泌尿器科
1・概要・基本方針
患者のみなさまへ
ー患者の皆様に優しく,安全で質の高い医療をめざしていますー- 治療の効率化と均一化、また治療がわかり易くする目的でクリニカルパスを積極的に導入しています
- 病気について的確な説明を心がけています。
- 他医師のセカンドオピニオンを求めることは患者の皆様の大切な権利ですが,それは当科のスタッフにとっても勉強になることが多く、大いに歓迎いたします。ご希望があれば遠慮なくお申し出下さい。逆に当院でも他院からのセカンドオピニオンを受け付けております。
- 地域連携室があり、近隣の一般開業医とも積極的に連携しており、当院退院後の経過観察や内服薬の処方などの在宅医療を推進しています。
- 疼痛の軽減を目的とした緩和治療も積極的に行っています。
- 積極的な治療・研究を推進しています。また、その実績等を日常診療に還元すべく、学会参加や研究発表も積極的に行っています。
心のこもった最新かつ最良の医療を患者の皆様に還元すべく努力を重ねています。
何か相談や希望等ありましたら当泌尿器科へ御連絡ください。
2・診療科の特徴
泌尿器科では、副腎、腎臓、尿管、膀胱、尿道などの男女尿路系疾患、および精巣、精巣上体、前立腺などの男性生殖器疾患を扱います。
主に排尿の回数が多い、尿がもれる、尿が出にくい、排尿時に痛みがある、尿に血が混じるなど、排尿に関する異常を扱います。症状がなくても検診などにより異常が指摘されることもあり、これらの異常の原因を診断し治療を行うのが泌尿器科です。その領域は、悪性腫瘍、尿路結石症、尿路性器感染症、前立腺肥大症、過活動膀胱、尿失禁、高血圧や肥満を引き起こす副腎腫瘍、神経因性膀胱など多岐にわたります。
当センターは地域がん診療拠点病院(高度型)であり、当科では悪性疾患の治療に力を入れています。特に前立腺がんについてはロボット支援下内視鏡手術や小線源療法を含めた各種放射線治療で全国でも有数の治療実績があります。また、ロボット支援による手術を腎部分切除および膀胱全摘術にも導入しています。 当科では安全で質の高い医療を患者の皆様に提供することを目指しております。
何かお悩みのことで我々にできることであれば是非お手伝いをさせて下さい。
◆新しい低侵襲手術
1.腎盂尿管移行部狭窄:ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術
腎盂尿管移行部狭窄は、腎臓から尿管へと尿が流れ出る部位が狭いために、腎臓が腫れて背中の痛みなどの症状を起こす病気です。長期間放置すると腎臓の機能を低下させてしまうことがあります。
治療では狭い部位を切除して尿が抵抗なく流れるようにつなぎ直す手術を行います。従来は開腹にて施行していましたが、ロボット支援下にこの手術を行うことで、高精度かつ低侵襲の手術が実現可能となりました。2020年4月よりこの術式は保険適応となり、当院でも手術を行っております。
2.膀胱がん:ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術
浸潤性膀胱がんに対するロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術を行っています。500例を超えるロボット支援前立腺全摘手術の経験を活かし、より負担が少なくなるように術式を工夫して手術を行っています。従来の開腹手術と比較して下記の利点があります。
- 手術中の出血量が少ない。
- 体外に腸管が露出する時間が短くなることで、腸閉塞などの術後合併症のリスクが減少する。
- 傷が小さくなり、術後の疼痛が少ない。
膀胱摘出後の尿路変向方法には、尿管皮膚瘻造設術、回腸導管造設術、新膀胱造設術等があり、開腹せずに手術を完結する術式も採用しています(手術の既往等、患者さんの状況によります。)。
3.副腎腫瘍、尿膜管膿瘍:単孔式手術等
