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帝国の衰退、攻撃国家の電撃戦、独裁者の暴発……ウクライナ侵攻の本質と世界の対応

長い時間軸で物事を見て21世紀という時代にどう関与するかが問われる

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

帝国の維持ができていない冷戦終結後のロシア

 帝国の衰退期に着目してウクライナ侵攻を説明するならば、よく指摘される「NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大」のみならず、ロシア自身の行動も見逃せない。

 ロシアは冷戦終結後もしばしば軍事介入を続けているが、いずれにおいても帝国の維持ができたとはいいがたい。チェチェン紛争の再発を皮切りに、南オセチア紛争、クリミア併合、シリア介入などで、いずれも苦戦や泥沼の膠着化に陥っている。

 帝国においては、そもそも国境線の概念自体が相対的なため、攻撃しないという選択肢が往々にしてとられない。ロシアが主張するように“兄弟国”であるならば、なぜウクライナ人を攻撃するのか。「ウクライナが離反したから」ということで説明がついてしまうのが、帝国のメンタリティである。

 とはいえ、帝国側にすれば「追い込まれたから介入した」という理屈だろうが、介入される側にとって反抗は自由を守るための当然の闘いである。帝国が強ければ周辺地域は隷属するが、強くなければ周辺地域は反抗する。

 それゆえ、弱体化する帝国には、戦争の重荷が多くのしかかる。帝国の「核」となる最小単位のステートの内側へと退却する論理が働かない限り、利益が情念や理念を上回らない限り、紛争は終わらない。

拡大ウクライナの首都キエフから北西約25キロのブチャンスキーで3月3日、煙を上げる建物=キエフ州緊急事態当局のSNS投稿から

比較的平和裏に大英帝国を終わらせたイギリス

 ただし、ロシア=ウクライナ戦争の泥沼化がロシアの国力を削ぐとしても、モスクワが危機に瀕するような戦争ではない点には注意が必要だ。ウクライナ戦争は帝国としてのロシアを弱体化させるだろうが、だからといって帝国が早期に滅ぶと考えるのは間違いである可能性が高い。

 プーチンを非難しないロシア人芸術家を排除する動きなどは、ロシア人の帝国メンタリティを強めこそすれ、弱めるとは考えにくい。また、プーチンを若い世代が支持していないとは言っても、世代交代にはまだ数十年の時がかかる。ウクライナ戦争は長期化する可能性があり、仮に休戦に漕ぎつけても、同じような戦争がふたたび旧ソ連諸国で起きないという保証はない。

 帝国の座を降りた直近の事例として挙げられるのはイギリスだ。ちなみにイギリスは、帝国からの撤退を平和裏に行うことができた幸運なケースである。大英帝国が軍事的に退いていった領域にアメリカが入り込み、引き続き経済権益を保持することができた。

 大英帝国に引導が渡されたのは、第1次大戦と第2次大戦に際し、彼らが疲弊しきるまでアメリカが積極的に手助けをしようとしなかったからである。実際、大英帝国の衰退にはかなり長い時間がかかったし、その間には幾つもの戦争がついて回った。

帝国の衰退には時間がかかる

 現在のロシアの状況を、帝国の衰退過程ととらえれば、現在言われているよりもずっと長い時間軸で見ていかなければならないだろう。

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筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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