こうした脳の中枢神経に作用する向精神薬の子どもへの処方は増加している(詳細は「学校から薬を勧められる『発達障害』の子どもたち」)。
以前は、ADHDに対しては覚醒剤と同じ作用がある「リタリン」(成分はメチルフェニデート)が使用されていた。メチルフェニデートは依存性があることから、「麻薬及び向精神薬取締法」で指定されている。リタリンは不正処方と乱用・依存による死亡事件が問題になったため、2007年からADHDに対しては使用できなくなった。それと同時に登場したのが、リタリンと同じ成分のコンサータだ。
コンサータはリタリンと同じく、脳の神経伝達機能に作用し、集中力を高める効果がある。大量処方や乱用を防ぐため、製造販売者のヤンセンファーマは、第三者機関「コンサータ錠適正流通管理委員会(流通管理委員会)」を設置。販売できる医師と薬局が限定され、患者も登録制になっている。流通管理委員会の委員で、薬物依存症が専門の埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也副病院長はこう話す。
「集中力を高める効果があるが、一方でイライラが出たり、過敏になって落ち着いていられなくなったりする副作用がある。こうした症状は、副作用なのか、本来の症状なのか見分けがつきにくい」
心理的な「依存」は起こる
小学4年生からコンサータを服用している男性の母親は、「必要がなくなったら、いつでも止められる」と医師に言われ、風邪薬を飲むような感覚で服用を始めたという。「コンサータを飲み始めてから食欲がなくなり、給食を食べられなくなりました。健康診断では毎年、やせ過ぎと言われていました」。
24歳の現在もコンサータだけでなく、リスパダールや睡眠薬、抗不安薬も処方され、量と種類は増えるばかりだ。吉田さんの娘やこの男性のように、子どもの頃からの長期服用で薬を止められないケースは珍しくない。
コンサータはリタリンと異なり、薬の成分がゆっくりと溶け出す。そのためリタリンのような身体的な依存性は低く、乱用は起こりにくいといわれている。
しかし、「長く使うと、心理的な依存は起こる」と児童精神科医の石川憲彦医師は指摘する。家族や周囲が「薬を飲んでいたほうがいいよね」と服用を求めるようになる。そして、本人も飲んでいる状態が普通になると、薬がないと不安になりやめることができない。