副腎腫瘍、尿膜管膿瘍に対しては、腫瘍の大きさ等を検討したうえで、ひとつの傷で行う単孔式腹腔鏡下手術(Laparoendoscopic single-site surgery:LESS)や術創の数を減らしたreduced port surgery(RPS)を積極的に行っています。従来の腹腔鏡手術より整容性も高く、社会復帰も早くなります。
3・診療実績
手術名 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
---|---|---|---|---|---|
副腎摘除術(開腹) | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
副腎摘除術(鏡視下) | 1 | 1 | 5 | 5 | 3 |
経皮的腎・尿管砕石術(PNL) | 1 | 5 | 3 | 2 | 4 |
体外衝撃波砕石術(ESWL) | 26 | 37 | 28 | 20 | 35 |
腎部分切除術(開腹) | 5 | 2 | 1 | 0 | 0 |
腎部分切除術(鏡視下) | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
根治的腎摘除術(開腹) | 5 | 7 | 2 | 1 | 3 |
根治的腎摘除術(鏡視下) | 10 | 4 | 6 | 8 | 7 |
腎尿管全摘膀胱部分切除術(開腹) | 4 | 8 | 4 | 4 | 0 |
腎尿管全摘膀胱部分切除術(鏡視下) | 0 | 3 | 8 | 11 | 11 |
腎盂形成術(開腹) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
腎盂形成術(鏡視下) | 0 | 0 | 0 | 3 | 7 |
経尿道的尿管砕石術(TUL) | 21 | 26 | 24 | 43 | 65 |
膀胱全摘除術(開腹) | 12 | 10 | 8 | 2 | 0 |
膀胱全摘除術(ロボット支援) | 0 | 6 | 3 | 14 | 7 |
回腸(結腸)導管造設術 | 9 | 12 | 9 | 14 | 8 |
新膀胱造設術 | 3 | 4 | 2 | 2 | 0 |
経尿道的膀胱腫瘍切除術 | 131 | 143 | 167 | 137 | 141 |
尿失禁手術(TVT、TOT) | 3 | 1 | 5 | 4 | 7 |
精巣摘出術 | 0 | 0 | 0 | 3 | 3 |
高位精巣摘出術 | 13 | 3 | 7 | 6 | 3 |
精巣固定術(精巣捻転に対する) | 1 | 0 | 0 | 4 | 7 |
経尿道的前立腺切除術(TUR-P) | 30 | 21 | 18 | 36 | 20 |
ロボット支援下根治的前立腺全摘除術 | 88 | 94 | 93 | 65 | 86 |
ロボット支援下腎部分切除術 | 15 | 21 | 22 | 16 | 18 |
小線源療法(ヨウ素125) | 238 | 249 | 261 | 305 | 202 |
◆外来担当医表
◆対象疾患
悪性疾患では、前立腺がん、腎がん、尿路上皮がん(腎盂がん、尿管がん、膀胱がん)、精巣がん等に対し、手術、放射線治療、化学療法、免疫療法など個々の病状、年齢や家庭環境、患者様ご本人の希望に沿った治療方針で取り組んでいます。
前立腺肥大症、尿路結石、副腎腫瘍、また女性の骨盤内臓器脱や尿失禁などの良性疾患にも積極的に取り組んでいます。
当科では先天奇形、男性不妊、腎移植の診療は行っておりません。
◆泌尿器科の主な疾患と治療について
・前立腺肥大症
当院で行う治療法は主に内服治療と手術の2つです。
1.内服治療
