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NHKで解説 小泉悠が“丸の内OL”を名乗るワケ

「週刊文春」編集部

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 冷静な語り口でウクライナ情勢を分析し、テレビで引っ張りだこの東大先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠(ゆう)氏(39)。3月4日に3番組をハシゴ、翌々日は「NHKスペシャル」に出演した。だが彼にはテレビでは見せない素顔が――。

大学での仕事も忙しいという

「紛れもなくロシア研究の第一人者ですよ」

 こう断言するのは、小泉氏が19年、『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版)で受賞したサントリー学芸賞の選考委員の一人。

サントリー学芸賞受賞作

「国際関係、文化、思想に精通し、ロシア人のメンタル構造を理解した上で軍事問題を論じる。自身で『軍事オタク』と言っていますが遥かに視野が広い」(同前)

 同業者も絶賛する能力は、いかにして磨かれたのか。小泉氏に電話すると「僕、ガタガタな人生を送っているので」と苦笑しながら研究の原点を語ってくれた。

「小学生の頃から軍艦少年でした。高校生の頃、ソ連の飛行機の写真集が発売され、『面白いものを作る国だな』と、ロシアに関心を持つようになったのです」

 01年、早稲田大学社会科学部に入るが、同学部にはロシア語の講義が無い。

「そこでNHK『ロシア語会話』などを使って学びました。またロシア軍に関する記事を専門誌『軍事研究』に寄稿していましたね」

 07年に大学院政治学研究科修士課程を出たが「落ちこぼれだった」という。

「駄目な論文を出した後、大急ぎで働ける会社を探したら、バーコードを読み取る機械を作る中小企業が拾ってくれた。サラリーマンでもいいかなと思ったのですが、実務能力も無いということが判明しまして……」

 1年で退職。実家に籠もり、ニート生活を送った。暗黒の時代を救ったのは、小泉氏の記事の読者だった旧知の外務省関係者である。

「『いま君は何をしているんだ?』と聞かれ、『ニートです』と話したら、外務省の非常勤調査員の仕事などを紹介して貰った。その後、若手研究者を海外に送り込む制度に空きがあったので、応募したら受かったんです」

 09年末、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所の客員研究員としてモスクワに渡り、運命の出会いを果たす。

「ロシア語は読むばかりで話す訓練を怠っていたので、在留邦人に『プライベートで会話の相手をしてくれる人はいないか』と聞いたら、日本語を学んでいるロシア人女性を紹介された。モスクワ大の大学院生で、修士論文のテーマは落語でした」

 実は小泉氏は中学校の頃、座布団を学校に持参し、一席披露するほど落語にハマっていた。二人は共通の趣味を通じて意気投合し、生涯のパートナーになった。

「奥さんを教材扱いするのは良くないんですが(笑)、勉強させてもらっています」

 現在、小泉氏はメディアのほか、ツイッターでも情報発信に励んでいる。長らく「ユーリィ・イズムィコ」というアカウント名だったが、ウクライナ侵攻後、突如「コスメ女子」や「丸の内OL(27)」など、研究者とは思えない名に“改名”している。一体なぜ?

「丸の内OL」名義のツイッター

「酒飲んで酔っ払って書いているから、覚えてない(笑)。ロシア政府当局に見つからないようにしているのではという説も言われていますが、違いますね」

 フェイスブックには〈働きたくない。この気持ちを50ヶ国語で世界に発信したい〉〈昼間から酒を飲みたい〉と赤裸々に投稿。硬軟織り交ぜて投稿し、読者を取り込もうという作戦か。

フェイスブックも思いのままに綴る

「いえ、本当に本能のままに書いているだけ。戦略的な振る舞いじゃないです」

 テレビでも“本能”の解説を聞いてみたい。

source : 週刊文春 2022年3月17日号

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