ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか   作:まだだ狂

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作者の欲望を綴った今作の閲覧、評価、および感想本当にありがとうございます。

感想は全部しっかりと読んでいますが、返信は作者のメンタル(ガラス)やモチベの関係で出来ず申し訳ありません(>_<)。

ベル君に「まだだ」と言わせたい思いつきの作品ではありますが、続きを所望してくれた方もいるのでモチベが続く限りゆっくり投稿していきたいと思います。

では、どうぞ!


少女から見た景色

「…凄い」

 

白兎の少年(ベル・クラネル)Lv.2のモンスター(ミノタウロス)の戦いをその目に焼き付けているのは、人形のような無垢さを感じさせる金眼金髪の女剣士。

 

彼女の名はアイズ・ヴァレンシュタイン。【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者だ。

 

数多くいる女性冒険者の中でも最強の一角として名を上げられる技量を持つLv.5であり、【剣姫】の二つ名をオラリオ中に轟かせている。

 

アイズたちロキファミリアは【ディアンケヒト・ファミリア】から受けたとある冒険者依頼(クエスト)の撤退時、偶然遭遇(エンカウント)したミノタウロスが彼女達の圧倒的な猛威の前に敵前逃亡し、何と最後の一体は上層にまで駆け上がっていた。

 

Lv.5であるアイズやロキ・ファミリアの仲間にとっては取るに足らない貧弱なモンスターだが、上層で狩りをする冒険者たちにとっては悪夢以外の何者でもない。

 

すぐさまミノタウロスを追うアイズは最後のミノタウロスを狩るべく上層までやってきた。いまだに悲鳴であったり血の跡を見ていないので被害はないと考えるアイズだが、油断はできないとミノタウロスを探し走り出す。

 

そして場面はアイズが呟いた最初の場面に戻る。現実離れした戦いの場へと。

 

「ふっ…!はぁ!」

 

『ヴゥムゥンッ!』

 

今アイズの心を支配するのは「驚愕」の二文字。それ以外に形容できる言葉は無いと、アイズは断言できる。

 

誰がどう見てもLv.1の駆け出し冒険者だとわかる新米の少年が、中層に待ち構えるモンスターが一つミノタウロス相手にたった1人で立ち向かっているのだから。

 

この常軌が逸した光景を見て驚かない人間など恐らく存在しないだろう。

 

――それは超越存在(デウスデア)であっても例外ではない。

 

――寧ろ彼等(神々)は新たな英雄の到来に歓喜し、感涙し、そして喝采するに違いない。神は娯楽を求めてこの大地に降り立ったのだから、英雄譚など至上の娯楽と言える。

 

――しかし神よ、ゆめゆめ忘れるな。彼の守るべき『誰か』を傷つけたのなら、それが例え万能たる超越存在(デウスデア)であろうとベル・クラネルはその暴虐を認めず是正するのだから。

 

――ベル・クラネルは真実、紛れもない〝英雄〟だ。その胸に抱く鋼の意志をもって神すらも断罪し、その屍を乗り越え進むだろう…

 

すぐに助けに入るべきだとアイズは常識から考えて理解しているのだが、どうしてもその一歩を踏み出せずにいる。

 

「オオオオオオオォォッーー!」

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

振るう武器はギルドで販売されているだろう初心者向けの安物で、ミノタウロスを前にした立ち回りも太刀筋もアイズにして見ればあまりに不格好で未熟。

 

アイズの眼前で戦う少年は、端的に言えば弱かった。今も我武者羅に立ち向かえているのは少年の持つ精神性、気合と根性があるからこそだ。

 

助けるべきだ。自分が一歩踏み出せばすぐに終わる。アイズにとってミノタウロスなどもはや【経験値(エクセリア)】にもなり得ない存在なのだから。

 

「…!」

 

しかし少年の身から放たれる鋼のような揺るぎなき意思と、その瞳に宿る憤怒の業火が「この戦いに誰も踏み入るな」と雄弁に語っているから。

 

アイズはただ立ち尽くすしかない。

 

ここは『誰もが笑顔で生きられるように』と願うベル・クラネル(英雄)の舞台であり、『怪物は必ず殺す』と誓ったアイズ・ヴァレンシュタイン(復讐者)の出番は無いのだと言外に告げられているようで。

 

アイズは見守ることしか出来ないのだ。

 

「疾っ…!ふっ…!はぁ…!」

 

『ヴゥォ…?…ヴァムヴォ!!』

 

アイズに見られていることなど知らない少年は、今この瞬間も雷の如き速さで成長し続ける。それは【ステイタス】では図ることの出来ない純粋なる〝技術〟に他ならない。

 

「…成長、してる?」

 

