ドラマ、映画、マンガの結末など、誰かと感動を分かち合いたい。だけど、これから見る人のためにネタバレはしたくない。そんな人に支持されているTwitter連携サービスが「fusetter(ふせったー)」です。特定の人にだけ想い伝え、他の人には読まれたくない部分を伏せ字にしてツイートすることができ、これまで500万ユーザーに利用されています。運営企業にヒットの秘密を聞きに行ってみると、そこで聞けたのはfusetter(ふせったー)にかける、ある二人の想いでした――。
プロフィール
1969年、東京生まれ。株式会社信興テクノミスト つぐみ 課長。
1992年からプログラマー、SEとして大規模病院向け医療事務システムの開発、運用を担当。2010年、自社サービスを企画開発する新設部門に異動し、Webサービス、モバイルアプリの企画、マネジメントを行う。2012年にローンチしたWebサービス『fusetter(ふせったー)』では、プロジェクトリーダーとして立ち上げから関与。また、自社サービス『おみやげーと』では、編集長「つのっち」として自社メディアにてお土産を通し地方の持つ魅力を引き出すべく、自ら身体を張って活躍中。
1968年、東京生まれ。株式会社信興制作所 DEO/専務執行役員。
2016年、信興テクノミストに合流。クリエイティブディレクターとして『東京マラソン』、環境省『チーム・マイナス6%』に立ち上げ段階から関与。他にも国内外大手企業のブランディングから製品キャンペーンまでを広く手がける。現在は自社サービスのストーリーマーケティングやクリエーター育成を中心にデザイン思考できる組織「つぐみ」にて、まだ世の中にないコトを生み出す事に心血を注いでいる。休日は2014年に立ち上げた日本唯一のビンテージママチャリオーダー専門店『レトロサイクル』店主としての顔も。
東日本大震災が発生。その時、会社では……
fusetter(ふせったー)は、ネタバレを「〇〇〇」と伏せ字にして防げることから、ユーザーに「やさしい」「おもいやりのある」サービスと言われています。運営しているのは信興テクノミストの「つぐみ」という部署です。
「前社長が野鳥好きということもありますが、つくって、つむいで、つなぐ組。部や課ではなく学校の「組」のように仲間が1つにまとまった集団になる。その想いが込められています」と話すのは、つぐみ課長の角田昌治さん。fusetter(ふせったー)に開発当初から携わり、運営担当を務めています。
信興テクノミストはもともと通信機器の商社として1930年に創業された会社。当時は信興商会という社名でした。その後、1947年に信興製作所を設立。1967年にはコンピュータ部門を設立して大型汎用機の運用サービスを開始し、1971年からはシステム開発を手がけるようになりました。信興テクノミストという社名になったのは1991年のことです。
パソコンという言葉もなかった時代に産声をあげていながらも、現在は業務システムなどの開発・構築・運用を主力事業としているITトータルソリューションカンパニー。時代の流れ、取引先のニーズを読み取り、柔軟に対応してきました。
2011年にコンシューマー事業をスタートさせ、fusetter(ふせったー)のサービス提供は2012年2月22日から。誕生のきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。この日、信興テクノミストの幹部社員は研修のため箱根にいました。全国規模で携帯電話がつながりにくくなり、安否確認などTwitterで連絡を取り合う人々。この光景を見た角田さんは「クローズドで情報のやりとりができたら、もっと安心できるのではないか」と感じたそうです。この出来事から、情報を発信しながらも、一部は伏せ字にして、特定の人だけに伝えられるfusetter(ふせったー)が生まれました。
不快感を与える広告は一切NGです
「便利というだけでなく、やさしいと言ってもらえるWebサービスは、それほどこの世の中にはない。これは会社の宝物。大切に育てないと」
そう話すのは、行政や大手メーカーをクライアントに数多くのプロモーションを手がけてきたクリエイターで、角田さんとともにfusetter(ふせったー)を育てる髙田幸男さん。製造業であった信興製作所の社名を創造業的にアレンジして信興制作所として復活させたDEO(Design Executive Officer)であり、つぐみのクリエイティブディレクター。fusetter(ふせったー)のブランディングを統括するラスボス的な存在です。
聞けば、fusetter(ふせったー)は収益が出ていないどころか赤字なのだそう。通常であれば広告で収益を確保するビジネスモデルながら、「厳しく審査して、表示されるバナー広告はエロ・グロなもの、使っていただけるユーザーに不快感を与えるものは一切NGにしています」と髙田さんは話します。
その他の収入源は、120円で販売しているイメージキャラクター「伏せ太」のLINEスタンプのみ。続けていられるのは、信興テクノミストの他部署の事業に支えられているおかげなのだそうです。
ユーザーの増加や親和性の高いゲームのイベントなど、日によってはサーバーがパンクするほどのアクセスがあり、事前に予測できる場合はサーバーを増やして対応していたものの、それも限界。「これ以上、他部署に負担をかけるのは申し訳ないから」と、サーバーを強化する費用をクラウドファンディングで集めることにしました。
▼伏せ字ツイートでおなじみ ふせったー応援プロジェクトPR動画– YouTube
しかし、いざ始まってみると開始20分で予定していた枠がすべて埋まり、その出来事がニュースになるほど話題となり、Twitterでは「またやってほしい」との声が続出。あまりの反響の多さに本来予定していなかったプロジェクト第二弾の開催も決定しました。取材はプロジェクト第一段の開始前に行われたのですが、当時はまさかこのような結果になるとは想像すらしていない、といった様子でした。
メディア露出についても「私たちの想いを理解していただけない場合は、どんなに大手でも、たとえ公共放送でもお断りです」と髙田さん。「ユーザーに不信感をもたれるようなことは、あってはいけない」と、これまでに映画とのタイアップ企画などを提案されたこともありましたが、断ったといいます。大ヒットが見込まれる話題作でしたが、fusetter(ふせったー)がこれまで積み上げてきたイメージを蔑ろにされてしまうと感じたためです。
「私たちの想いを理解してくれるのなら、できる限り協力したいのですが、そうではなかったので」。なぜ、そこまでこだわるのでしょうか?
