細山田水紀さん(第2回)
先週に引き続き、ぷよぷよシリーズ総合プロデューサー細山田水紀さんのインタビュー、後編をお送りします。「守るだけじゃなくて攻める! ぷよぷよのチャレンジ」について、制作秘話も含めてくわしく伺いました。
イザベラ永野:総合プロデューサーって、ゲーム開発からグッズの監修まで、ぷよぷよに関連することを全部見るわけじゃないですか? これだけマルチに展開しているものをどうやって管理しているんですか?
細山田水紀:ゲーム開発に関しては、企画は自分で書いたり立ち上げから関わり、お客様の手元に届くまで&サービス中もきちんと見ますが、基本的なところはディレクターに任せています。あとは定期的なミーティングで報告をもらって、現場が困っていたら相談に乗るという感じですね。
イザベラ永野:信頼できる開発陣ということですね。
細山田水紀:ただ、自分は企画者のひとりでもあるので、企画段階で完成形をイメージできるよう、重要なタイミングでは相談の上、決め打ちしてある程度の指示は出しています。
イザベラ永野:プロデューサーって、予算管理やラインの確認がおもな仕事で、「これはやってよし」というジャッジをする立場ですよね? ゲームの中身にはあんまり口出ししないんじゃないですか?
細山田水紀:一般的にそういう場合が多いですけれど、僕の場合はそうじゃなくて企画段階から口出しします。『ぷよぷよ』や『ソニック』などの定番ゲームならではの重要なポイントというものがあって、最初のターンで抑えるポイントは明確にしておきたいですし、そのへんの感覚はディレクターもどんどん吸収することで心得ていってくれるので、一から十まで細かく説明しなくても把握してくれてますね。企画段階でイメージしていた完成形が大きくブレるようなことはほぼないです。
イザベラ永野:チームではゲーム開発以外にも、グッズやコラボ企画の監修などの仕事もありますよね。とくにぷよぷよは関連商品がとても多いから管理がたいへんそう。
細山田水紀:それについても、ぷよぷよの監修をする専門のチームがあるんです。彼らが、これまた手を動かす監修チームなので……本来の仕事以上のことをしていますね。
イザベラ永野:手を動かす? そもそも「監修」ってどういうことするのが仕事なんですか?
細山田水紀:本来なら、できたものに対して「これでOK」とか「ここを修正してください」というジャッジをすることが仕事です。ですから、NGのときはたとえば「髪はこの色が正解ですよ」って言葉でアドバイスするくらいなんです。
イザベラ永野:なるほど。
細山田水紀:でも、うちの監修チームの場合、要修正の素材をフォトショップ使ってチャチャって直してから先方に戻したり、UIを作っちゃったり……。言葉では説明しにくいことや期間があまりに短すぎる案件に対して、視覚的に「こういう方向で」とある程度指示出しすることも多く、結果的によりよいものになっていくと感じています。
イザベラ永野:はいはい。それで「手を動かす監修」なんですね。
細山田水紀:これは監修担当に限らないんですけど、そうやっていろいろやってるうちに、「絵を描くだけ」とか「監修だけ」といったひとつの仕事に特化するんじゃなくて、マルチになっていくんですよね。
イザベラ永野:優秀な人たちが集まっているんですね。それも細山田さんの指導のたまものなんじゃないんですか?
細山田水紀:いやいや、僕はなにも教えてないんですけど、世代がかわってもチームに来る人来る人みんなセンスも技術が高く、バランス感覚もよくて優秀なんですよ。恵まれてますよねー。
イザベラ永野:以前にCEDEC(セデック※1)の講演で「ぷよぷよというIP(知的財産)を守っているだけじゃなくて、攻めて行く」といった内容のお話をされていましたよね? 細山田さんにとっての、”チャレンジ”とはどういったことなんでしょう?
