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それでもこう考える人はいるだろう。欧州の極右やネオナチの話などよくあることじゃないか。極右やネオナチがいないところなんてないじゃないか。それを取り上げるのはロシアの言い分を肯定してしまうことになってしまうだけではないか。このような反応は日本だけの話ではない。
アメリカでもっとも著名なユダヤ系のニュースメディアである「フォーワード」紙で、調査報道で知られるベリングキャットのスタッフでライターのマイケル・コルボーンも、こうこぼしている。(注9)
ウクライナの極右はたいした問題ではないと数えきれないくらいに言われてきました。
「すべてクレムリンのプロパガンダですよ。その話をすることは、プーチンをアシストすることです。他の国にも極右の問題があるじゃないですか。なぜウクライナだけをとりあげるのですか?」
私はそう言われてきました。
しかしウクライナには極右の問題があり、それはクレムリンのプロパガンダではありません。
こうしてウクライナの極右(ネオナチ)の問題が、単にロシアのプロパガンダとみなされてしまっている。しかし、これが他の国の極右やネオナチの事情とかなり違ったクリティカルな状況だということは、強調しておくべき話なのだ。
これを先に概略として記しておくと、次のようになる。
・ウクライナでは極右・ネオナチと呼ばれる勢力が政権や行政や司法に関与していること。
・その極右勢力が軍事化したのみならず、国軍勢力の中核におり、「世界で唯一ネオナチの民兵が正式に軍隊になった」国であること。
・その様々なセクトが一般人への軍事訓練などを続けながら勢力をウクライナの政治から文化まで拡大しつつあったこと。
・彼らは民主主義的な価値観を肯定しておらず、さらに政権のコントロールを必ずしも受け入れておらず、将来的に民主主義への敵対勢力となる可能性があること。
・世界の極右やネオナチのハブ的存在になっており、ISのように世界的にネットワークを広げて、コントロール不能になることすら考えられること。
・またウクライナの過去のナチス協力をめぐる「歴史修正主義」がウクライナを席巻しており、すでにイスラエルをはじめ、関係する国々から強く批判されていたこと。
アメリカがアフガニスタン紛争のときに、現地のイスラム民族主義者であるタリバンに資金援助して共闘してきたことはよく知られている。ところが、アフガニスタンから当時のソビエト連邦軍が撤退すると、やがてその牙はアメリカに向けられるようになった。皮肉な失敗として知られるこのエピソードを私は思い出さずにはいられない。
もちろん、今はそれを「部屋に象がいる」と、見て見ぬふりをしておくべき時なのかもしれない。このウクライナ戦争がどのような結果になるかは今はわからないからだ。
だが、ウクライナが、欧米の国々のように単にネオナチ思想をもつものが軍隊にいるとか、極右政党が議会に勢力を確保しているというようなレベルではなく、黄色信号を超えた危険水域に達していることを今のうち理解しておくのは悪いことではないはずだ。
以下、このウクライナのネオナチとそれがどのように社会に根をはってしまっているかについて詳述していく。
なお、この論考がプーチンの侵略戦争を支持したり、正当化する目的で書かれていないことも明記しておく。
ウクライナに極右・ネオナチ問題が深刻であったとしても、それを解決するのはただウクライナ国民である。
ウクライナに深刻すぎる極右・ネオナチ問題があるというのはプロパガンダではない。しかし、それを侵略戦争の理由とするのはプロパガンダであるということだ。
以下、本文中の引用や参照先はすべて西側のメディアである。
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