主に処方されている薬剤の主な作用機序は、前立腺自体を縮小するというよりも、前立腺肥大症によって機能的に緊張が高まり狭くなった尿道を緩めるということです。1週間程度で効果が見られます。比較的副作用の少ない薬剤ですが、立ち上がったときにめまい(起立性低血圧)が時にみられることがあります。前立腺肥大症が進行し物理的に尿道が狭くなった場合には、効果が低下することがあります。これらの作用をもつ薬剤として、ハルナール、フリバス、ユリーフなどがあります。血流を改善することで排尿症状を軽減させる薬剤としてザルティアも使用されます。
前立腺を縮小させる内服薬を併用することがあります。PSA値を低下させ前立腺癌の発見を遅らせる原因にもなるので、処方前には癌の有無を調べる必要があります。これらの作用をもつ薬剤として、アボルブ、プロスタールなどがあります。
症状の緩和目的に漢方薬の合剤を処方することがあります。副作用はほとんどありませんが、自覚症状の改善はゆっくりです。これらの作用をもつ薬剤として、エビプロスタット、セルニルトンなどがあります。
直接的に前立腺肥大症に作用しませんが、前立腺肥大症に伴う頻尿などについては、膀胱の機能をコントロールする薬剤を併用することがあります。
2.手術
TUR-P
手術として、前立腺の肥大部分を内側から削ぎ落とすように切除する経尿道的前立腺切除術(TUR-P)という方法を行っています。前立腺をみかんに例えるとみかんの房(中身)だけを内側から削りとり、皮は残すという手術です。
TUEB
比較的大きな前立腺肥大症に対しては、TUR-Pによる出血を軽減のため前立腺をくり抜く(核出する)経尿道的前立腺核出術(TUEB)という方法を行います。
尿路結石
尿路結石について
通常、結石は腎臓で成長し、尿管へ下降した時に激しい痛み(疝痛発作)が生じます。5mm程度くらいまでの結石であれば通常は自然に膀胱内に落ちて、尿道からでてきます。それぞれの部分にある結石を、腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石といいます。
尿路結石による疼痛は結石が尿管の痙攣を起こすことにより一時的に腎臓がはれることで生じると考えられています。したがって、疼痛が強い時は鎮痛剤などの使用により疼痛の軽減をはかることが必要です。尿管の痙攣がとれれば自然に排石することも期待できます。痛みのない尿管結石もありますが長期に放置しておくと気づかないうちに腎臓の機能が低下することもあり適当な時期に治療をすることが必要です。
TUL(※)適応となる尿路結石症について
腎結石と尿管の上部にある結石の治療法として、従来は体外衝撃波砕石術(ESWL)が第一選択となっていました。しかし、近年の尿管鏡およびレーザー破砕機の性能が向上したことより、ESWLと同等以上の治療効果がTULで得られるようになってきました。このことから、当院では尿路結石治療において、「より安全で、より確実な治療」を目標として、内視鏡手術を中心とした治療を行っております。
※TUL・・尿路結石に対する内視鏡手術(経尿道的尿路結石除去術)
TULの治療方法
手術は腰椎麻酔または全身麻酔にて行います。
内視鏡を結石の位置まで進めて、モニターで結石を確認しながら、特殊な砕石装置(主にレーザー)を用いて結石を破砕します。小さめの結石であればそのまま取り出すことも可能ですが、通常はいくつかに砕いてから取り出します。砂状に砕石された結石については取り出すのが困難であり、自然に流れ出るのを待ちます。
一連の操作により尿管に傷がつき、その部分が一時的にむくむことで腎盂腎炎などを生じるおそれがあるため、腎臓と膀胱との間に細いチューブ(ステント)を留置します。また、最後に膀胱に管(尿道カテーテル)を留置して手術を終了します。ステントは外来で抜去します。
腎結石について
TULでの治療が困難と考えられる20mm以上の腎結石などについては、背中から腎臓に直接内視鏡を入れて破砕を行う経皮的腎砕石術(PNL)を施行することがあります。
膀胱がん
膀胱がんとは?