細山田水紀:本来アクションパズルの『ぷよぷよ』だけ作っていればいいという考え方もあるんですけど、そこから実現できるアイデアやプラットフォームを広げていくことです。「どうやってパズルゲーム以外でもぷよぷよを売っていくのか?」というところが攻めの部分です。
イザベラ永野:そういう意味では、スマホの『ぷよぷよ!!クエスト』や『ぷよぷよ!!タッチ』もひとつのチャレンジですよね。
細山田水紀:そうですね。あとはゲーム以外でいえば、ドラマCDを発売したことが大きいですね。ドラマCDでしかできない表現もありましたし、話数をたくさん作れば、そこに絵を付けてアニメ化したり、ドラマCDだけでイベント化したりすることもできますよね?
イザベラ永野:ドラマCDでは、ゲームだけでは描けないぷよぷよの世界観を広げることができましたもんね。
細山田水紀:その後も、ぷよぷよを売っていくための作戦会議をマーケティングの担当者や内外の方々とはたびたびしていました。舞台や映画、カフェとか、いろいろなアイデア自体は結構前から出ていたんですよ。
イザベラ永野:そうそう、昨年はスイーツパラダイスで「ぷよクエカフェ」(次回は3月17日(木)よりスイーツパラダイス池袋店で開催予定)もやりましたね。いま、いろんなコラボカフェがありますけど、「ぷよクエカフェ」って、ゲーム×カフェコラボの走りだったんじゃないですか?
細山田水紀:どうでしょう(笑)? 「ぷよクエカフェ」以前にも、当時原宿であったニコニコ本社2Fでの期間限定「ぷよぷよカフェ」もやりましたし、その前にも似たような企画は出てはいたんですよね。
イザベラ永野:やっぱり先取りしてる! メニューも豊富で見ていて楽しかったです。監修がたいへんだったのではないですか?
細山田水紀:監修チームのデザイナーも同行して全国のスイーツパラダイスへ現地調査に行きました。
イザベラ永野:なんで全国を回る必要が?
細山田水紀:「意味あるの?」と会社の一部の方々にもお叱り的なご意見をもらいましたが、店舗を回るのにだって意味があるんです! なにしろ既存の店内デザインや装飾物などを実際目で見て、既存のものから新規のものまでぷよぷよデザインを提案し、お店に来るファンの方やファンじゃない方もどうやったら共存してお店が盛り上がるかを一緒に考えていきました。一部のデザインやメニューについては、アイデアやフォーマットは僕らのチームで作りましたからね。
イザベラ永野:そうだったんですか! カーバンクルのオムライスとかすけとうだらのたらこパスタとか、あれ「ぷよぷよチーム」で考案してたんですか?
細山田水紀:はい。事前に先方とこちらのアイデアを相互に交換しながら、最終的にはスイーツパラダイスさんの本社まで行って、コックさんやその場でジャッジできるえらい方々と一緒に、キャラクターならではのメニューをいろいろと形にしていきました。「時間かけ過ぎ」って言われるんですけど、そうやってこだわらないと完成度が高くならないんです。僕らが「やりたい」って言えば納得できるまで関わります。
イザベラ永野:たしかにどのメニューもキャラの再現性がすばらしく秀逸でした。そういえば、カーバンクルのオムライスの耳の部分はバゲットでできてたじゃないですか? あれ、アークスカフェのリリーパ族のオムライスにも流用されてましたよ。デザイン料請求したほうがいいですよ!
細山田水紀:あはは! それはちょっと~(笑)。
イザベラ永野:冗談です! ごめんなさい。そういうさまざまなチャレンジのなかで、昨年は、ぷよぷよが舞台にもなりました。これもとても大きなチャレンジでしたね。
細山田水紀:あの舞台もドラマCDがなければなかったと思います。ドラマCDを作ったことで、ゲームでは表現できないぷよぷよの世界をある程度イメージできていたので実現できたんですよ。
イザベラ永野:『ぷよぷよオンステージ』の企画は、ずっとまえから温めていたんですか?
