「08. 複数の楽器を使おう」までで「ピアノ、ベース、ドラムセット」によるごく簡単な4小節の伴奏フレーズを作りました。しかしそこで作ったデータは俗に言う「べた打ち」でありベロシティは全部100で強弱のニュアンスもなく音符のタイミングはまさに「機械的」に正確であり、楽器ごとの音量バランスも考えていませんでした。
この先使う楽器もさらに増やしていきますが、今打ち込んだピアノについてちょっと手を加えてみることでMIDIの編集についての理解を深めることにしましょう。
現在「CH01」のピアノのパートは左図のようになっていますね。「C-Am-Dm-G7」という「1-6-2-5」のコード進行でどの小節も2分音符が2回単調に鳴っているだけです。
加えて音が鳴り始めるタイミングも「完璧に同時」でありまさに「楽譜どおり」なのですが、だからこそつまらない。
生身の人間が「楽譜どおり」に演奏している(つもり)のとき、そこには常に「解釈」があります。演奏者の個人的な解釈によって「楽譜には現れ切れていない演奏情報」を積極的に盛り込んで演奏されるのが通常です。
指の長さも違えば鍵盤を押し込みきるタイミングも微妙にずれているはずです。そして毎回「まったく同じ音量」で鍵盤を叩くなど無理なことです。そこでもう少し「人間っぽさ」を音にこめるため編集していきましょう。
今まで音符をピアノロールに鉛筆ツールで置くと「自動的に正確な位置にスナップ」されていましたね。これはそういう「設定」にしてあったからです。
音の微妙なずれ(タイミング、音量など)を機械側で自動的に補正し「完全なもの」に直してくれる機能を「クオンタイズ(Quantize)」といいます。これは便利なものですが、それがあるかこそ「機械的」になるわけです。
しかし最初の段階ではまずこれを使っておき、あとから1つ1つ修正(正しいものをわざとずらす)する方が作業が楽です。
(クオンタイズとは)
「クオンタイズ」にも「何を補正」するかによって種類があります。
1、位置に関するクオンタイズ:
これはピアノロールで音符を書き込もうとするとき、ここで設定した音符の単位で自動吸着させるものです。つまり上図だと16分音符の中間のような半端な位置には音符が置けないことになっています。音符の「出だし」つまり音の「位置」を一定単位の刻みにスナップさせる機能です。
その単位はこのプルダウンメニューから選ぶことができます。
ここで選んだ音符単位でのスナップを有効にするかどうかは「♪」アイコンで切り替えができます。
2、音の長さに関するクオンタイズ:
MIDIでは「音の長さ」のことを「Gate Time」というんでしたね。そのゲートタイムについての自動補正を行うのがこれです。
書き込まれた音符はここで設定された「Tick」(240=8分音符)となります。この数値を変えれば現れる音符の長さも変更できます。
この自動補正を有効/無効に切り替えるには「青い長方形」アイコンでON/OFFします。(「青い長方形」はピアノロールでの音符にあたる横棒ですね)
3、音の強さに関するクオンタイズ
MIDIではあらゆる数値が「0~127」の範囲で決められます。そして初期状態での「音の強さ(Velocity)」は100となっています。127の最大になっていないのは「さらに強く」する余裕を持たせているからです。
この設定は今やっている手入力ではON/OFFの切り替えはできません。鍵盤を弾きながら情報を記録するなら実際に鍵盤を弾いたときの強弱を信号として送れますが、今の手入力ではそもそも強弱を表現できませんので、なんらかの設定値がないと困ることになります。
これらのクオンタイズ(自動補正)は最初にデータを入力する際はONにしておき、細かい編集をする段階でOFFにするとよいでしょう。ただし最初の入力で「装飾音」のような微妙なずれを含む音を書き込みたいときは臨機応変にON/OFFをその場で使い分けてください。
(Volume/Volocity/Expressionの違い)
ところで「音量」についてのコントロールに関しては「Volume(ボリューム)」、「Velocity(ベロシティ)」、「Expression(エクスプレッション)」の3種類があります。この3つはMIDIにおける重要な用語ですのでしっかり理解しておく必要があります。
1、Volume(ボリューム):
イベントリストの中にも最初の方にこれを100と設定している箇所があります。
「ボリューム」とはそのトラックの「最大音量、上限」のことです。これがどんな数値になっていようとベロシティやエクスプレッションが0なら当然音はでません。しかし、ベロシティやエクスプレッションを最大の127にしたとしても、ボリューム設定がその音量の上限となります。ボリュームは複数の楽器の音量バランスを取るときに調整します。
2、Velocity(ベロシティ):
ベロシティとは本来「速度」の意味です。それがなぜMIDIで「音の強さ」として用いられるかといいますと、鍵盤を押し下げる瞬間から押し下げきった瞬間までの時間によって測定しているからです。すなわち「鍵盤を押し込む速さ」=「強さ、音量」とされているのです。
市販の電子キーボードにも価格・グレードによってベロシティ情報を実際の演奏に応じて強弱として送ってくれるものとそうでないものがあります。実際の演奏での鍵盤を弾く強弱に応じて音量が変わる機能を「タッチレスポンス」といい、これに対応していない安価なキーボードでは軽く触れただけのときも、力いっぱい叩いたときもまったく同じ音量となります。皆さんがこの先キーボードを購入する際は「タッチレスポンス対応」かどうかは真っ先にチェックしてください。
3、Expression(エクスプレッション):
エクスプレッションとは「表現力」の意味ですが、これは「音量変化」を表す情報です。
今まで実際に操作した範囲ではまだこのエクスプレッションを扱っていませんが、ストリングスやオルガンなどその気になればいつまでも音を出し続けらる楽器を用いる場合は、弾き始めから弾き終わりまでずっと同じ音量ではなく、徐々に音が大きくなったり、段々弱くなったり、強弱が繰り返されたりということがあります。それを表現するのがこのエクスプレッションです。