膀胱腫瘍とは、膀胱にできる“おでき”の総称ですが、それらは良性と悪性とに分類され、ほとんどが悪性腫瘍(膀胱がん)です。膀胱がんは、さらに表在性(筋層非浸潤性: Tis~T1)膀胱がんと浸潤性(筋層浸潤性:T2以上)膀胱がんとに分類されます。
表在性膀胱がんは癌の深さが浅く膀胱以外に病変が広がっていることは少ないとされていますが、浸潤性膀胱がんは癌が深く進む傾向にあり、膀胱の外に病変が広がり、リンパ腺や他の臓器に転移を生じることがあります。
しかし、膀胱がんの約8割が表在性膀胱がんとされ、ほとんどが表在性膀胱がんです。つまり、膀胱がんのほとんどが悪性(=がん)であるものの、膀胱内にとどまることが多いということですから、「がん」といわれてもいたずらに心配する必要はありません。
膀胱がんの初期治療(経尿道的膀胱腫瘍切除術;TUR-BT)
膀胱がんに対しては、入院の上、内視鏡による治療が行われます。腫瘍を削りとるように切除を行います。表在性膀胱がんを完全に切除することのできる深さで切除を行います。切除した検体は組織検査に提出します。また同時に腫瘍のない正常部分からもいくつか組織検体を採取し、小さな膀胱がんがないか検査に出すこともあります。
手術は主に腰椎麻酔下にて行われますので、痛みはありません。術後は3日間ほど尿道チューブの留置が必要です。
1時間程度の手術です。合併症はあまりありませんが、考えられるものとしては、出血(術後出血)、尿路感染(腎盂腎炎)、膀胱穿孔などがあげられます。また、手術には直接関連はありませんが、麻酔と手術というストレスがかかる下では、予期しない合併症(心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓など)が生じる可能性は否定できません。1回目の手術で充分な深さまで切除できなかった場合や顕微鏡結果によっては、より確実な診断や治療目的にて術後比較的早期に2回目の切除(セカンドTUR)を施行することがあります。
膀胱がんの治療
a) 表在性膀胱がんの治療
表在性膀胱がんは内視鏡手術により軽快すると考えられています。ただし、4割前後に膀胱内再発を生じる可能性があります。通常は、再発をしても表在性膀胱がんであることが多く、再び内視鏡手術を施行します。何回も再発を繰り返す患者さんもいますが、表在性である限りは内視鏡手術を何回でも施行します。おそらく膀胱を全部切除すれば再発はないでしょうが、膀胱を残すためには仕方がありません。
再発予防としては確実な方法はありませんが、抗がん剤(またはBCG)を膀胱内に注入する治療を行うことがあります。定期的に外来にて膀胱内に抗がん剤を注入し、一定時間経過後に 排尿することで抗がん剤を排泄します。比較的簡単で痛みも軽度です。抗がん剤を点滴でするわけではないので、全身症状(吐き気、脱毛など)の症状は一切ありません。
b) 浸潤性膀胱がんの治療
“根”の深い浸潤性膀胱がんはTUR-BTにより治ることはありません。手術により膀胱を全部摘出するか、放射線をかけるか、あるいはそれらの治療と抗がん剤を組み合わせるなどの治療が必要となります。当院での膀胱全摘術はロボット支援にて施行しています。
c) 上皮内がんの治療
上皮内がんは腫瘍の“根”は浅いのですが、異型度(悪性度)が高いことが多く、治療と共に厳重な経過観察が必要です。治療については、従来結核の治療薬に用いられてきたBCGという薬剤を膀胱内に注入する方法がとられます。6~8週間にかけて、毎週1回、外来にて膀胱内にBCGを注入し、約2時間経過後に排尿するだけの比較的簡単な治療ですが、しばしば膀胱刺激症状(排尿痛や頻尿)が強く出現し、まれに発熱することもあります。
一方、浸潤性膀胱がんに進行することがあることを重視して、状態によってはこの時点で膀胱を全部摘出することをお勧めすることもあります。
腎がん
腎がんの病期診断
腎がんの治療は腫瘍の広がり(病期)によって異なります。下図に示すように腎臓で大きな腫瘤を呈したり、リンパ節や血流にのって肺などに転移することがあります。
転移のない腎がんの治療
がんが腎臓の外に転移していなければ、手術で根治が期待できます。腫瘍が小さい場合(4cm未満)には、腫瘍部分と隣接する正常組織だけを取り除き、腎臓の残りの部分は残す(腎部分切除術)こともあります。ただし、腫瘍の位置によっては部分切除ができないこともあります。腫瘍が4cmを超えると腎臓全体を取り除かなければならない(根治的腎摘除術)場合もあります。当院では、腎部分切除術はロボット支援腎部分切除術、根治的腎摘除術は腹腔鏡下腎摘除術を主に行っています。