やさしいサービスと言われ続けるように
fusetter(ふせったー)を語る上で欠かすことのできないのが、イメージキャラクターの伏せ太さん。愛くるしい外見とユーザーの心を掴んで離さないユーモアあふれるトークが人気のワンコです。もともと伏せ太さんはエンジニアとして勤務する一方、コンシューマー向けWebサービスのもう1本の柱であるお土産情報メディア「おみやげーと」で、お土産紹介のコメントを書いていました。しかし、その独特な視点に光るものを感じた二人は、fusetter(ふせったー)のTwitterアカウントを任せることにしたのです。
「任せてすぐ、ユーザーを大切にする姿勢が愛されている要因だと気付きました。伏せ太に「好きにしていいよ」と伝えてからは、サーバーメンテナンス後に詫び石を贈るなど、ユーザーが求めることを自分で考えて発信するようになって。話題になったのはそれからですね」と髙田さんは当時のことを振り返ります。
もし、fusetter(ふせったー)が「やさしい」「おもいやりのある」サービスではなかったら…? 恐らく現在のようにTwitterユーザーに愛されることも、信興テクノミストが世間に認知されることもなかったでしょう。「最近では、fusetter(ふせったー)の信興テクノミストだから、と仕事を依頼されることも増えました。若手クリエイター達に活躍の場を与えることができるのも、fusetter(ふせったー)のおかげなんです」と髙田さんは語ります。
Twitterユーザーのため、クリエイターのため、やさしいサービスと言われ続けるように。やさしいサービスには、やさしい想いが込められていました。
実現したい想いのために
「クリエイターとは、職業ではなく、生き方。想いを実現するために、あらゆる方法を模索できる人のことなんです」(髙田さん)。
今、信興テクノミストが目指しているのは、自分たちの手で新しいサービスを生み出すクリエイターの育成。5年後、10年後を見据えて、あらためて「作る」から「創る」会社に回帰するために、信興テクノミストという会社をつくりかえている最中なのです。
そのための第一歩として生まれたのが、つぐみです。若手クリエイターがいつまでもピュアな気持ちで、想いのこもったクリエイティブができるように。経験豊富な世代が率先して矢面に立ち、方向性を示しています。いつか、自分たちの想いを受け継いで、信興テクノミストを引っ張っていく存在になってもらいたい。「信興テクノミストという会社全体をつぐみにすることが、僕たちの最終目標なんです」と、語る二人の目には強い決意の色が見えました。
最近、その想いが着実に実を結んでいると感じる出来事がありました。角田さんが「つのっち」、髙田さんが「ヒゲメガネ」として登場しているおみやげーとに、想いを大切にした企画を持ち込んでくる社員が出てきたのです。「地方出身者が多いので、地元に何かを返したいという若い社員が多いですね。その想いで作られるサービスは今後もっと強くなりますよ」(髙田さん)。
ITソリューションを手がけるにしても、業務システムやECサイトの開発・構築するうえでクライアントの世界観に合わせた仕様とデザインを提案し、オリジナリティを発揮しています。場合によっては、IT以外の分野でクライアントの想いを実現する取り組みを考えて提案することもあるのだとか。ITやWebからかけ離れたサービスを提案できることも、今の信興テクノミストの強みなのです。
目先の利益、一瞬の注目よりも二人が大切にしていること。それは、「クリエイティブでコミュニケーションを活性化させ、日本を元気にすること」だと言います。おみやげーとではWebとリアルを融合したイベントなどを計画していたり、VRを活用したアイデアが社員から出ていたりと、面白い企画は日々生まれています。これからも信興テクノミストから目が離せません。
マネタイズできること。話題になること。それだけでクリエイティブが成功したとは言えません。どこに重きを置いて、どんな価値判断をして、何を大切にしていくか。その点はきわめて重要です。優れた機能のサービスというだけでなく、あえて露出を避けて、伏せてきたことも、fusetter(ふせったー)が支持される理由だったのかもしれませんね。
インタビュー・テキスト:吉牟田 祐司(文章舎)/編集:CREATIVE VILLAGE編集部
関連リンク
https://fusetter.com/
▼伏せ太@ふせったー公式アカウント(@fusetter) | Twitter
https://twitter.com/fusetter