嵐を呼ぶ魔法科高校生   作:ゆうと00

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第91話「ヘンダーランドに乗り込むゾ」

『首の後ろにチップが貼られてると思うんだけど』

「チップ? あっ、あった」

 

 ピクシーの言われる儘に、手足と首を切り落とされて6つのパーツに分かれた修次の頭を掴んで持ち上げたエリカが、彼女の言われた箇所に1円玉の大きさをしたチップを見つけた。道化師の仮面のようなデザインをしたそれは外見や感触こそ金属で出来た普通のそれに見えるが、魔法師としての本能なのか何者かに見つめられているかのような心地になる。

 レオや幹比古などが引き気味で見つめる中、エリカはピクシーに言われるままそのチップを剥がした。

 

「――うわっ!」

 

 するとその瞬間、バラバラにされながらもピクピクと動いていた修次がその動きを止め、そして風船の空気が抜けるようにシュルシュルと体が縮んでいった。最終的にそれは片手で持てるほどの大きさとなり、そして顔の凹凸や服などの装飾品も消えていき、最終的にデッサン人形のようにシンプルなデザインの人形となって高速道路のアスファルトにポトリと落ちた。

 

「本当に人形だったんだね……」

『マカオとジョマが得意とする魔法の1つで、チップに記録された魂を人形に宿らせてたの。とはいえチップが人形から離れると魂は消滅しちゃって、人形も元の姿に戻っちゃうのだけどね』

「魂が消滅って――」

『あぁ、違う違う。その魂ってのはあくまでオリジナルから複製されたもので、オリジナル本人じゃないから。あの人形に宿っていた魂は、能力こそエリカちゃんのお兄さんの物だけど、そのお兄さんが身につけていた純粋な戦闘技術は反映されてなかったでしょ? それこそ、マカオとジョマによる魂の複製魔法の特徴なの』

 

 ピクシーの説明に、エリカは知らず強張っていた体を弛緩させて大きく息を吐き出した。

 そしてその隣で達也は、如何にも興味を惹かれているような強い眼差しで人形を眼前に掲げて観察していた。先程のチップも横に並べているが、両方とも達也の眼をもってしても普通のそれにしか見えない。

 達也が僅かに目つきを鋭くする中、ピクシーの説明が耳から入ってくる。

 

『んで、その魔法のもう1つ大きな特徴が「オリジナルの魂が存在しなければ複製された魂が能力を発動できない」ってものなの。理屈としては、オリジナルとの間に魔法的な繋がりがあって、それを通して能力が発動しているみたい』

「成程。つまりその魔法は、オリジナルの魂をOS、チップが取り付けられた人形を利用者端末とするシステムコールのような機能をしている、ということだな」

『……えっと、コンピューターのことはよく分からないけど、多分そういうことだと思う。つまり裏を返せば、少なくともチップを剥がすその瞬間までお兄さんの無事は確実だったってわけ』

 

 どうやら彼女の世界にコンピューターは存在しないようで、計算機理論を用いた達也の言葉に苦笑いでそう答えた。ロボットでは再現できないであろう微妙な表情に、達也は多少首を傾げながらも人形観察を再開する。

 一方その近くでは、戦闘に乱入してきたリーナと藤林が対峙していた。

 

「直接顔を合わせるのは初めてかしら? 藤林響子よ、宜しくね」

「初めまして、アンジェリーナ・クドウ・シールズといいます」

 

 藤林は九島烈の孫であり、そしてリーナは烈の弟の孫である。つまり2人ははとこの関係にあるのだが、魔法師はそうそう海外渡航などできないので会うのはこれが初めてとなる。

 だからだろうか、藤林の表情には親戚に向けるような親近感など微塵も無く、彼女を疑っていることを隠そうともしていない。

 

「それにしても()()()()ね。私達が戦っているところにこうしてやって来て、あんな()()()()()で奴を倒すなんて」

「えぇ、本当に。ワタシも友人である彼らを助けることができて良かったです。――もしかしたらこの状況も、()()()()()()かもしれませんね」

 

 含むところの多い藤林の言葉を、リーナは軽くいなして視線を逸らした。

 その視線の先にはしんのすけの姿があり、そして彼はリーナの視線に気づいたのかこちらに顔を向けて近づいてきた。

 

「どうしたの、リーナちゃん?」

「いいえ、何でもないわ。シンちゃん達が無事で良かったって話してたの。――そうですよね、キョーコさん?」

「……えぇ、そうよ」

 

 ニッコリと人当たりの良い笑みを浮かべながら話を振るリーナに、藤林も一旦表情から猜疑心を消して笑ってみせた。

 

「ところでしんちゃん、その子とは仲が良いの?」

「リーナちゃんと? そうだゾ。リーナちゃんはオラの“仲間”ですからな!」

 

 ――仲間? 友人、ではなく?