細山田水紀:初めて「舞台化したい」と意識したのは2009年頃。その後2013年くらいからぷよぷよのマーケティング担当とも相談しながら、すけとうだらやカーバンクルを作ったり、ドラマCDやヴォーカルトラックスを作り続けたりするなど、舞台につながりそうなものは準備してはいたのです。
イザベラ永野:けっこうまえから構想があったんですね。
細山田水紀:使えるものをある程度作ってはいたけど、舞台そのものの話はすっかり忘れてしまっていました。それが、2015年に入ってから『サクラ大戦』や『PSO2』など、セガの舞台などを手掛けた中山プロデューサーにこっそり呼び出されて、「ぷよぷよ舞台化の話、本気でやりませんか?」と声をかけてもらいました。
イザベラ永野:ええ! 2015年に入ってから? 舞台は5月のゴールデンウイークだったじゃないですか! 本番まで数ヵ月……?
細山田水紀:超特急でしたね。まだキャストも決まっていなかった状況で、話の流れとか「ここで上からぷよが降ってくる」といった演出上のことまで、2月に行った1回のミーティングですべて決めました。
イザベラ永野:ひぇ~! 1回だけで! そういえば、舞台の上からぷよが降ってくるシーンがありましたね。あそこで落ちてくるぷよたちって舞台用にわざわざ作ったんですか?
細山田水紀:はい。落下用のぷよを50個作ったかな? ほんとはゲーム画面に合わせて、6列×13段を2画面分、156個以上のぷよを盛大に落としたかったんですが、さすがにそんなに作ると管理もたいへんだし、予算的にも無理があるんじゃないかなと察していた部分もあって……。
イザベラ永野:な。なるほど(笑)。最初の打ち合わせから本番まで3ヵ月で、キャストの方々は練習時間あったのかしら?
細山田水紀:決まった練習場所はあったのですが、じつはキャスト全員が集まったのを見たのは4月に入ってからです。
イザベラ永野:ギリギリ……。じゃあ、みなさんそれまで個別に練習していたのですか? 時間もないし、たいへんだったでしょうね。
細山田水紀:ものすごくたいへんだったと思います。みなさんそれぞれほかの仕事もされていましたから、代役のかたの演技を動画で撮ったもの見て練習したり……。実際本番でやり終えるまで、どんなステージに仕上がるか僕にもわからなかったんですよ。
イザベラ永野:私も観るまでイメージできなかったけど、すごくよかったです。アルルもアミティもりんごもみんなかわいかった。なかでも『ぷよぷよ』の対戦のシーンが迫力ありましたねー。ゲームの対戦画面と役者の演技がばっちりシンクロしててすごいなと思いました。
細山田水紀:あそこすごかったでしょ? 演者さんは、客席の方を向いてて対戦画面見えないですから、画面とセリフがちょっとでもズレたら台無しになる。秒単位で調整していたと思います。じつは、あのゲーム画面の映像は僕らの方で撮影して、僕も編集してるんですが、すっごくたいへんだったんですよ!
イザベラ永野:やっぱりプロデューサーも自ら手を動かしてる! 映像の対戦はプレイがすごく上手でしたよね。あれってプログラムじゃなくて実際にプレイしたものを撮影したんですか?
細山田水紀:そうです。くまちょむさんという『ぷよぷよ』の上級プレイヤーの方とうちのスタッフが実際に対戦した映像です。舞台での演技にシンクロできるように、脚本にあわせた時間どおりに連鎖させるのを待ってから攻撃するなど、通常の対戦ではあり得ないプレイもしていただきました。
イザベラ永野:そういう無茶な要求に答えられるのがすごいですね。
細山田水紀:ちょっとした罰ゲームですよね(笑)。
イザベラ永野:キャストもスタッフもたいへんな思いをされたんですね。あんな短期間で完成度が高いものができるって奇跡みたい。
細山田水紀:演者さんの中には舞台が初めての方もいましたし、ほかの仕事で多忙な方もたくさんいましたがみなさん非常に熱心にキャラ作りしていただいて、そういうがんばりには感謝しかないです。衣装さんやメイクさん、助手の方々など、舞台に関係するスタッフも最高のチームでした!
イザベラ永野:舞台がうまく行ったのは、言い出しっぺが口を出して手も動かす人だから、みなさんがんばれたんですよ。そういう無茶な仕事がくるのも、それをやりきっちゃう行動力が細山田さんにあるからじゃないでしょうか?
