【3月9日 時事通信社】ロシアのウクライナ軍事侵攻で、両国のプロパガンダ合戦が先鋭化している。ロシアが国営メディアやテレビを重視する旧来型の宣伝工作を行っているのに対し、ウクライナはインターネット交流サイト(SNS)を使って情報を拡散。虚実入り交じった情報で憎悪をかき立てる手法は、双方に深い禍根を残しそうだ。

 プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権をナチス・ドイツの流れをくむ「ネオナチ」と決め付け、ウクライナの「非ナチ化」を侵攻の目的に掲げている。そのためロシア国営テレビでは「ネオナチ」という言葉が飛び交い、著名俳優らが「ナチズムの遺物が(第2次世界大戦終結の)1945年以降も残っていた」と語り、侵攻を支持する宣伝も流れるようになった。

 「ウクライナは非道」と印象付けるために「ウクライナの研究施設で生物兵器が開発されていたことが確認された」(国防省)といった主張も繰り返されている。プーチン政権が近年、ロシアの前身のソ連が第2次大戦でナチスを破った歴史を求心力維持のために活用してきた経緯もあり、「ネオナチとの戦い」を前面に出して侵攻を正当化している。

 これに対しウクライナは、情報機関のウクライナ保安局(SBU)がフェイスブックなどのSNSを主戦場に情報戦を展開する。SBUは、捕虜となったロシア兵がロシア国内の家族に電話で「プーチンはわれわれを裏切った。民間人を殺すために戦場に送り込まれた」などと話す様子を動画で公開。「ロシアの戦争犯罪者の摘発を続けている」とアピールしている。

 ただ、ウクライナ側のこうした対応は捕虜の人道的待遇を定めたジュネーブ条約に違反している可能性がある。赤十字国際委員会(ICRC)は4日の声明で、「捕虜と拘束された民間人は尊厳をもって扱われなければならず、ソーシャルメディア上で流通する画像を含め、公衆の好奇心にさらされることから絶対に守られなければならない」と批判した。(c)時事通信社