 

 しんのすけの答えに引っ掛かりを覚えた藤林だが、それを問い質そうと口を開きかけたその瞬間、彼女の携帯端末が震えて着信を知らせてきた。ちょっと失礼するわね、と一言添えて藤林がその場を離れていく。

 そしてそんな彼女の隙を突くように、リーナがしんのすけへと話し掛けてきた。

 

「ねぇシンちゃん、あそこにいる3Hって、もしかして今日学校で話題になってた幽霊の?」

「うん、そうだゾ。トッペマが中に入ってたの」

「トッペマって、ミアの体に宿っていた異世界の魔法使いね。――Hi、トッペマ。ワタシのことは憶えてる?」

『えぇ、もちろん憶えてるわ。ミアは大丈夫?』

「吸血鬼に取り憑かれたってことで検査のために本国に帰ったけど、特に拘束されたりはしてないから安心してちょうだい」

 

 リーナの答えに、ピクシーはホッと胸を撫で下ろした。ロボットの人間臭い仕草にリーナが興味深そうな表情を浮かべるが、すぐに気を取り直して体ごとしんのすけへと向けて問い掛けた。

 

「ところでシンちゃん、こんな時間にみんなと一緒にどこ行くの?」

「トッペマと一緒にヘンダーランドのヘンダー城を見に行くんだゾ」

「ヘンダー城? 何のために?」

「魔力を集めてオカマ魔女がパワーアップするかもしれないんだって」

「オイしんのすけ、何正直に話してんだよ」

「そうよしんちゃん、この女、何を企んでるやら」

 

 レオとエリカがリーナに疑いの眼差しを向けるが、そのような態度を示すのは2人だけではない。彼女がスターズの総隊長で自分を戦略級魔法師だと睨んでいることを知る達也だけでなく、それこそ美月やほのかですら大なり小なり警戒心を露わにしているほどだ。

 まさに四面楚歌といった状況に置かれて尚、リーナの笑顔はまったく揺らがない。

 

「人聞きの悪いことを言わないで、エリカ。ワタシはただ、純粋にシンちゃんのことが心配なだけなんだから」

「ハッ、どうだか」

 

 鼻で笑うエリカを無視して、リーナはさも今思いついたかのように手をパンと叩いてみせた。

 

「そうだ! せっかくこうして出会ったんだし、ワタシもシンちゃんと一緒について行っても良いかしら?」

「おっ? リーナちゃんも?」

「そうそう。さっきみたいに誰かに襲われでもしたら大変でしょ? ワタシだってそれなりに戦えるつもりよ? どう、シンちゃん?」

「確かにリーナちゃんも一緒に来てくれたら、豚に真珠で心強いゾ」

「……もしかして“鬼に金棒”か何かと間違えてない?」

「おぉっ、そうともいう~」

「そうとしか言わないでしょ!」

 

 漫才めいた遣り取りを繰り広げる2人に対し、エリカ達の視線は自然と達也へと向けられた。

 何を訴えているのか理解した達也は、軽く肩を竦めて2人へと歩み寄る。

 

「しんのすけ、どうする?」

「リーナちゃんが行きたいなら、オラは別に良いけど」

「分かった。――リーナ、来るのは構わないが単独行動はしない、いざってときは俺達の指示に従うのを誓えるか?」

「えぇ、それで結構よ」

「ちょっと達也くん、大丈夫なの?」

 

 詰め寄るエリカに、達也は答えなかった。彼女も多少は不満そうな態度を見せるも、達也が反対しなかったからかそれ以上反論することは無かった。

 達也としても、リーナを連れて行くことに思うところはある。だがしんのすけの“主人公補正”が明らかに彼自身をこの事件に関わらせようと動いている中、彼の味方としてやって来たリーナを突っぱねるのは何となく躊躇われたのである。

 

「随分と賑やかね、何の話?」

 

 と、そのタイミングで電話を終えた藤林がこの場に戻ってきた。

 その声に達也が彼女へと視線を向けるが、彼女の表情は電話に出る前と比べて明らかに深刻なものとなっていた。本人は努めて平静を装っているようだが、観察眼に優れた達也を誤魔化せるほどではない。

 しかしそんな彼女の努力もしんのすけ相手には有効なようで、彼は特に疑問に思う様子も無く彼女の質問に答えていた。

 