細山田水紀:どうなんでしょう? 自分はドSでドMなのかも?
イザベラ永野:そうしたさまざまなチャレンジが形になったのが、ドラマCDであり舞台でありカフェであるわけですね。
細山田水紀:はい。ですから、内外からぷよぷよに関する使用許可がきたら基本的には前向きに考えてNGにはしません。「どうぞどうぞ」って使っていただきます。「RED BULL 5G」※2で、対戦種目に『ぷよぷよテトリス』を使っていただいてるのもそのひとつです。そうやってぷよぷよのいろいろな面を切り取って見せることで、最終的にはやっぱり多くの方にゲームの『ぷよぷよ』で遊んでほしいなと思っています。
イザベラ永野:うーん……やっぱり細山田さんがいるから、ぷよぷよの世界がこんなに広がったんだと思います。ほかの色にもくっつきながらこれからもぷよがどんどん増えていって、新しいプラットフォームへ進出していくのが楽しみです。
細山田水紀:そうですね。同じ色ばかりでかたまっていたら、ぷよぷよのように消えてなくなっちゃいますもんね。
イザベラ永野:わー、なんかキレイにまとまりました!
細山田水紀:この10年間つねに全力で走ってきましたし、「15周年のときにすべてを出し切った」って思っていたけど、その後も多くの方々のご協力のもと、新しいことに挑戦してこれました。
イザベラ永野:最後に、今後予定しているぷよぷよに関するイベントやニュースがありましたら教えてください。
細山田水紀:ぷよぷよシリーズ25周年ということで、2月25日(木)に放送された「ぷよにこテレビ」でお知らせした内容は「ぷよぷよポータルサイト」に掲載されておりますので、そちらをチェックしてください。現在it-tellsでも「ぷよの日2016キャンペーン」を実施中ですのでぜひご応募ください。
イザベラ永野:応募は3月4日までですよ。みんな急いで!
細山田水紀:また、3月17日~5月15日まで開催予定の「ぷよクエカフェ」や、3月24日発売「ぷよぷよ25周年アニバーサリーブック」、3月12日発売予定「ぷよぷよ カーバンクルTシャツ」や2月から3ヶ月連続リリースの『ドラマCD「ぷよぷよ」Vol.6、7、8』』などは25周年企画の一環なので、ぜひチェックしてください。まだまだ言えないこともたくさんあるのですが、大きなチャレンジも含まれているので、ぜひゆっくりお待ちいただければと思います。
イザベラ永野:わぁ、なんだろう。細山田さん、今回は楽しいお話をありがとうございました。大きなチャレンジ楽しみにしています。
2回にわたってお送りした細山田Pとの対談いかがでしたか? ぷよぷよにはたくさんのグッズがありますが、どれもクオリティーが高いのは、「こだわらないと完成度が高くならない」という細山田さんの言葉がすべてを物語っていると思いました。今回「いったる!」の読者にも、ぷよグッズ(どれも非売品!)をいただきました。詳しくは【『今週もいったる!』出張所】をご覧ください!
現在は手に入らないレアグッズをサイン入りでプレゼント。※カーバンクルたちは、プレゼントではありません。
コンピュータエンターテインメント協会 (CESA) が主催する日本国内最大のゲーム開発者向け技術交流会。
※2 RED BULL 5G
5ジャンル5ゲームで日本一のゲームプレーヤーを決めるレッドブル主催のゲーミングトーナメント大会。東と西に分かれ、東西対抗チーム戦で優勝チームを決める。『ぷよぷよ!!』は2012、2013年、『ぷよぷよテトリス』は2014、2015年のパズル部門の競技種目になっている。
細山田プロデューサーのおもな管理コミュニティ
言わずと知れたセガ公式のコミュニティ。これまでにたくさんのキャンペーンが行なわれてきましたが、今年も2月4日から3月4日まで「ぷよの日」のプレキャン開催中ですよ!ご応募をお忘れなく。細山田Pも副管理人をされていて『ぷよぷよ』に関するニュースをたまに投稿してくれています。