shie_fuyouの備忘録

行き場のない感情を書き留める場所

平澤進よ、平沢進を舞台から降ろせ。ネットをやめさせろ。

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出典:@fukumitsuu 2020年07月12日(日) 11:13:54 バカばい😊



あるいはid:grjtiさんの地獄に落ちろ平沢進を読んだ感想。痛切な願いと失望は自分のことのように思えた。

 

COVID-19の蔓延するこの2年の間に、私は平沢がTwitter上で発信する視座に度々幻滅させられてきた。だが本気でファンを辞めようと思える程の出来事の発端は、2016年11月8日にドナルド・トランプが一般投票で勝利した瞬間からであった。

 

それからというもの、トランプ支持者御用達のSNSであるparlerにアカウントを開設したり、「理解するとかしないとか。ついて来るとか来ないとか、信じるとか信じないとかではなくて、単に世界が変わるだけです」といった、米国右派たるトランプ支持者の中でも極右寄りの態度・言説へ急接近しているのが見て取れた。そして挙げ句の果てに2021年6月4日、Youtubeで動画を削除された”異端者”が流れ着く動画配信プラットフォーム・rumbleにアップロードされている、幼児誘拐とアドレナクロムの関連性について解説する動画の視聴を奨めた時、私の平沢への信頼は地に墜ちた。ああ、この人は本気でQアノンの戯言を信じている。そう理解した瞬間、それまで感じていた違和感についての全ての説明が一陣の風のように脳内を吹き抜けた。

 

それは近作の詩世界に於ける、無意識の世界での他者との繋がり、というユング的アプローチ(分析心理学)についてである。例えば「FUJI ROCK FESTIVAL '19」で披露された『ジャングルベッド1.5』、「会然TREK 2K20△03」で披露された『LOOPING OPPOSITION』の新たな歌詞からはユング的態度が一切見られず、アドラーの主張するようなマッチョな精神論(アドラー心理学)に終始している。言葉というモノを信用ならざる存在と見做し、他者を拒絶し、病的なまでに文脈を解体し、言葉と呼ぶことすら難しい音と音の隙間から垣間見える展望 ―パースペクティブ― によってリスナーとの対話を試みた内省的な時代は過ぎ去り、成熟した壮健な精神から生み直した詩世界であると解釈することも出来よう。だが、私は平沢はユング的態度によって『科学と祈りのはざま』で矛盾する二項対立を統合し続ける人間だと思っていたので、例えば『LOOPING OPPOSITION』の元の歌詞は要約すると『無意識の海に溶けて「わたし」を見つけて』という抽象的なものになるのだが、そこから一転して2K20版では「悪」や「神」という定言的な言葉が飛び出したことに大変な衝撃を受けた。絶望すら感じた。

 

COVID-19の蔓延するこの2年の間、私は平沢進への違和感と幻滅を抱えたまま生きた。「9.11は八百長」と断言した過去。あるいは更に過去、「9.11が陰謀であるという論拠を提示せよ」と指摘された際に示したオウム真理教のファンが運営する掲示板等々。これまでも思想的危うさを垣間見せることに関しては枚挙に暇がなかったので、諸々の発言が行われた際も呆れ半分に「またか」と受け流すようになっていた。古くは中期P-MODEL*1におけるシルバメソッド河合隼雄ユング論といったニューエイジ思想への傾倒。それらが彼の神秘主義的な教祖性を強調させた。

どんなに平沢進の「底」が見えても、ステージ上の平沢は一流の詐欺師だった。

平沢進は「最高のイカサマ師」で、その嘘で俺たちを騙してくれといつも願っていた。*2

もっともrumbleの解説動画への言及があった際に彼のアカウントをミュートしてしまったのだが。それはAdrenochromeは一般的にはアドレノクロムと表記されるべきであり、アドレ"ナ"クロムと表記するのは決まってQアノンにのめり込んだ人間である、という経験則を持っていたからだった。すなわちQアノン界隈の言説というものは、エコーチェンバー現象の中で行われる伝言ゲームでしかなく、誰も一次ソースに当たっていないということの証左であるからだ。

 

