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ここで問題になるのは、各地のウルトラスを集めて武装民兵をつくったリーダーのアンドリー・ビレツキーの思想である。ビレツキーは、政治団体「社会民族会議」の創設者にして、同じく政治団体の「ウクライナの愛国者」の創設者。それぞれユーロマイダンより前から存在している。そして、それぞれ極右もしくはネオナチ、または白人至上主義団体と西側から認定されている。ビレツキーはマイダンの時は政治テロによる殺人未遂の罪で収監されていたが、マイダン後に恩赦されている。
ビレツキーの思想がどんなものか。彼が活動の目的として公言しているのは、ウクライナが「世界の白人種族の十字軍を率いて、劣等種族と戦うこと」「ウクライナをさらなる拡大に向けて準備し、グローバル資本の支配から白人種族を解放すること」。さらには「白人男性の絶滅につながる性的倒錯と異人種間の接触を禁止すること」である。(注14)
直接アドルフ・ヒトラーを賞賛するような発言はないものの、どうみても白人至上主義者であり、いわゆる「ネオナチ」である。
アゾフの集会に潜入したジェームズ・モンタギューは、アゾフとその政治的フロントである「国民部隊」の旗にまじり様々な露骨な極右のシンボル等を目撃している。ユーロマイダンの時にも、ネオナチや白人至上主義者がハーケンクロイツの代わりにつかう「ウルフフック」や「黒い太陽」と呼ばれるエンブレムや「14/88」という白人至上主義とヒトラー崇拝を意味する暗語のスプレー書きが市街で多数見受けられたという。(注15)
※「14」は、"We must secure the existence of our people and a future for white children."(「我々は我々の存在と白人の子供たちの未来を守る」)という14語の極右スローガンのこと。
「88」は、Hがアルファベットの8番目なことから、”Heil Hitler”(ヒトラー万歳)のこと。
これがロシア側の工作だという声もあった。だが、これまでウクライナの極右をウォッチしてきた人たちはそうは思わなかった。
ジェームス・モンタギューは、国民部隊のメンバーが自分達はたんなる愛国者だといいながら、その膝にはナチスのトーテムコップのタトゥーがあり、彼らのフェイスブックページは、14/88のタトゥーをする裸の国民部隊の男たちの写真が掲載されていたという。
極右はウルトラスの人気に便乗する形で勢力を拡大している。その際には、自分たちが信奉するのは、ファシズムやナチズムではなくナショナリズムだ、単にウクライナという国を愛しているに過ぎないと幾度となくアピールした。
パヴェル・クリメンコ(マイダンの時の民主活動家で、サッカーにおける差別監視団体FAREのメンバー)は、国民部隊を冷静に分析している。
「彼らは自分たちをロビンフッドに見せようとするんだ。しかもウクライナの人々は、ファシズムに関して免疫ができてしまった。リベラル派もいささか鈍感になっていたと思う。リベラル派は(国民部隊のような面々を)、単なる市民活動家と見なすようになっていたからね。結果、こういう連中は誰かを襲撃したり、ロマのキャンプに放火しても、常に『活動家』という曖昧な呼ばれ方をされてしまう。彼らはネオナチとして注視されることもなければ、どうしてロマのキャンプを燃やしたりするのかと問い質されたりもしない」(注16)
しかしここまでならば、欧州やアメリカに跋扈する極右やネオナチ、白人至上主義者団体とそんなに変わらないかもしれない。問題は、彼らと彼らが連帯する極右やネオナチ、白人至上主義団体が、軍や政治の世界に食い込んでいったことである。
(中)は3月24日正午に公開する予定です。
※「論座」では、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関する記事を特集「ウクライナ侵攻」にまとめています。ぜひ、お読みください。
【注】
(1) https://thehill.com/opinion/international/359609-the-reality-of-neo-nazis-in-the-ukraine-is-far-from-kremlin-propaganda?rl=1
(2) https://www.nytimes.com/2015/07/08/world/europe/islamic-battalions-stocked-with-chechens-aid-ukraine-in-war-with-rebels.html?referrer=
https://www.theguardian.com/world/2014/sep/10/azov-far-right-fighters-ukraine-neo-nazis
https://www.bbc.com/news/world-europe-28329329
https://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/ukraine/11025137/Ukraine-crisis-the-neo-Nazi-brigade-fighting-pro-Russian-separatists.html
(3) https://www.hrw.org/report/2016/07/21/you-dont-exist/arbitrary-detentions-enforced-disappearances-and-torture-eastern
(4) https://www.illiberalism.org/far-right-group-made-its-home-in-ukraines-major-western-military-training-hub/
ただし、これについてはアメリカやカナダは、この疑惑を否定している。
デイリービーストは、公式に否定されたとしても、なお疑わしいとも報じている。
https://www.thedailybeast.com/is-america-training-neonazis-in-ukraine
https://www.jpost.com/Diaspora/Wiesenthal-Center-calls-on-French-mayor-to-prevent-neo-Nazi-gathering-440834
(5) https://www.bellingcat.com/news/uk-and-europe/2019/11/11/ukraines-ministry-of-veterans-affairs-embraced-the-far-right-with-consequences-to-the-u-s/
(6) https://www.bellingcat.com/news/uk-and-europe/2019/08/09/yes-its-still-ok-to-call-ukraines-c14-neo-nazi/
(7) https://www.reuters.com/article/us-cohen-ukraine-commentary-idUSKBN1GV2TY
(8) https://www.moj.go.jp/psia/ITH/topics/column_03.html
(9) https://forward.com/opinion/416751/why-does-no-one-care-that-neo-nazis-are-gaining-power-in-ukraine/
(10) 『サッカーと愛国』(イーストプレス2016)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06Y35Y8BQ
(11) https://www.dailymotion.com/video/x17b7u3
(12) https://www.youtube.com/watch?v=kXy3oMWZOE8&t=8s
(13) https://www.youtube.com/watch?v=7IA5GrQKAzc&t=9s
(14) https://www.theguardian.com/world/2018/mar/13/ukraine-far-right-national-militia-takes-law-into-own-hands-neo-nazi-links
https://www.bbc.com/news/world-europe-28329329
(15) https://www.haaretz.com/jewish/.premium-ukrainians-rebut-anti-semitism-talk-1.5327269
(16) 『ULTRASウルトラス世界最凶のゴール裏ジャーニー』(カンゼン2021)
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