転移のある、または手術のできない腎がんの治療
腎がんの遠隔転移は肺に多くみられますが、腎がんの診断時だけでなく、発見された腎がんをすべて外科手術で取り除いた数年後に転移が明らかになることもあります。腎がんは抗がん剤・放射線が効きにくく、以前、最も効果があるとされていたサイトカイン療法(インターフェロン・インターロイキン2)でも、15~20%程度の有効率といわれていましたが、現在では数種類の分子標的薬治療や免疫チェックポイント阻害剤が使用されるようになり、治療効果が向上しています。「腎癌診療ガイドライン」において2019年5月に改訂された進行腎癌に対する薬物療法の選択基準では下記のように提案されています。
腹圧性尿失禁と骨盤臓器脱(膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤)
女性の骨盤底が分娩や加齢、閉経によるホルモンバランスの変化により弱くなることにより腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱が生じます。当科では投薬や骨盤底筋運動などの保存的治療で改善しない腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱に対してポリプロピレンメッシュを用いた手術を行なっています。
1) 腹圧性尿失禁に対する手術
経閉鎖孔式テープ(TOT)とTVT (tension-free vaginal Tape)手術
腟前壁に2cmほどの切開を加え膀胱頸部周囲を剥離してポリプロピレンメッシュのテープを閉鎖孔(TOT)もしくは恥骨上(TVT)に引き出す手術です。治療効果と合併症のバランスを考慮してTOTを第一選択にしています。
2) 骨盤臓器脱に対する手術
Tension-free vaginal mesh (TVM手術)
膀胱や直腸が膣に飛び出すヘルニア状態を膀胱瘤や直腸瘤と呼びます。
TVM手術は膀胱や直腸が飛び出す穴をポリプロピレンのメッシュで塞ぐ手術です。また、子宮口をメッシュに縫い付ける事により子宮脱も治します。このメッシュを固定するテープ引き出すために足の付け根に6-8箇所の小さな切開を加えます。このため手術直後は座ると痛むことがあります。他に術後に見られる合併症としては一過性の排尿障害、子宮脱再発(3%)、メッシュの露出(5%)です。米国のFDAから経膣メッシュ手術に対する警告が出されておりますが、日本での実績は良好であり、これまで当院でのTVM手術でも大きな合併症が生じたことはありません。手術前まで控えていた外出や運動を術後は気にせずできるようになり、生活の質が改善することが期待できます。
前立腺がん
当院は前立腺がん治療において全国屈指の症例数を誇っています。
病期(ステージ)、年齢、個々の希望に応じて治療を進めます。
小線源療法、前立腺全摘術(ロボット使用)、外部照射療法(IMRT)、ホルモン療法等ほぼすべての選択肢があり、必要に応じて併用療法を実施しています。特に小線源療法においては国内随一の経験と実績を誇っており、2020年3月までに3783例の治療を経験しており、全国から多くの方がこの治療を希望して来院されています。
将来的には前立腺がんに対する最先端の診断、治療設備を備えた前立腺がん総合医療センターを院内に併設し、国内で施行可能なあらゆる治療を実施し、全ての前立腺がん患者のニーズに応じた治療を行えるようにしたいと考えています。
小線源療法
小線源療法3700例を超える経験から
2003年に国内初のヨウ素125シード線源永久挿入による小線源療法を当院で実施し、その後16年間で3700例を越す症例を経験致しました。重篤な合併症も見られておらず、この治療の高い有効性と安全性が確認されております。
治療は通常4日間の入院で終了し、前立腺がんのほかの治療に比べて短期間で済みます。治療後に尿が出にくかったり、尿が近くなったりなどの症状は一時的にみられることがありますが、日常生活を大きく害することは通常ありません。
また、この治療では性機能の温存率が高く、国内外の報告では治療後に機能が保たれる割合は60~70%とされていて、前立腺がん治療の中においては良好なものになっています。このようにシード線源を用いた小線源療法は治療に要する時間が短く、合併症も少なく、生活の質もよく維持され、その上治療効果も高い治療法だと認識されていて、日本でも早期前立腺がん治療のひとつとして確立したものとなっています。
