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プーチン「極秘ファイル」

特集 ウクライナ侵攻「罪と罰」

「週刊文春」編集部

PICKUP!

 独裁者プーチンがひた隠しにしてきた“機密情報”。謎に包まれる長女と次女の実像から、側近財閥オリガルヒの正体、外相と愛人の只ならぬ関係、ロシア軍苦戦の理由、そして悪夢のシナリオまで。総力取材で緊急報告する!

 

▶長女は医師次女日本語専攻、来日6回、バツ1
▶ラブロフ外相 元女優の愛人と来日“青山デート”
▶オリガルヒ 癒着で資産30倍、傭兵部隊の資金源

 

 天蓋付きのベッドが置かれた寝室。バスルームは大理石で、トレーニングルームには柔道用の畳が備え付けられている。舞台つきの小劇場に、バーやカジノまで。床面積は約1万8000平方メートルを誇り、建設費は推定1400億円――。

 これは、昨年1月に野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏によって暴かれた“独裁者”が暮らすとされる宮殿だ。

ナワリヌイ氏が公開した文書

 ウクライナ侵攻という世紀の蛮行を引き起こしたプーチン大統領。多くの市民を犠牲にする傍ら、自身や家族、側近からなる“プーチン・ファミリー”は、権力の中枢でどんな生活を送っているのか。その実態は長らく鉄のヴェールに覆われてきた。だが近年、野党指導者の調査などで全容が明らかになりつつある。

 プーチンが決して明かされたくない「極秘ファイル」を紐解いていこう。

 冒頭の“プーチン宮殿”に加え、15年に暗殺された野党指導者ボリス・ネムツォフ氏らの調査報告によれば、プーチンは航空機を43機、ヘリコプター15機、ヨット4隻を所有。高級腕時計のコレクションは11本で、そのうちの1本は世界最高級とされるA.ランゲ&ゾーネのトゥールボグラフ。約2400万円だ。

 かように贅を尽くすプーチン。13年に離婚が公表されたリュドミラ夫人との間には2人の娘がいる。

前妻とプーチン

「長女のマリアはモスクワ大学の基礎医学部を卒業。19年、国営テレビのインタビュー番組に『医学博士』として出演し、自ら経営する小児医療の専門企業について説明した。次女のエカテリーナはサンクトペテルブルク大学で日本語を専攻し、現在はモスクワ大学のAI研究所長を務めています」(時事通信元モスクワ支局長で拓殖大学教授の名越健郎氏)

次女(ダンス大会より)

 04年には揃って東京ディズニーランドや京都の古刹を観光したことが報じられるなど、日本びいきの姉妹。マリアは09年、日本で日本舞踊や習字を習ったこともあった。18年には「週刊新潮」が、マリアが夫や子ども2人をつれて来日し、ディズニーランドや鬼怒川温泉などを訪れたことを報じている。

 エカテリーナについては、小誌が14年6月19日号で極秘来日の様子をキャッチ。アクロバット・ロックンロールというダンス競技の選手で、世界選手権で5位に入賞したこともある彼女は、競技を紹介する代表団の団長として来日。兵庫県の大学で学生に指導をする一方、お台場でショッピングを楽しんでいた。

「彼女は少なくとも6回は来日しています。10年には当時交際していた韓国人男性と北海道旅行。14年1月には原宿で、洋服や靴、レオタードなど200万円分を“爆買い”していました」(外務省関係者)

 長女はオランダ人ビジネスマンと結婚。次女は韓国人男性と別れた後、プーチンのKGB時代の仲間だった人物の息子と結婚したが、数年で離婚してバツ1になった。じつは姉妹の結婚相手には共通点がある。いずれも若くして、国家と密接に関わる企業の要職に就いているのだ。

 マリアの夫はオランダの大学卒業から2年後の06年、ロシアの国営企業「ガスプロム」に職を得てモスクワへ。07年からビジネス開発部門の責任者を務め、15年時点でモスクワの監査法人の代表取締役副社長に収まったとされる。

 エカテリーナの元夫は、キリル・シャマロフ。弱冠26歳で石油化学最大手「シブール」の行政事業担当副社長に。英ロイターの調査では、夫妻の資産は約2400億円。その大半はシャマロフがプーチン側近から取得したシブール株とされ、離婚にあたり折半したと言われている。

愛人も年約11億円の報酬を

 石油やガスといった国策企業に身内を送り込み、財を成す――。これがプーチン・ファミリーの常套手段だ。そしてそれは、血縁者に限ったことではない。

「ロシアでは、“オリガルヒ”と呼ばれる新興財閥の政治的影響力が強いとされる。ウクライナ侵攻を批判するオリガルヒもいますが、多くはプーチンが大統領になる前からの富豪。一方、プーチンの古い知りあいで、彼の権力でオリガルヒにのし上がった人々もいます」(前出・名越氏)

