「被害4億級納車トラブル問題」に重大証言!

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長野県・長野市にある自動車販売店「デュナミスレーシング」で新車購入のためにお金を払った客に対して、2年以上も納車されず、返金もほとんど行われていない問題。経営するO社長が行方をくらます中、長野県警は2月8日に同社を家宅捜索するなど、本格的な捜査が始まった。取材を続ける中で、ある警察関係者から、このトラブルの核心に迫る重大証言を得ることができた。

「長野県警はO社長の口座や資産などを調べたところ、お金は全くといっていいほどなかったことを確認しているようです。今回のトラブルの経緯からすれば詐欺罪を立証できるかが焦点だとは思いますが、それとは別に、O社長は『道路運送車両法』という法律にも違反している可能性が浮上しているんです」(警察関係者)

新車納車トラブルのこれまでの経緯を簡単に振り返ってみよう。長野市内にある自動車販売店「デュナミスレーシング」で大規模な新車納車トラブルが発覚したのは昨年のこと。

「納車前に全額前金で払ってくれたら安くすると言われて入金したのに、なかなか納車されず、何度も引き延ばされた。納車を催促すると(経営者のO社長から)『サービスを無料にするから』と言われてガマンし続けてきました」といった類の購入者の声が次々と表面化していった。

購入者や警察関係者の話を総合すると、長野県内にとどまらず、新潟、静岡、大阪まで被害者がいた。O社長に金を貸して返ってきていない知人や友人、元従業員や店舗と工場の家主など合わせると被害者の数は100人以上とみられる。

購入者が買った車種は、トヨタ・アルファードを筆頭に、トヨタハリアー、スズキスペーシア、輸入車ではメルセデス・ベンツGクラスなどミニバンやSUVなどが大半を占め、1人当たりの金額は400万円前後がもっとも多かった。単純計算で被害総額は4億円にのぼるとみられていた。

では購入者のお金はどこにいったのか。

デュナミスレーシングから新車を購入した場合、デュナミスレーシングは注文のあった新車をディーラーに発注する。通常であれば、購入者が支払ったお金はディーラーに渡っていないといけないが、今回の新車納車トラブルが発覚した後、被害者の多くがディーラーに問い合わせたところ、「デュナミスレーシングから(新車の)発注は受けていない」と言われたのだという。

つまり、購入者からデュナミスレーシングに入金されたお金は、O社長が抱えていた別の借金返済に充てられていた可能性が高いのだ。

警察関係者が明かした「口座にお金がない」ことを裏付ける、別の事実もある。それは長野県の信濃毎日新聞が2月16日付で報じた、同社が「2年半家賃329万円未払い」で提訴されていた件である。デュナミスレーシングの店舗兼工場と土地の所有者が、昨年11月5日付でデュナミスレーシングのO社長とその連帯保証人に対して、未払い賃料の支払いと土地と建物の明け渡しを求めて提訴していたのだ。

昨年12月と今年1月8日に口頭弁論が開かれ、結審した。同紙によると、判決は3月15日に出るという。

未払いとなっている「2年半」とは、2019年から2021年6月までの約2年半を指す。まさに、デュナミスレーシングの経営が急激に悪化し、新車を買った購入者がお金を払ったのに、なかなか納車されない事案が増え始めた時期と合致する。

とはいえ、この2年半の間に、O社長の口座には1台平均400万円の、しかも1人や2人にはとどまらない数多くの新車購入者からの現金が入金されているはず。本来であれば、提訴された「未払いの家賃329万円」の返済はそれほど困らないはずだ。それでも払えなかったということは、O社長は家賃の賃料を踏み倒さざるを得ないほど、お金に困っていた、ということになる。

さて、冒頭のコメントにある警察関係者が明かした「道路運送車両法違反」とは、「デュナミスレーシング」に当てはめた場合、どのような違反なのか。

「道路運送車両法」とは自動車の安全性を確保し、その適正な使用を期するため、自動車の登録や検査の精度を設け、自動車の整備及び整備事業について規定した法律だ。デュナミスレーシングの場合、最後の「自動車の整備及び整備事業」について疑いがあるものと思われる。

デュナミスレーシングは、自動車の分解整備を行うことを北陸信越運輸局から認められた「認証工場」でもある。この認証を受けると、「自動車整備主任者」として2級以上の資格を持った整備士を登録する決まりがあるが、「デュナミスレーシング」は、実際には存在していない整備士の名義だけ登録したまま経営を続けていた疑いがある、と冒頭の警察関係者は言うのだ。

日産ディーラーを退職したO社長が1995年に「デュナミスレーシング」を創業した当時、新車、中古車の販売、車検、整備、自動車保険にいたるまで車に関する様々なサービスを展開し、整備士も5人いた。

しかし2011年以降に経営が悪化し、O社長自身が2020年に脳梗塞を患ったことも重なり、整備士を雇う経済的余裕がなくなったのではないか。内部事情に詳しい、ある被害者はこう明かす。

「デュナミスレーシングの整備主任者はもう長い間不在です。数年前に退職しています。O社長は『認証工場』の資格を死守するために、その整備士に『名義貸し』をお願いしていたのでしょう。実際、整備はもうこの数年、デュナミスレーシングの工場では行われておらず、車検や整備、タイヤ交換や修理などは周辺の整備工場やガソリンスタンドなどに丸投げしてましたから」

“丸投げ”すること自体は法令違反ではないが、実際には退職して存在していない整備士の名義のままで認証工場の資格を維持していたなら、法令違反となる。O社長が車の購入客に対する客の信頼を維持するための苦肉の策だったのだろうか。

被害者は今、何をすべきか?

「全額入金したのに納車されない…」

車購入をめぐるこのようなトラブルは珍しいことではない。東海地方に住むKさんも2020年2月に入金した中古車で同様の被害を受けたという。中古車販売店で実車を確認し270万円を入金したが、約束の期日を過ぎても何度も言い訳をされ納車されなかった。

そればかりかKさんのもとに届く予定の中古車は、2018年の九州豪雨で冠水し抹消登録(廃車)された車であることがわかったのだ。同店で購入しKさんと同様の被害を受けた購入者は80~90名もいた。

この事件も当初は「詐欺での立件は難しい」と言われていたが、家宅捜索から約7か月後に経営者が逮捕されている。現在、同販売店の経営者は2021年6月頃から収監されており、そこから裁判に出廷しているという。

Kさんは被害者代表として、その経営者逮捕に向けて地道な活動をしてきた。Kさんの活動ナシには経営者逮捕は難しかったと思われる。今、納車詐欺の被害者ができることはあるのか?Kさんはこう明かす。

「自分だけが解決したらよいと思って活動していたら力は発揮できません。人の為にと思うと何百倍もの力が発揮できますね。まずは警察と仲良くなることで、捜査の状況も教えていただけるような関係を作ろうと努力しました。テレビや新聞に出る際は必ず警察へ電話して情報提供をしていました。

そしてマスコミにも詳細な情報提供をしながら、記事やニュースとして報道してもらうことは、警察により動いてもらうという意味でも非常に有効だと思います。『警察は何もしてくれない!』と被害者どうしで批判していても何も始まりません。

現在、おそらく長野県警はO社長について様々な情報収集を行っていると思われます。しかし、警察が集めた情報に対して検察側が『まだ弱い』と判断すると逮捕には至りません。結局は、検察がどう判断するかですから」

悪質な行為が明らかな場合であっても詐欺罪での逮捕はハードルが高い。しかし、被害に遭った人たちが地道な活動をあきらめずに続けることが、大きな「山」を動かすことにつながるのである。

取材・文:加藤久美子