これまでに国内112の施設でこの治療が実施され、2019年末に45,000例を越す治療がなされています。 小線源治療については下記リンクにてご覧ください
小線源治療案内をみる(第19版)(PDF)
当院における治療成績
当院での15年を超える経験から長期のデータが得られており、アメリカの一流施設に匹敵するか、あるいはそれ以上の成績が示されています。小線源療法が国内で開始された当初は、この治療はPSAおよびグリソンスコアが低い低リスクや中間リスク症例のみが治療対象と考えられていましたが、長期のデータでは高リスク症例においても良好な成績が得られており、小線源療法が高リスク症例においても有効な治療法であることがわかってきました。以下に当院で小線源療法を実施した症例のうち治療後5年以上が経過した2,680例の成績を示します。リスクが高くなるにつれて再発率は高くなっていますが、それでも高リスクを含め全てのリスクにおいてかなり良好な成績が得られています。
当院では低リスクは小線源療法単独で、中間リスクはグリソンスコアや生検の陽性率によって小線源療法単独や外照射の併用で、高リスクは小線源療法、外照射および6ヶ月間程度のホルモン療法の併用で治療を行っています。
リスク分類(T3以下でN0M0の転移がない症例に限る)
低リスク:PSA≦10ng/mlおよびグリソンスコア6以下およびT1/T2
中間リスク:低リスク、高リスク以外
高リスク:PSA>20ng/mlもしくはグリソンスコア8以上もしくはT3"
ロボット支援手術
精度の高い手術を目指して、手術支援ロボットdaVinciの導入
2012年4月から前立腺がんに対するロボット支援下根治的前立腺全摘除術(RARP)が保険適応になりました。現在日本では300台以上の手術ロボット(daVinci;ダ・ヴィンチ)がすでに導入されています。米国では前立腺がんの手術の95%以上がRARPで行われています。当院でも2013年10月にダ・ヴィンチを導入し、手術件数も年間100例程度施行しています。ダ・ヴィンチでの前立腺手術が可能になったことで、当院での手術が一段と飛躍したことは勿論として、小線源治療に加えて患者様の治療の選択肢が拡がることになりました。ロボット手術の長所としては、傷が小さいため社会復帰が早い、術中の出血量が極めて少ない、術後の尿失禁の回復が早い、勃起能の温存率が高いなどが挙げられます。
当院のRARP初期5年間の治療成績
ダ・ヴィンチによるRARPの特徴は、1術中出血量の少なさ、2がんを取りきる能力の高さ、3勃起神経の温存率の高さ、4術後の社会復帰までの短さ、5術後の尿失禁の早期回復が主にあげられます。当院では腹部手術歴のある方や前立腺体積の大きい方にも、RARPを施行しております。加えて最近では、小線源治療、外照射治療、重粒子線治療を含めた放射線治療後の前立腺内再発がんに対しても、RARPによる救済手術を積極的に行っています。当院にダ・ヴィンチが導入されて6年が経過しますが、今までに500例近くの治療を実施しています。そのうち初期250例の治療結果を次に示します。
- 術中出血に対して自己血以外の輸血施行例:0例
緊急開腹手術への移行例:0例
他臓器損傷:0例 - pT2の断端陽性率:0%
- 片側勃起神経温存による勃起能温存率:73%
両側勃起神経温存による勃起能温存率:91%
(勃起能については問診で確認) - 術後の平均在院日数:8.25±0.22日
- 術後3ヵ月時点での尿失禁率:13%
(パッド一日使用枚数が2枚以上)
1に示すように当科のRARPは極めて安全に施行されています。2のpT2とは術後の病理組織検査で前立腺内限局がんであった場合のことをいいます。この前立腺内限局がんを完全に取り切れていれば切除断端は陰性という事になります。当院のpT2における断端陽性率の低さは国内外でもトップレベルです。また、同様に3の勃起神経温存率も諸家の報告によると片側温存で40%前後、両側温存で55%前後ですが、当院の成績は世界的にもトップレベルです。術後の平均在院日数についてもばらつきはほとんどなく、術後の合併症などにより退院が大幅に遅れることがめったにないことであることを示しています。術後の尿漏れを懸念される方も多いと思いますが、当院における術後3ヵ月の時点での尿失禁率は13%、6ヵ月後では4%です。ほとんどの方が術後6ヵ月以内には尿禁制が保たれるようになっています。
当院におけるRARPの特徴