一合、己の刃とミノタウロスの拳をぶつけ合うたびにその動きは鋭さを増し、死線を乗り越えるたびにアイズから見ても拙かった筈である少年の身のこなしは恐ろしい速度で洗練されていく。

 

「はぁ!」

 

守るべき誰かの為に立つベル・クラネルに〝敗北〟の二文字は許されないから。守るべき誰かがいる限りベル・クラネルは〝勝利〟すると誓ったから。

 

少年にとってこの程度(・・・・)の成長は当然のこと。守りたいと願った人々の力となる為にただ只管に進むだけだ。

 

「速い…!」

 

しかし少年がどれだけ強固な意志を持ったとしても、肉体は限界だと悲鳴を鳴らす。「無理だ」「やめろ」と。「止まってくれ」と。少年の抱く鋼の意志に反して、肉体が遥か彼方へと置き去りにされていく。

 

「ぐ、身体が…!」

 

肉体の叫びはこの瞬間に致命的な隙を生み、少年の腹部へとミノタウロスの拳が届いてしまう結果を齎した。

 

「あ…」

 

その光景を見たアイズは夢が覚めるような気分になった。何故自分はすぐ少年を助けなかったのかと、アイズは今になって自分の行動を振り返り自責の念に駆られる。

 

ミノタウロスの拳をモロに受けた少年はあっという間に吹き飛ばされていった。すでに少年は瀕死のような重傷を負っていたのだ、それに加えて今の一撃。

 

恐らく即死。良くて息はしているかもしれないがその可能性はかなり低いだろうとアイズは答えを出した。

 

――だが、そんなアイズの考えは易々と覆されることになる。

 

「まだだ…」

 

「…え?」

 

アイズの耳に少年の声が響いた。幻聴なのではないかと思わず声のする方向を向けば、瓦礫の山からゆっくりと立ち上がる少年の姿が見えた。

 

さきほど以上に酷い傷を幾多もその身に負いながらも尚、少年はミノタウロスを打倒せんが為に立ち上がったのだ。

 

「まだだ!!」

 

聞こえる声に宿るのは、諦めない執念と言うデタラメのような意志力で。揺るぎないその言葉は英雄の覚醒を促す魔法の言葉のようだとアイズは思った。

 

何度も傷つき、血反吐を吐いて、されど決して屈する事の無いその雄姿はアイズにまるで神話に語られる英雄の姿を幻視させる。

 

「僕が…僕がここで…倒さないと…。あの日のように…もう僕は…誰も失いたくないんだ!」

 

それほどまでにアイズの目には、少年の姿が鮮烈に映った。その太陽のような雄姿(ヒカリ)を見つめ続けたら盲目になってしまう未来が容易に想像できるほどに。

 

――何にどうしてこんなにも胸が痛いの…?

 

――こんな痛み、私は知らない…

 

ふと気づいた時、アイズは震える声で今も戦う少年に問いかけていた。

 

「何で、立ち上がれるの…?」

 

「何で、君はそんなに強いの…?」

 

答えが返ってこないと分かっていても、アイズはこの胸から湧き上がる激情を吐露せずにはいられない。

 

復讐心だけを糧に歩んできたアイズにとって、今胸に抱く感情が何なのか理解できない。ただ、叫びたくて仕方が無いことだけはアイズにも分かった。

 

――だから少女は叫ぶ。

 

「何で、何で…!もっと早く!」

 

――それが己の胸の内を明かすことになったとしても。

 

もっと早く英雄(少年)に出会っていれば、とアイズは考えずにはいられなかった。幼き日、誰にも助けてもらえなかったあの時に少年の雄姿を、その手を差し伸べて欲しかったと。

 

アイズは願わずにいられないのだ。

 

たらればの話をしても仕方が無いとアイズは知っていながらも、この想いは目の前の少年には関係ない独りよがりだと分かっていながらも止められない。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

――瞬間、ダンジョンの五階層に雷鳴が轟いた。普段から表情に乏しいアイズの目が驚きのあまり瞠目する。

 

アイズの視線の先には、凄まじい魔力の波動をその身から放つ少年が、ミノタウロスに向けて右腕を突き出していた。

 

――此処に英雄の聖戦譚、その序章は幕を閉じる。

 

少年の抱く願いに揺らぎはなく、どこまでもどこまでも突き抜けていく殲滅光(ガンマ・レイ)こそが少年の在り方なのだとアイズは気付く。

 

「【天霆の轟く地平に、闇はなく(ガンマ・レイ ケラウノス)】!!」

 

5階層に光が満ちる。少年の右手より放たれた雷光は、瞬く間にミノタウロスを飲み込み…

 

――天霆の轟いた地平に残されたのは、鋼の意志を抱く少年(ベル・クラネル)と、復讐を誓う少女(アイズ・ヴァレンシュタイン)だけだった。

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