「リーナちゃんも一緒にヘンダーランドに行きたいんだって。藤林お姉さん、一緒に連れて行っても良い?」

「シールズさんも? ――あなた達も賛成なの?」

 

 達也たちからも特に反論が無いのを確認した藤林は、何やらブツブツと独り言を呟いて、そして何やら納得した様子で小さく頷いて彼らへと向き直った。

 

「みんな、ここから先はヘリに乗って向かうことになったわ」

 

 次の瞬間、微かに聞こえてきたプロペラ音に全員が空を見上げると、こちらに近づいてくる2台のヘリコプターが月明かりで浮かび上がって見えた。まるで彼女の台詞に合わせたかのようなタイミングだが、単純にもうすぐ到着するから連絡してきたのだろう。

 

「ほうほう、今度はアレに乗ってヘンダーランドに向かうというわけですな」

「そういうこと。――それでみんな、本当にヘンダーランドに行くというのね?」

 

 藤林の言葉に、その場にいる全員が頷いた。彼らの目には力強い光が宿っており、藤林の言葉の裏に隠された意味をキチンと理解したうえで頷いていることが分かる。本当に理解してるのか疑わしいのは、しんのすけくらいのものだろう。

 それを確認したうえで、藤林は口を開いた。

 

 

「国防陸軍少尉として、あなた方にお願いしたいことがあります」

 

 

 *         *         *

 

 

「シリウス少佐、ターゲット並びに野原しんのすけと共にヘンダーランドへ向かいました」

「応答は?」

「ありません」

 

 部下の言葉に、ヴァージニア・バランス大佐は大きく息を吐いて肩を落とした。

 彼女達がいるのは、リーナ達から数百メートル離れた高速道路のど真ん中。氷の壁で遮断されたせいで大渋滞に巻き込まれたそのワゴン車は、見た目にはマスコミが使うような中継車に偽装されているが、最新鋭の機材が取り揃えられ、矢面に立つリーナを後方支援する移動中継基地の役割を果たしている。

 その基地に乗っていたリーナが飛び出したのは、今から数分ほど前。スターズ総隊長“シリウス”には単独行動の権限が与えられているためそれ自体は構わないのだが、許容されているからといって何をしても許されるわけではない。

 ましてや、彼らの目の前で戦略級魔法をぶっ放すなど完全に予想外だった。いくらブリオネイクの使用を彼女の自主判断に任せたとはいえ、物事には限度というものがある。しかもその場には日本軍の一員である女性もいたというのだから、バランス大佐の頭は痛くなるばかりである。

 

 ――とはいえ、野原しんのすけの仲間として行動できるという点はかなり大きい。彼女もそれを狙っていたと考えれば、多少の無茶は見逃して釣りが来るほどだが……。

 

 リーナとしんのすけが過去に出会っていた。最初にその事実が判明したときはUSNA軍上層部では大混乱が巻き起こり、本人からその詳細を聞いたはずのリーナが報告を拒否したときは連れ戻して査問会に掛けるべきだという声すら挙がったほどだ。

 結局のところ、しんのすけの“主人公補正”を恐れてその主張もほとんど下火になっているが、たとえこの任務が終わってUSNAに戻ったとしても彼女の置かれる立場は微妙なものになるだろう。

 

 ――そこまでして彼女は、何を隠そうとしているんだ?

 

 

 *         *         *

 

 

 既に閉園時間を過ぎてほとんどの客が帰っているため、ヘンダーランドの駐車場にはほとんど車が残っていなかった。逆に今でも残っている車の持ち主は戻ってきておらず、侵入者のせいで閉じ込められたまま出られなくなっていると思われる。

 しかし園内に続く入口ゲート付近は、それとは対照的にとても賑やかなことになっていた。仮設の照明によって強烈な明かりに包まれ、草色をした数多くの大型車が駐車場の白線を無視して無造作に停められ、白い布で覆われたテントが幾つも建てられている。そうしてテントの間を大人達が忙しなく行き交う光景は、その者達の服装が迷彩柄でなければ街のお祭りでもやっているのかと思うほどの騒々しさだ。

 

 そんな大勢の人々で賑わう駐車場にて、更に騒々しい客がやって来た。喧しいプロペラ音と強烈な風を周囲に撒き散らしながら上空に現れたヘリコプターに、駐車場内を走り回っていた者達が足を止めて空を見上げる。

 そしてその音を待っていたかのように、最も大きなテントから2人の男が外に出た。日焼けや火薬焼けによってなめし皮のような顔をした風間少佐と、相手に警戒感を与えない人当たりの良い笑顔を浮かべる真田大尉が、駐車場に着陸するヘリコプターへと近づいていく。