一般的には膀胱と前立腺の切離(膀胱前立腺離断)は正中離断方が選択されますが、当院では膀胱前立腺離断を施行する際には、膀胱頸部温存を確実に施行するための側方アプローチ法で行っております。側方アプローチ法は技術的には難易度が高く、国内外を通じても施行できる施設は少ないのが現状です。この側方アプローチ法により当院のRARPでは、前立腺が大きい方、あるいは中葉肥大のある方の一部を除いて、膀胱頸部の縫縮や修復は行わずに手術が実施されています。この側方アプローチ法が尿失禁が早く治る大きな要因だと考えています。
勃起神経温存に関しては、前立腺側方からの神経温存切開線で施行せず、高位からの神経温存を心がけています。これにより勃起神経血管束を幅広く広範囲に温存することが可能となり、術後の勃起能が高率に保たれるようになります。高位からの勃起神経温存はpT2における断端陽性率をあげる原因にもなると言われていますが、現在までのデータでは、当院での手術では断端陽性率上昇の原因になっていません。
4・スタッフ紹介
-
門間 哲雄 もんま てつお
職名
科 長
卒業年度
1988年 慶應義塾大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本癌治療学会がん治療認定医
第1種放射線取扱主任者専門分野
泌尿器科領域疾患一般
泌尿器科腫瘍、前立腺癌小線源治療
-
西山 徹 にしやま とおる
職名
医 長
卒業年度
1991年 慶應義塾大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
専門分野
泌尿器科領域癌治療
神経因性膀胱、尿失禁
女性骨盤手術
-
矢木 康人 やぎ やすと
職名
医 員
卒業年度
2002年 藤田保健衛生大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本癌治療学会がん治療認定医
日本ロボット外科学会国内A級認定医専門分野
泌尿器科領域癌治療
ロボット支援手術、尿路結石治療
小線源療法
-
服部 盛也 はっとり せいや
職名
医 員
卒業年度
2005年 慶應義塾大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本癌治療学会がん治療認定医
泌尿器腹腔鏡技術認定医専門分野
泌尿器科領域癌治療
ロボット支援手術
-
石岡 桂 いしおか かつら
職名
医 員
卒業年度
2007年 日本医科大学
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
-
中村 憲 なかむら けん
職名
医 員
卒業年度
2009年 北里大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
小線源療法
-
小池 慎 こいけ しん
職名
レジデント
卒業年度
2015年 埼玉医科大学卒
専門分野
泌尿器領域一般
-
兼子 玲香 かねこ れいか
職名
レジデント
卒業年度
2018年 旭川医科大学卒
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
-
松丸 右京 まつまる うきょう
職名
レジデント
卒業年度
2019年 東京慈恵会医科大学卒
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
-
松尾 智誠 まつお ともまさ
職名
レジデント
卒業年度
2019年 佐賀大学卒
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
-
飯ケ谷 知彦 いいがや ともひこ
職名
非常勤医師
卒業年度
1981年 慶應義塾大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
-
古平 喜一郎 こだいら きいちろう
職名
非常勤医師
卒業年度
1997年 昭和大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本癌治療学会がん治療認定医、医学博士
泌尿器腹腔鏡技術認定医専門分野
泌尿器科領域疾患一般
-
香野 友帆 こうの ゆほ
職名
非常勤医師
卒業年度
2001年 北里大学卒
資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
専門分野
泌尿器科領域疾患一般
婦人泌尿器科疾患