Qアノンの実態をwikipediaから引用してみよう。

『「世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉嗜食者の秘密結社が世界を裏で牛耳っており、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄である」という主張が中心的であり、神に遣わされた救世主としてトランプが個人崇拝の対象となっている。Qアノン運動は、一般的にカルト宗教とみなされており、信奉者によって多数の暴力的事件が引き起こされていることから、FBIと欧州刑事警察機構は潜在的なテロ脅威として認識している。この陰謀論の主張は事実無根であり、多数の報道機関や専門家によって反証されているにもかかわらず、アメリカをはじめ世界的に多数の信奉者が存在する。この陰謀論で仮定されている秘密結社は、一般的にディープ・ステート(英: deep state、影の政府)やカバール(英: cabal、直訳で「陰謀団」)と呼ばれている。Qアノン信奉者は「子供の血液からアドレナリンを抽出し、アドレノクロムという向精神薬・若返り薬を合成するという残虐な搾取行為」にハリウッドセレブたちが加担しているという「アドレノクロム陰謀論」を2020年までに吹聴してきた。

 

百万歩譲って影の政府なる世界を裏から操る秘密結社が実在すると仮定しよう。インターネットに接続することは出来るが、主体的に検索エンジンを扱うことが出来ないデジテルディバイド寸前の、情報弱者としか言いようがない人間や、論理的思考力に乏しい人間が易々と見つけられるレベルの証拠を公然と残すだろうか。平沢がこのクソしょうもない非科学的で非論理的な言説の尻馬に乗っかり、しかも自己の感じた認知的不協和というルサンチマン・世界という現象へのフラストレーションをクソしょうもない解釈で解消し、「科学と祈りのはざま」を埋め立ててその先のクソしょうもない、地球は球体ではなく平面であると本気で信じ、恐竜が人型に進化して地下帝国を築き人間に変身して生き血を啜っている、と本気で信じるような連中が多数派の世界へ足を踏み入れてしまっている、と突き付けられたのがあまりに辛かった。だからこそ、中期P-MODEL至上主義者の私の前に提示された、1984年の「SCUBA」から始まる全き人格の回復というユング的態度の消失に絶望したのだと気付いた。

 

しかし人間とは悲しいもので時折タイムラインが荒れると「またか」「今度は何を?」とカリギュラ効果という立派な名前のついた野次馬根性で平沢のアカウントを覗きに行ってしまうのである。そうしてある日の夜、これまで経験したことのない程タイムラインは荒れに荒れ、阿鼻叫喚の地獄の様相を呈していた。絶対に揃って欲しくないと思っていた最後のピースが嵌まってしまったのだった。私が特に問題視するのは下記の発言である。

 

捏造映像や、悲劇のクライシスアクターなどに目もくれず、定点Webカメラを見よう!

ネオナチにせっせと募金するグロテスクな善意たち

知らなかったでは済まない惑星規模の共犯

悲劇の民には二種類いることを知っていましたか?

一般的には一種類という認識ですが、その文脈では全く私の言うことの意味が分かりません

実際に一方(本物)は虐げられた歴史を持っていますね。では虐げたのは誰ですか?

 

"二種類いるが一般的には一種類と認識される悲劇の民"とはアシュケナジムセファルディム、すなわち白人系ユダヤ人と中東系ユダヤ人のことである。しかもユダヤ陰謀論で頻繁に用いられる論法だ。虐げられた歴史とはユダヤ人の歴史的受難や9.11に端を発するアフガン紛争のことであろう。彼の主張を総合すると「白人系ユダヤ人のゼレンスキー大統領の牛耳るネオナチのウクライナという絶対悪に対し、原住民族であるスラブ人の盟主たるプーチン大統領が正義の戦いを行っている。しかも激しい戦闘や悲惨な出来事は、全て捏造映像や負傷した被害者を演ずる役者による茶番である。あなたはその共犯者です」という塩梅になる。

 

支離滅裂だがマッチョなプーチンの主張に無批判に同調し、もはや善悪の判断すら正常に機能していない、この倫理感の欠片もない発言をレイシズムと形容せず、なんと言おうか。反知性主義や行き過ぎた反米主義とユダヤ陰謀論に傾倒するあまり、常軌を逸した非人道的所業が一方的に行われているにも拘らず、茶番であると冷笑する姿勢はどう考えても正気の沙汰ではない。しかもアフガン紛争時に於いては、白人系ユダヤ人の陰謀によって中東系ユダヤ人を虐げる謀略が行われており、その殺戮への抗議と非同意を表明した当事者意識は今や見る影もなく、ましてや北方領土を介して隣国であるにも拘わらず遠い国の他人事として傍観者に徹しているのだ。もはや世界の複雑さの前に想像力と思考力とを放棄してしまったのだろうか。この論理破綻も甚だしいレイシズム剥き出しの態度が、常々主張していた、この世の真実に辿り着くための"世界を二枚剥がす"行いとやらであるのだろうか。この陳腐で、百万遍使い古された、拾い物の言説で、「科学と祈りのはざま」を埋め立ててその先のクソしょうもない世界へ行ってしまったことが、やはりあまりに受け止め難い。己の感じた認知的不協和を喧伝し、フォロワーにも感じさせることで、私憤を公憤に転換する放火魔じみた露悪趣味に興じていることを早く認識して欲しいが、それはきっと叶わないだろう。