 そうして2人が視界に捉える中、ヘリコプターのドアが開かれ、

 

「とうっ――!」

 

 勢いよく飛び出したしんのすけが、アスファルトの地面に見事な着地で一番乗りを果たした。思ってもいなかった意外な行動に、風間と真田が驚きで足を止める。

 と、その気配の揺らぎで気づいたのか、しんのすけが2人へと顔を向けた。

 

「やぁやぁお2人さん、出迎えご苦労」

『しんちゃん、その2人偉い人っぽいけど大丈夫?』

 

 胸を張って腰に手を回した如何にも偉い人といったポーズで2人に話し掛けるしんのすけの後ろで、メイド姿の人型家事手伝いロボット・ピクシーが呆れた表情と口調でツッコミを入れる。あまりにも人間と遜色無いその姿に、2人はまた違う意味で驚きを露わにしていた。

 そしてしんのすけとピクシーに続く形で、ゾロゾロと他の搭乗者がドアを潜ってヘリコプターから降りてきた。達也・深雪・エリカ・レオ・幹比古・美月・ほのか・リーナ、そして藤林が駐車場へと下り立ち、藤林は背筋を伸ばして風間と真田へと敬礼する。

 

「国防陸軍少佐、風間玄信(はるのぶ)です」

「同じく大尉の真田繁留(しげる)です。この度はご協力いただき、真に感謝致します」

「うむ、よきにはからえ」

「余計なことは言うな、しんのすけ」

 

 小声でしんのすけを注意する達也に、風間が仕切り直しの意を込めて軽く咳払いした。

 

「特にそちらのアンジェリーナ゠クドウ゠シールズくん、日本国民でないにも拘わらず我々に協力してくれるとは感謝の念に堪えない」

「いえいえ、お気になさらず。ワタシとしても、“親友”のシンちゃんの危機とあれば喜んで協力させていただきます」

 

 優雅な笑みを携えながら“親友”の部分を強調して話すリーナに、横で聞いていたエリカが「うわぁ……」とでも言いたげに引き気味だった。

 そうして一通り遣り取りを終えたタイミングで、若干表情が固い藤林が話を切り出した。

 

「それで隊長、現在の状況についてですが」

「……ふむ、それについては実際に見てもらった方が良いだろう。――着いて早々申し訳ないが、宜しいかな?」

 

 深刻な表情になって尋ねる風間に全員が首肯すると、彼は「こちらへ」と短く告げて自分達が歩いたルートを逆方向へと歩き出した。隣にいた真田も、そして藤林も達也たちを追い越して彼らの隣へと移動する。

 そうしてしんのすけ達を引き連れた風間が、自分達が先程までいたテントを通り過ぎ、入口ゲートへと向かっていった。『ヘンダーランドへようこそ』と書かれたそのゲートはまさしく遊園地のイメージそのもので、タッチパネル式の券売機もその横に見ることができる。

 そしてそのゲートまであと50メートルほどになったとき、先導していた3人の足がピタリと止まった。当然、3人について来ていた達也たちの足も止まる。

 

「…………」

「…………」

「……成程、こういうことですか」

「おっ? どうしたの? 行かないの?」

 

 その場所に留まったまま動こうとしない風間と真田、そして何やら納得したように呟く藤林に、しんのすけが不審な目を向けて問い掛ける。

 そして彼の質問に、真田が至って真面目な表情でこう答えた。

 

「あそこに行かなければいけないのは分かっているんですが、どうにもあそこに行こうという気持ちにならないんです」

「はっ? どういう意味ですか?」

 

 疑問の声をあげるリーナの傍で、真っ先に答えに辿り着いたのは幹比古だった。

 

「人払いの結界ですか」

「おそらくは」

 

 彼の言葉に、風間が頷いた。古式魔法にも似たような効果を持つものがあり、古式魔法の名門出身である幹比古にとってはまったく未知の現象というわけでもない。もっとも、明確な意思を持って進もうとする者すら足止めするほどに強力なものは、幹比古ですら聞いたことが無いのだが。

 

「えぇっ? でもオラは何ともないゾ」

 

 と、風間達を追い越してゲートへと数歩足を進めたしんのすけが、クルリと軽やかに半回転しながらそんな言葉を放った。自分にはまるで影響を感じられないからか、3人に対しての不信感や猜疑心を隠そうともしていない。

 それを見て、他の面々も歩き出した。そしてその全員が3人を追い越して、特に何の問題も無くしんのすけの傍へと辿り着いていく。

 