-
矢澤 聰 やざわ さとし
職名
非常勤医師
卒業年度
2006年 慶應義塾大学卒
専門分野
日本泌尿器科学会認定専門医・指導医
身体障害者福祉法15条指定医(じん臓機能障害、ぼうこう又は直腸障害)
難病指定医
小児慢性特定疾病指定医
認知症サポート医専門分野
泌尿器科領域疾患一般
緩和ケア
在宅医療
後期研修(専門研修)
後期研修(専門研修)
泌尿器科専門医は2年間の初期臨床研修が終了し、専門研修が開始された段階から4年間の研修で育成されます。原則的には4年間のうち1年次の研修を基幹施設(東京医療センター泌尿器科)で行い、その後2年次、3年次の研修は連携施設で行います。そのうちの最低1年は連携施設の大学病院(慶応義塾大学病院、埼玉医科大学国際医療センター、琉球大学病院)のうちの一つで行うことになります。4年時の研修は再び基幹施設で行いますが、そのうちの3ヶ月間を連携施設である東京都立小児総合医療センターに出向き小児泌尿器科や小児腎移植の研修を行い、また別の3ヶ月間はやはり連携施設の東邦大学医療センター大森病院腎臓学講座に出向き腎不全や腎移植の研修を行います。4年目の研修期間中は週に1回程度、研修協力病院および泌尿器科クリニックにて診療を行い、泌尿器科常勤医のいない病院や小規模クリニックでの泌尿器科診療を経験することになります。
本専門研修プログラムの連携施設は地域、大学の枠を超えた研修施設群が形成されています。また、独特な医療圏にあり、本土とは異なった疫学性のある琉球大学および中部徳洲会病院が加わっている点も特色の一つです。4年間の専門研修期間の間、基幹施設のみならず、連携施設である大学病院においても先進医療を経験し、都市型大病院と大学病院と両方において知識と技術を習得できる機会をもうけ、泌尿器科医としての経験をより深いものにすると同時に、将来進む方向を決める上でより広い視野を育成できるようなプログラムになっています。また、連携施設である都立小児総合医療センターおよび東邦大学医療センター大森病院腎臓学講座では泌尿器科の重要な一分野である血液透析・腎移植を小児と成人両方で経験することができます。東京都立小児総合医療センターにおいてはさらに先天性疾患をはじめ、小児泌尿器科の専門性の高い診療を経験することになります。その一方で研修期間中には必ず研修協力施設である地域の病院やクリニックにおいても診療を経験し、地域医療の意義や病診連携の重要性を理解できるようになっています。将来開業や地域医療への従事を考えている医師には貴重な経験になるはずですし、病院に勤務していく医師にとっても病診連携の重要性を理解するいい機会になるはずです。
泌尿器科医は外科医でありその神髄は手術です。本専門研修プログラムの目標は一般的な目標に加え、「手術が得意な泌尿器科医の育成」を挙げています。手術が得意になるためには若い頃から多くの手術を経験することが重要です。基幹施設の東京医療センターでは常に若い医師が上級医の指導のもと手術を執刀しています。研修開始と同時にダヴィンチのライセンスをとり、ロボット手術を実施しています。連携施設は全て症例数の多い施設であり、そこにおいても同様のポリシーで専攻医の育成にあたります。4年間の研修期間を終了し、専門医になる時点では泌尿器科領域の一般的な手術は全て独り立ちできる技量を獲得しているはずです。
基幹施設においては臨床に従事すると同時に臨床研究も経験してもらうことになります。東京医療センターは悪性腫瘍の症例数が多く、特に前立腺癌診療に関しては国内屈指の施設です。多くの症例から得られる臨床データは今後の医療の発展に不可欠なものですので、臨床研究を通してそれを公に示していくことは、臨床医の責務の一つになります。4年間の研修期間中、連携の大学病院を一施設は経験してもらうことになります。その間は必ず基礎研究の一端にも触れ、医師の学者としてのリサーチマインドを認識してもらうことになります。
東京医療センターのような都市型大病院は大学病院に匹敵した臨床症例数があり、先端医療を経験できることに合わせ、大学病院にはない自由度を兼ね備えています。そのような施設で専門研修を行うことは将来に向けての視野が広がることになり、専門医になった際の方向性を見極める上で貴重な経験になるはずです。さらに連携施設の腎センターと小児病院での専門領域の研修、大学病院での臨床と研究を経験することができ、「東京山の手泌尿器科専門研修プログラム」は充実した内容で理想的なものとなっています。
後期研修ご希望の方はぜひ見学にいらしてください。