2015年4月1日配信「『SJI架空取引事件』で課徴金処分の“新華商”の大物・李堅前SJI社長の背後に中国起業家ネットワーク」 <事件>
李堅・SJI前社長(日本インタビュ新聞より)
証券取引等監視委員会は、3月27日、システム開発の「SJI」(JQ)に対し、1億9426万円の課徴金を課すよう金融庁に勧告した。
理由は、「SJI」前社長(現取締役)の李堅氏が行った不正取引。李氏は、2010年10月期から14年3月期までの間に、ハードウェアなどの売上高を過大に計上、不正に得た資金を自らの借入金の借り換えなどに充てていた。
不正金額の大きさや個人的な借金の返済という動機の悪質さから考えれば、証券監視委が告発、東京地検特捜部の手で刑事事件化してもおかしくはなかったが、本人がこの問題を解明するために設置された第三者委員会に積極的に協力、罪を認めて返済にも応じていることから課徴金処分となった。
指摘したいのは、事件がもたらした在日中国人社会への影響である。
李氏は、「成功した起業家」として知られ、“新華商”と呼ばれる在日中国人の起業家が集った「日本中華総商会」で会長を務めたこともある。
同氏は、1985年、中国の国費留学生として来日、日本の大学でコンピューターサイエンスを学び、その頃に知り合った中国留学生仲間と、89年に立ち上げたのが、システム設計・開発を行う「SJI」の前身の「㈱サン・ジャパン」だった。
「サン・ジャパン」は、日本と中国の市場を開拓して順調に業績を伸ばし、03年にはジャスダックに上場。09年4月にグループ3社が合併して社名を株式会社「SJI」とした。
09年11月は、中国最大手のITサービス企業「デジタル・チャイナ・ホールディングス」と資本・業務提携について合意している。
今回の李氏が行った架空取引は、「SJI」が300億円企業に成長していく過程とは、全然、別の理由から始まっている。
第三者委員会の報告書のは、李氏が借金まみれになる様子がこう書かれている。
『きっかけは03年のジャスダック上場だった。
主幹事証券の指摘もあって、金融機関から10億円を借り入れて株式を購入、10%を取得して筆頭株主となった。
その借り入れ資金は返済していったが、株投資に失敗。そのうえリーマンショックで「SJI」の株価下落に伴って資金繰りに窮し、事業会社、友人知人、金融ブローカーなどから借り入れを行い、10年の時点で30億円以上の負債となった。
その返済の過程で公私混同という禁断の領域に踏み込んだ――』
成功した起業家が陥る“失敗の典型”である。
一方、李氏は在日中国人社会で、その地位を確立していた。
かつて華僑といえば、「横浜中華街」に象徴されるように、飲食店を中心に苦労を重ねて日本社会での居場所を得てきた。
が、改革・開放の流れに乗って、80年代後半以降、日本に留学。そのまま日本に定住する中国人は、おおむね高学歴で独立意識が高く、旅行代理店・国際貿易・IT産業・投資コンサルティング・ソフト開発などあらゆる分野に進出、会社を立ち上げてきた。
2000年以降は、そうした企業群が成功を収め、「ソフトブレーン」の宋文洲氏、「イーピーエス」の厳浩氏、「ラオックス」の羅怡文氏などが「留学組の成功者」として知られるようになった。
彼らが“新華商”と呼ばれるのは、かつての華僑とは成り立ちも意識も違うという意味からだ。
その集団の大物とでもいうべき存在が李氏で、新華商は99年9月、「日本中華総商会」を設立したが、李氏は08年4月から09年3月まで第4代会長を務めた。
新華商は、日本社会に溶け込んではいるものの、仲間内の連帯感は別物で、濃密な人間関係のなかで情報は共有される。
それだけに証券監視委は、近年、インサイダー取引の有無に関心を示していたが、そうしたなか、今回の証券監視委の勧告がなされた。
「蟻の一穴」――今回、指摘されたのは李氏の個人的投資の失敗だが、新華商たちは中国人社会の“起業家ネットワーク”にまで当局の関心が及ぶことを恐れているに違いない。【莵】
- 2015.03.30 Monday
- 事件
- 23:31
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- by polestar0510