 

あまつさえ「本日も311と書かれたカードを、そっと机の下から貴方に私ます」、

店内では、店員も客も、誰一人「奴隷タグ」で身体の一部を覆い隠してはいない。希少な正気空間で束の世界毒のデトックスを」などと並列して言い出すのだから手に負えない。特に後者はライブ開催直前に”自然派”の集まる飲食店に出向き、マスクを奴隷タグと呼んでいることに喫緊の問題がある。公衆衛生が完璧な状態でないと入場できない会場にやってくる観客を、奴隷と見下しながら集金する図式になることに何の違和感も覚えないのだろうか。それともコロナは製薬会社やアメリカ、それらに隷属する日本政府の作り出した茶番と断じる論理的思考力では、問題意識が芽生えないのだろうか。

 

私は平沢進が大好きだった。いや、大好きである。この記事を書きながら聞いているし、ほぼ毎日聞き続けている。自らが世間から偏見の目を向けられたからこそ持ち得ている、少数派に対する暖かい態度が大好きだった。「ボクとキミ」という絶対に埋められない、万能の連立方程式が大好きだった。「科学と祈りのはざま」にある”何か”の実存を訴える姿勢が大好きだった。だが、これらの思想を抱いていた平沢進は死んだ。

 

仲間内では65歳定年説が主流だった。喉を潰すまで歌わなければいけないのかとか、小説家になりたいとか、事あるごとに主張していたからである。果たして彼は歌い続けた。何かを始めることには天賦の才を発揮するのに、終わらせることについては絶望的に下手糞な人間が、一体どうなってしまうのか静観していたら、最悪の結末を迎えてしまった。もし彼が2008年にテレビを捨てた時*3、インターネットも捨てていれば、あるいはオウム真理教のファンが運営する掲示板に入り浸っていなければ、きっと今の正視に耐えない姿はなかっただろう。だが世界への怒りを原動力とする核P-MODELが生まれることもなかった。作品と人格は大原則として不可分なのだ。レイシストと化した平沢進を許すことが出来ない。この憎しみを改めることは今後絶対に出来ないというほど彼の歪んでしまった人格を敵視している。ファンクラブの期限が切れるのでもう更新することは無いだろう。しかし私は今でも作品を愛している。

 

COVID-19は平沢進の孤独を加速させ、インターネットに接する時間を延ばし、エコーチェンバー現象を増幅させた。なんとやるせないことだろうか。もはやファンに出来ることは二次創作によって作者退場状態を作り、平沢進を殺して平澤進*4から作家性を取り上げることしか残されていないのではないか。これまではライブの現場では彼に神性すら感じ、難のある人格を赦せたのだが、今度ばかりは「またか」が通用せず、何なら倫理観の危ういライブを見せられてしまうかもしれない。楽しめるだろうか。いや、おれは腰抜けではない。絶対に楽しんでやる。なぜならここはニュ0MEXICOの荒野なのだ。おれは砂まじりの風を浴びながらドリトスをコロナビールで流し込む真の男なのだ・・*5

 

追記:青海符さんにより、平沢進陰謀論の歴史をより深く検証した記事が書かれた。
自分はユダヤ陰謀論ユング論を中心にまとめたかったので、まるで取りこぼした要素を補完して頂いたような纏まり具合で有り難い。

検証:平沢進と陰謀論|青海符|note

*1:1981年から88年の間、特に後半

*2:地獄に落ちろ平沢進より

*3:HIRASAWA三行log 2008年5月21日より

*4:「音楽産業廃棄物」『Open Source』110頁と  https://twitter.com/hirasawa/status/90418856060919810の内容を勘案し、本名と推測される表記。

*5:逆噴射文体。https://diehardtales.com/n/nd663a7450470