このようにMIDIの情報の中には普通の5線紙の楽譜には現れない細やかな音楽情報が沢山含まれているのです。
楽譜でも強弱を「pp, p, mp, mf, f, ff, fff」という記号や「<>」などで「大雑把」に伝えようとはしますが「ピアノ・フォルテ」ではせいぜい7段階程度であるのに対してMIDIでは0も含めれば128段階で指定できるのです。
そしてそのような細やかな音楽情報の編集は「イベントリスト」の中で数値指定するか、ピアノロールに付属している画面下の編集ウィンドウによってグラフとして編集するかしなければならず、「音符入力」だけでは無理なことなのです。音符を5線紙にマウスで置いていくことで入力する方式は楽譜になれた人にとってわかりやすいものではありますが、MIDIで音楽を作ろうとするならMIDIに適した方法を学ばなければならないのです。
さあ今はまだ簡単なフレーズだとは言え、作業を通じて徐々にコンピュータミュージックについての知識や理解が深まってきましたね。
(ピアノフレーズの編集)
まず「位置、長さ」ともにクオンタイズがONだと微調整ができませんので両方ともOFFにします。
今「CH01」のピアノの冒頭(「イントロ1」)が見えていることを確認してください。
そして選択ツールを持って先頭の3つの音符を選択します。「音符の位置」というのは「音の鳴り始める位置」のことですので実は今までのように音符全体を囲う必要はなく左図のように音符の先頭を囲ってやれば選択されます。
次に3つの音符を全体に前にずらします。MIDI設定がある1小節目に入ってしまいますが極端に前にでない限り大丈夫です。
それから選択範囲の枠の中で右クリックし、現れたメニューの中から「ストローク」を選びます。
これは実にすぐれものの機能で Domino特有の機能です。高価な製品版ソフトにもついていません。
ダイアログで2箇所変更します。
1、ストローク方向:「低音から高音へ」はそのまま。
2、Step値:「固定値」の数字を「30」に変更してください。
3、その他:「消音位置を固定する」にチェックを入れます。
これで「OK」を押します。
すると3つの音符の「鳴り始め」の位置が「30 tick」ずつ低音から高音へとずれました。一気にパーンと鳴り出すのではなく「チャララ~」と鍵盤を弾くタイミングがずれたわけです。
音の「鳴り終わり」には影響しないように設定項目にチェックをいれたので音符の末尾はそろったままです。後ろの音符も前に出しますので、一旦Ctrl+Dで選択を解除して今「ストローク」を適用した3つの音符の末尾を1つずつちょっと前に縮めておきましょう。
今使った「ストローク」という Domino独自の機能はその名の通りもともと「ギターのストローク」を表現するのに1つ1つの音符の位置を手作業でずらす手間を簡略化してくれるものです。また別の章でギターの打ち込みについては詳しく述べますが、それをピアノに応用しました。
以下残りの3小節についても同じことをしますが、今度はその3小節全部を一気に選択してください。
そして選択範囲を示す枠の中で右クリックし「一括変換」を選んでください。
今度はもともと「960」に揃えられている「Gate」を「820」に変更します。これで選択した音符の長さが一気に「820」に変更されます。
それから音符全体を前にずらしまた右クリックから「ストローク(設定は同じ)」を適用してください。
このように「Domino」には非常に優れた編集機能が豊富にそなわっています。1つ1つ手作業で変更することが何よりも基本ですが、その作業を効率化してくれる様々な工夫にあふれているのです。
Dominoは専用MIDIシーケンサーですので、DAWと違ってオーディオデータは扱えませんが、その分シーケンサとしての編集機能は抜群です。10万円クラスの製品版以上のものを備えています。
すでに理解されていると思いますが、「音のよしあし」はソフトに依存しません。どんな音が出るかは「音源」次第であり、MIDIシーケンサについてフリーと高価な製品版の違いがどこにあるかというと:
1、製品版はインターフェースのグラフィクスが美しい
2、製品版は分解能が高い
3、製品版にはソフト音源が付属していることが多い
などの差なんです。
1のインターフェースの美しさの差は単なる「見かけ」の差であり「性能」の違いではありません。それに3Dグラフィクスをふんだんに使った豪華な印象を与えるインターフェースはそれだけでメモリを消費しコンピュータにかかる負担を大きくします。
2の分解能については確かに「性能の差」と言えますが、すでに説明しました通り、フリーソフトである Domino でさえも1小節を1920に分割して音のタイミングを表現できます。1分間に120拍のテンポの場合、1秒に2拍ですから1小節にかかる時間は4拍分の「2秒」です。その2秒を1920に分割した時間を「十分細かい」と考えるか「製品版に比べると粗い」と考えるかですね。つまりもしあなたが960分の1秒の時間差を耳で聞いてはっきりつかめるのなら Dominoの分解能に不満を感じるかも知れません。
もちろん高価な製品版DAWのMidi編集機能にはそれぞれ様々な工夫があって音符のベロシティを指定した範囲内でランダムにばらつかせてくれたり「機械的」でなくすため本来1つ1つの音符を手作業で修正する手間を省いてくれるものもあります。
しかし一番重要なポイントは、もともと「べた打ち」しか知らない人がどんな高級ソフトを使っても何にもならないということなんです。少なくとも、この Dominoの編集機能を100%使いこなして、使い切って、それで不満が出る人ならば製品版を買う資格があり、その人には10万円以上の価値があるでしょう。高価なソフトを使えば「同じデータ」がいい音楽に化けるということは絶対ないということは覚えておいてください。