 彼らはプーチン政権下で甘い蜜を吸い、大統領の独裁を支持してきた。それゆえ、欧米の金融制裁の対象になっている人物もいる。

 その代表格が、ゲンナジー・ティムチェンコ。プーチンの旧友で「黒い金庫番」と呼ばれる人物だ。

 ティムチェンコはサンクトペテルブルクの石油精製工場に勤務していた時、同市副市長だったプーチンの知遇を得た。無名の存在だったが、プーチンの大統領就任後、石油取引で大儲け。さらにはエネルギーなどに関わる資産運用を行う民間投資ファンドを立ち上げ、米経済誌「フォーブス」の億万長者ランキング(21年)によれば、資産は約2兆6000億円に及ぶ。

 プーチン政権下で資産を激増させたオリガルヒもいる。プーチンのKGB時代の同僚、ユーリー・コバルチュクだ。ロシアの百大銀行にも入らない地銀だったロシア銀行の最大株主だったが、04年以降、ガスプロムの子会社を破格の安値で次々買収することができた。ロシア銀行の自己資産は04年初頭の約67億ルーブルから、10年には約2300億ルーブルと30倍以上も増加している。

「コバルチュクは全国テレビ網を傘下に収める『ナショナル・メディア・グループ』の総帥でもある。同グループはプーチンの愛人である元体操選手、アリーナ・カバエワが代表を務め、彼女もまた、少なくとも年約11億円の報酬を得ています」(地元記者)

現在の愛人は“新体操の妖精”

 中には、ウクライナ侵攻自体に深く関わる人物もいる。エウゲニー・プリゴジン。高級レストランを経営し、クレムリン御用達のケータリングサービスも運営していることから「プーチンの料理長」の異名を取る。だが、ただの料理人ではない。20年7月、米財務省がこう公表したのだ。

「プリゴジンは、ロシア国防省の代理部隊に指定されている『ワグネル』の背後にいる資金提供者であると考えられている」

「ワグネル」。シリアやリビア、そしてウクライナに傭兵部隊を送り込んでいるとされる民間軍事会社だ。

「今回のウクライナ侵攻でも、ワグネルの傭兵が戦闘に参加していることが確認されている。ウクライナ国防省がフェイスブックで、侵略者の中にワグネルの傭兵のバッジを所持した兵士がいたことを伝えています」(国際部記者)

ロシア軍の戦車が侵攻

 プーチンという絶対権力者に巣食い、その暴挙にも力を貸すオリガルヒ。だが、プーチン政治の“腐敗”はこれに留まらない。

「我々はウクライナを攻撃していない」

 3月10日に開かれたロシアとウクライナの外相会談。会見でこう述べ、国際社会を唖然とさせたのは、セルゲイ・ラブロフ外相だ。国連大使などを経て、04年から18年間にわたり外相を務めている。

「ウクライナ侵攻にあたっては『これはウクライナにおけるアメリカ国防総省の実験。ロシアが戦争を望んだことは一度もない』と述べるなど、プーチンの立場を国際社会に訴えています」(前出・国際部記者)

 日本で長らくカウンターパートを務めたのが、外相時代の岸田文雄首相。酒豪のラブロフとはウォッカや広島の日本酒「賀茂鶴」を酌み交わした仲である。

 このラブロフについて昨年9月、愛人の存在や、彼女を公費で出張に同行させていることが暴かれたのだ。

ラブロフの愛人(映画「The Heritage of Love」より)

「お相手は元女優のスベトラーナ・ポルヤコヴァ。ラブロフには約50年間連れ添う妻がいますが、ポルヤコヴァとは少なくとも00年代初頭から交際。モスクワの高級住宅地にある10億5000万円以上の住居や、ポルシェやベンツなどの高級車を所有しているといいます」(前出・地元記者)

 ナワリヌイ氏のグループは、ポルヤコヴァがラブロフの公用機を使ったフライト記録なども公開。これによれば、19年6月26日の記録には目的地に〈ЯПОНИЯ(日本)〉とある。ちょうど日本ではG20大阪サミットが開かれる直前で、ラブロフもサミットに参加していた。

 じつは、日本も2人のお気に入りの“デートスポット”なのだ。別の外務省関係者が声を潜める。

「通常、海外から要人が来日すると外務省の人間が随行しますが、ラブロフに関してはロシア側から『ここだけは同行しなくていい』と言われる日程が必ずあった。それが、日本好きな愛人と過ごす時間だったのです」

 2人は“お忍びデート”で寿司店を訪れるなど、日本を満喫。さらには、

「港区の青山には、ロシアで“アルミ王”の異名を取るオレグ・デリパスカが使う邸宅があり、そこで愛人と接待を受けることもあったそうです」(同前)

“アルミ王”のデリパスカ

 デリパスカもまた、08年には約3兆円の資産を誇ったオリガルヒだ。青山のほか、静岡県伊東市にも邸宅があるとされる。

「ナワリヌイ氏はラブロフについて、デリパスカのビジネス上の問題を外交手腕で解決するなど『デリパスカの個人的なロビイスト』と称しています。“青山デート”も、ロビー活動の見返りと言えるでしょう」(前出・地元記者)

来日は無期限延期のラブロフ外相

 権力を梃子に贅を極めてきたプーチン・ファミリー。だが、他国への侵攻という最悪の「罪」と、国際社会からの制裁という名の「罰」により、栄耀栄華がいつまで続くかは見通せない。

source : 週刊文春 2022年3月24日号

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