ライド・アンド・アルケミスト

RRRRaika

Prologue 彼女から造り出したもの

Introduction ただ君が好きだったから

 生物が、子孫繁栄のための交配以外で命を創り出すことはできない。それは絶対不変の真理だ。けれども、元々の個体などから複製や、合成することはできる。錬金術の極地はそれであり、錬金術を学んで三年が経とうとしている彼は、ようやく──異例なほどの成長速度だったが──、その錬金術の方法論を確立した。


 敷いた紙には単純ながらも安定性の高い六芒星を描いていた。揃えた錬金素材をその上に置いて、それからあの子の鱗を一枚乗せる。青いそれは、今まさに錬金術を行おうとしている少年・レドがかつて相棒としていた竜・アルティマの遺骸の一部だった。自らの首にぶら下げている飾りも、アルティマの鱗である。


 少年の灰色の髪が揺れて、彼は窓を開けていたことに気づいた。何が起こるかわからないが、一応閉めておく。有毒物質が発生する可能性もあるが、かまわない。アルティマにもう一度会えるのなら、どんなリスクだって怖くはなかった。


 ユグリア冒険者学園に入って四年。錬金科へ移って三年目年。まもなくカリキュラムの五年目が終わる。そうすれば、晴れて冒険者だ。


 もう一度でいい。もう一度アルティマとこの世界で旅をしたい。互いに一人ぼっちで、互いにその穴を埋めていた間柄。人と竜という垣根こそあったが、それでも好きだった。家族であると断言できる存在だったのだ。


「もうすぐだよ、アルティマ」


 レドは錬金石を握った。彼が手に入れられる中では最高品質のパラケル級。それを強く握り込んで魔力を練り上げた。渦を巻くそれが石に吸い込まれて、レドは錬金石を錬成陣へ落とす。


 直後、眩い錬成反応が起こった。バチバチと青白い電撃が迸り、夜の闇に閉ざされた室内を染め上げる。蝋燭の火が消え、激しい力の奔流の渦がレドの髪、衣類をはためかせた。目を開けているのが困難になって顔を覆い、そして一際激しくスパークし、ぼんっ、と煙が舞う。


 上手くいったのだろうか。レドは恐る恐るコートの袖で煙を振り払う。舞い散る埃に咳き込み、そうして彼は見た。


 黒い炎で焼ける錬成陣。その中央で蠢く、芋虫のような仔竜。黒く濁った白目の中にはいくつもの瞳。黒い角はアルティマの特徴そのものだが、彼女の特徴であった翼は未発達……というより、もがれたように構築不十分な状態だった。


「アル、ティマ……?」


 竜が一つ、か細く鳴く。ぎゅるぎゅる動く目が、レドを捉えた。その異質な恐ろしさにレドは息を飲んで、思わず後ずさって尻餅をついた。


「ぎゃるる、くるる」


 もぞもぞ動く異形がレドに近いてきた。錬成不十分な錬金生物はその恨みから、術師を殺そうとする。錬金術の大元となった死霊術で作られた最初の創造物ザ・ワンがそうであったように。


「君は、俺のことを覚えてる? 君は、俺が知ってるアルティマなのか?」


 異形がレドの足に引っ付いた。肉を食いちぎられる覚悟をしていたが、その仔竜はレドの足をズボン越しに甘噛みし、甘えるように「きゅるるるる」と鳴いた。その声は、アルティマが甘えてくる時の声にそっくりだった。


「俺が恨めしくないのか?」


「きゃうるるる」


 異形は擦り寄って、胸元に来た。大きく裂けた口から三又の舌を伸ばし、顔を舐めてきた。


「そっか」


 レドはその竜を抱きしめる。


「おかえり、……俺の可愛い、たった一人の竜」

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ライド・アンド・アルケミスト RRRRaika @Thukinohra0707

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