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この作品「「穏やかな午睡」他二編」は「アサルトリリィ」「天野天葉」等のタグがつけられた作品です。
「穏やかな午睡」他二編/時田只人の小説

「穏やかな午睡」他二編

7,177文字14分

アサルトリリィの二次創作掌編集です。

穏やかな午睡(そらくす)
 薔薇園で午睡する樟美を見守る天葉様の話。
あぶくの先(そらくす←いち)
 ヒュージとの戦闘中水没した天葉様の話。
星夜に君の手を取り踊る(そらくす)
 ウユニ塩湖的なところで踊る天葉様と樟美の話。

2022年2月6日 16:15
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穏やかな午睡(そらくす)


 穏やかな春の日のことである。
 百合ヶ丘女学院の敷地内には、少女たちが憩うための場所がいくつか設けられている。そのうちのひとつ、四方を開かれたガゼボに天葉はいた。薔薇園の中央、まるで終着点のようにあるこの場所は主に静かに時間を過ごしたい少女たちに求められている。複雑に入り組んだ薔薇の回廊は四方を開かれているガゼボにおいても壁の役割を果たし、また同時に薔薇自体が音を呑み込んでいるかののような静寂に包まれている。薔薇園自体も敷地のはずれにぽつねんとあるため近寄るものは少なく、under the roseという言葉があるが、まさに秘め事に最適な場所であった。
 もっとも、天葉といえど、ちょうど彼女の膝を枕にして眠る少女に対してそのような感情は抱いていなかったが。
 すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。まるで眠り姫のよう。そんなことをぼやけた頭で天葉は考える。薔薇に囲まれ、天葉の膝枕を享受しながら眠るのは、天葉の「妹」の江川樟美であった。
 この日、ふたりは朝からふたりきりで過ごしていた。リリィとしての出撃もなく、また樟美が受けるべき授業もない、そんなある日。常は命を懸けて戦場を駆ける使命を背負ったリリィであることを忘れてしまうような穏やかさの中、昼食を終えた樟美はその心地よさにあてられたかのようにうとうとと船をこぎだした。
「くすみん、ねむい?」
「うぅん……」
 天葉の言葉に答える声も、どこか夢見るようにあいまいだ。むずかるように天葉に身体を寄せるその目も、半分閉じてしまっている。抱き寄せるようにして腕の中に収めれば、いつもはひんやりとした肌もどこかあたたかい。今日が楽しみで昨日はよくねむれなかったとはにかむように言っていたから、昼食でくちくなって限界が来たのだろう。口の中だけで笑いながら、天葉はいまにも倒れそうな樟美の身体を横たえて、頭を膝の上に乗せた。
 無意識にだろう、眠りやすいようにもぞもぞと動く樟美を見つめる天葉の瞳に宿る感情は、慈愛、だろうか。慈しみと愛おしさが混じったような視線で、そっと樟美の額にかかった髪を除ける。見下ろす表情にふわりと浮かんだ穏やかさを、天葉はいつまでも眺めていられるような気がしていた。
「……ソラ姉様、」
「ふふっ、なぁに?」
「んぅ……」
 呟かれた呼びかけの声が、しかし寝言であると気が付いたとき、天葉の中に曰く形容しがたいなにかが浮かぶ。それをなんと呼ぶのか、天葉はまだ理解できていなかった。分類、あるいはラベル付けが困難ななにか。ただ、悪いものではないだろうと、放っておいている。姉である若菜に相談してもいいかもしれない、そうぼんやり思っているだけだった。
 午後はふたりで町まで出かける予定だったが、この様子なら寮でゆっくり過ごしてもいいかもしれない。天葉が午後からの予定を考えだしたころ、「んんぅ……」と、ひときわ大きく身体を震わせて、樟美はゆっくりと瞼を開いた。焦点を失った視線は、どこを見るでもなくただ漠然としている。まだ眠りと覚醒の間にあるらしい。なんだかおもしろくなって、その瞳をじっと見つめていると、眠りの泥から身体を引き上げた目と目があった。え……、かすれたような声を漏らし、樟美は身体を縮こまらせた。目は覚めても、現状の理解はできないらしい。
「おはよう」くすくすと口元をほころばせて天葉は聞く。「よく寝れた?」
「は、はい……」
「ならよかった」
 答えるうち、自分が天葉に膝枕をされていることを理解したのだろう、樟美は慌てたように身体を起こした。膝の上からいなくなってしまった体温をどこか残念に天葉は感じる。
「ごめんなさい、わたし、寝てしまって……」
「ううん、気にしないで。疲れてたんでしょ? もっと寝てていいよ」
「いえ、そんな、だいじょうぶ、です」
「そう? あたしはくすみんのかわいい寝顔、もっと見てたかったけど、それならいいか」
 寝乱れた樟美の後ろ髪を撫で整えながら、天葉はそんなことを囁く。
「ぇ、あの、その、えっと……」
 樟美の白磁のような肌に、ぱっと赤い色が咲く。右に、左に、せわしなく視線を動かして、きゅうと制服の裾を握る。その姿がなにか抑え難いなにかに耐えてるようで、天葉は首をひねった。樟美が時折見せるそのような仕草に、天葉はいつも困惑していた。どうしたの、と問うても、樟美は首を振って困ったように唇の端を曲げるだけで、それ以上言葉を繋いではくれない。樟美のそんな反応に、天葉はいつもじくりとした痛みを覚える。いつだって樟美には笑っていてほしいのに。
「疲れてるなら、今日は出かけないで寮でゆっくりする?」
「えっ……」
「?」
「その、姉様がそうしたいなら……」
「うーん、そっか」
 そっか……、もう一度口の中だけで呟く。あたしは、どうしたいのだろう。あたしは……、ああ、でも。樟美の表情を見る。どこかしょんぼりとしているような気がしたし、寝乱れた樟美の髪も、すっかり元通りになっていた。めったにない一日休みなのだから、と樟美が笑っていたのを思い出す。ああ、なら。
「それじゃあ、せっかくだから行こっか。本当に大丈夫?」
「……はいっ」
 花咲くような樟美の笑顔に、これでよかったんだと天葉は思った。知らず、天葉の頬にも応えるような微笑みが浮かぶ。
 立ち上がったふたりは、手を繋ぎ、薔薇園をあとにする。彼女たちを囲む薔薇だけが、あるいは秘められた想いを見つめている。
 そんな、幸福な姉妹の、幸福なある春の日のことである。


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