「うん、ワタシは何ともないわね」

「アタシも」

「俺もだな。本当にそんな結界が張られてるのか疑問に感じるくらいだぜ」

「で、でも、確かに結界らしきものは見えるよ」

 

 冗談めかして結界の存在を疑う言葉を口にするレオに、眼鏡を外した美月が入口ゲートを見つめながらそう言った。

 とはいえ、しんのすけを含む魔法科高校の全員が結界の影響を受けていないのは事実。その結果に、風間達も首を傾げるばかりである。

 

「もしかしたらとは思ったが、結界が適用される者とされない者で何か違いがあるのか……?」

『単純に、術者が選別してるんでしょう』

 

 ピクシーの言葉に、全員の顔がそちらへと向いた。

 

『術者はほぼ間違いなく、マカオとジョマね。多分ヘンダーランド全体を囲むように結界を張って、余計な人間が入らないようにしてるんだと思う。――そしてこれだけの規模の魔法を維持できるということは、ヘンダー城の魔力収集装置は問題無く稼働していたってことでしょうね』

「俺達はその“余計な人間”に含まれていない、ということか?」

『あなた達が選ばれたのは、あなた達自身が理由というよりも“しんちゃんの仲間だから”ってことでしょうね。マカオもジョマもプライドが高くて負けず嫌いなところがあるから、一度してやられてるしんちゃんへの雪辱を狙って誘ってるんじゃないかしら?』

「おぉっ、だったら丁度良いゾ。早く中に入るゾ」

「ま、待って! あなた達だけなんて危険すぎるわ!」

 

 本当に遊びに行く感覚で入口ゲートへ向かおうとするしんのすけを、藤林が慌てて呼び止めた。

 

「隊長、やはり彼らだけで中に入るのは危険です! この結界を解析して解除するまで待つことはできないのですか!?」

「もちろん今も隊員に当たらせているが、結果は芳しくない。これ以上時間を掛けると、中に閉じ込められた客や従業員の安否に関わる」

「……だったらトッペマさん! あなたの力があれば――」

『時間を掛ければできなくはないかもしれない、程度の可能性ならね。それよりは中に入れる人だけでヘンダー城を壊しちゃった方がまだ可能性としては高いんじゃない?』

「だとしても、私達はただ見ているだけなんて――」

「藤林」

 

 風間の呼び掛けは特別大きな声ではなかったが、藤林が思わず口を閉ざすほどには圧が籠もっていた。

 そうして部下を黙らせた風間が、しんのすけ達へと向き直る。

 

「国を守る軍人として、それ以前に1人の大人として、とても情けないことを頼もうとしていることは自覚している。我々としてもできるだけ結界への対処に尽力するつもりだが、園内に取り残された方々のために一刻も早い救助が必要だ。――ぜひとも、君達の力を貸してほしい」

 

 風間は沈痛な面持ちでそう言って、直角に腰を折って頭を下げた。それに合わせて隣に立つ真田、そして迷いを見せていた藤林も同様に頭を下げる。そして周りでその遣り取りを見つめていた部下達も一斉に頭を下げていくことで、大の大人数十人が子供達に頭を下げるという奇妙な光景が出来上がった。

 

「ほいほい、分かったゾ。――それじゃみんな、出発おしんこ~」

 

 するとしんのすけが皆に呼び掛けて、その返事も待たずに入口ゲートに向けて歩き出した。その足取りが速いのは、頭を下げる風間達に居心地を悪くしたのかもしれない。

 そんな彼に、エリカがフッと笑みを漏らした。

 

「まぁ、アタシとしては兄が人質に取られてる以上、千葉家の人間としてただ見てるだけなんて真似はできないしね」

「面白いじゃねぇか。異世界から来たっていう魔法使いの顔、拝ませてもらうぜ」

「現代魔法師とは違う視点があれば、未知の魔法にも対抗できるかもしれない」

「わ、私も、この“眼”があれば何か見えるかも……!」

「私だって、しんちゃんやトッペマの役に立てるのなら……!」

「待ってなさい、吸血鬼の親玉。USNAに喧嘩を売ったこと、後悔させてやるんだから」

 

 次々と自らを奮い立たせる言葉を口にしながら、先に歩くしんのすけへと続いていく。

 深雪は無言のまま風間達にニコリと笑みを向けて、颯爽と皆の後に続く。

 そして残された達也は、3人へと改めて向き直り敬礼をした。

 

「出動します」

「武運を祈る」

 

 短い遣り取りの末、達也もしんのすけ達と合流した。

 9人の少年少女と1体のロボットが、入口ゲートを通過して園内に足を踏み入れた。


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