らした。「逃げろ」「逃げろ」「今すぐ逃げろ」と。命の危機を強く感じたミノタウロスは本能に従いこの場から逃げようとする。

 

しかし、己の意志に反して身体はまるで石のように動かなかった。少年が見せる余りの気迫と強大な魔力の波動に、竦んでしまったのだ。怯えて震えるミノタウロスの姿は、まるで己の罪が裁かれる時を待つ咎人のようだ。

 

恐怖に慄くミノタウロスを尻目に、肌が焼け爛れるほどの高濃度の魔力が少年の右手に収束していく。Lv.1の少年にとって膨大すぎる魔力は己の肉体に牙を剥き、凄まじい痛みが全身を襲う。

 

神経が焼かれた目からは血の涙を流し、膨大な魔力を一身に受ける右腕はギシギシと軋むような音をあげる。収束し続ける魔力が暴発せぬようにと踏ん張る足は地面に埋もれ、必至に食いしばる歯が砕けるのではというほどだ。

 

想像を絶する苦痛が肉体を襲うが、それでも少年は前を向く。意識が沸騰するほどの痛みを気合いと根性で耐え抜いて、チャージが完了する瞬間を待ち続ける。

 

――そして、ついにその時は訪れる。

 

右手に収束した膨大なる魔力が一片の闇を許さぬ殲滅光(ガンマ・レイ)となってミノタウロスに放たれる。

 

「【天霆の轟く地平に、闇はなく(ガンマ・レイ ケラウノス)】!!」

 

『…ヴ…!』

 

5階層に光が満ちる。少年の右手より放たれた雷光は、瞬く間にミノタウロスを飲み込み…

 

――天霆の轟いた地平に残されたのは、鋼の意志を抱く少年(ベル・クラネル)だけだった。

 




ベル・クラネル

Lv.1

力:H130

耐久:I84

器用:H164

敏捷:H185

魔力:I82

《魔法》

天霆の轟く地平に、闇はなく(ガンマ・レイ ケラウノス)

・集束殲滅魔法。

・雷属性。

・チャージ可能。

・チャージ時間に応じて威力上昇。

《スキル》

英雄誓約(ヴァル・ゼライド)

・早熟する。

意志(おもい)を貫き続ける限り効果持続。

意志(おもい)の強さにより効果向上。

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