EU、ウクライナの即時加盟拒否 対ロ防衛国防費は増額
【ベルサイユ=竹内康雄】欧州連合(EU)は10~11日にパリ郊外のベルサイユで開いた首脳会議で、ロシアの軍事侵攻に直面するウクライナが求めた即時のEU加盟について事実上拒否した。各加盟国が国防費を増額する方針で一致した。
「ウクライナは欧州の家族に属している」。EU首脳は11日未明に公表した声明で、ウクライナに寄り添う姿勢を示した。ただ、「加盟への近道はない」(オランダのルッテ首相)などとして即時の加盟は退けた。
加盟国が全会一致で加盟交渉入りを認めても、実際には司法や税制、環境など30を超える分野でEUの基準を満たすことが必要となる。戦時の特例措置は講じない。
EUと加盟国が重なる北大西洋条約機構(NATO)もウクライナの加盟には慎重姿勢をとり続けてきた。加盟国の1つがロシアと衝突すれば、NATOはその加盟国を支援する義務があり、ロシアとの全面戦争になる可能性があるためだ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナから周辺国などに逃れた難民は11日までに250万人を超えた。
フォンデアライエン欧州委員長は11日、首脳会議後の記者会見でウクライナから逃げてくる難民を支援するために今後数年で数十億ユーロを投じると表明した。教育や住居に使われるという。
ロシア軍の無差別攻撃が激化するなかでも、NATOがウクライナへ提供する兵器は対戦車ミサイルなどにとどまる。米国が支援し、ポーランドが保有する旧ソ連製戦闘機をウクライナに供与する計画もロシアからの攻撃リスクを考慮し宙に浮いている。
ただ、各国の危機感は高まっており、NATOと共存する形でのEUの安全保障・防衛分野の統合を推進する。
EUのミシェル大統領は11日、国防費の増加を含むEUの防衛力の強化で一致したことを明らかにした。議長国フランスのマクロン大統領も10日「我々の国を守るために、自立せねばならない」と記者団に力説した。
スウェーデンのアンデション首相も「防衛にもっとお金をかける必要がある」と訴えた。NATO非加盟で、EUに加盟する同国は10日、国防費をできるだけ早く国内総生産(GDP)比で2%にすると発表した。足元は1.3%程度だ。
欧州では国防費の増額を発表する国が相次ぐ。ドイツのショルツ首相は2月末、国防費をGDP比で2%以上に引き上げる方針を表明した。足元では1.5%程度。22年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を投じるなど、毎年2%を上回るようにする。
デンマークのフレデリクセン首相も3月6日、約1.3%の国防費を33年までに2%に引き上げると表明。ポーランド政府も足元の2.2%から来年には3%にあげる構えだ。ルーマニアやバルト諸国も国防費を増やす方針を示している。
国防費の増額は欧州にとって長年の課題だ。トランプ前米大統領はドイツなどに増額を強く迫り、米欧の関係が冷え込む主因となっていた。欧州が自発的に国防費の積み増しに動いたのは、ウクライナに軍事侵攻したロシアの脅威を間近に感じたからにほかならない。
とりわけロシアに近い東欧諸国の危機感は強い。EUの防衛・安保分野の統合は、多くの加盟国が重なるNATOの機能を損ないかねないとして、中・東欧やバルト諸国を中心に慎重な国が多かった。だが戦争のリスクが国境近くに迫り、その意識は変わりつつある。
米国が加盟するNATOを優先し、EUの防衛分野の統合深化に慎重だったポーランド。モラウィエツキ首相は2月末の仏紙などとのインタビューで「NATOに統合される形での強力なEU軍の創設を提案した」と語った。NATOと協力しながら、EUの防衛力を強める考え方だ。
中・東欧には小国が多い。予算や人材の面で制約があり、EUが前面に出ることで国境を越えて主導権を握ってほしいとの期待がある。
一方、フランスを筆頭に西欧諸国にはEUとしてまとまることで、NATO内で圧倒的な力を持つ米国に対して一定の発言力を持ちたいとの思いがある。
トランプ氏が欧州防衛を軽視する発言を繰り返したことで、欧州側の米国への不信感はなお残る。NATOと共存しつつも、EUの自立につなげたいとの思惑も透ける。
加盟国は「EUはあくまでNATOを補完する役割」という考え方で一致するが、具体像はまだこれからだ。米国はNATO全体の国防費の約7割を占める。
欧州側が予算を増やしたところで、米国の存在感の大きさは変わらない。米国とどう連携しながらロシアの脅威に対応するか、議論を進めることになる。