【火曜特集】(176) スタッフ脱退に不当労働裁判…『日本聖書協会』の社会的責任を問う!
日本のキリスト教徒の約8割が使用するといわれる『新共同訳聖書』の出版元、一般財団法人『日本聖書協会』(東京都中央区)。同協会がキリスト教関連のニュース情報をインターネット上で配信する為に、2018年6月に『クリスチャンプレス』という名のニュースサイトを立ち上げたことは、本誌23号で既に報じた。クリスチャンプレスは元々、東京都千代田区にある株式会社『クリスチャントゥデイ』が運営する先行サイト『クリスチャントゥデイ』で昨年初頭、運営幹部がカルト宗教団体と繋がっているのではないかとの疑惑(※本誌22号で詳報)が持ち上がったところから、これに罪悪感を抱いて退職したクリスチャントゥデイのスタッフたちを、聖書協会が新部署のメディア部で招き、発足させたものだ。立ち上げ直前の同年5月21日に日本聖書協会で行なわれた記者会見では、クリスチャントゥデイに引き続きクリスチャンプレスでも編集長を務めることになった雑賀信行氏から、「これは神様のお導きだと思っている。殉教しても構わない」等の決意が語られた。ただ、その会見では聖書協会の渡部信総主事が「赤字で運営するつもりはない」と宣言する一方、記者たちから経営計画や収益の見通しを問われても具体的な回答が殆どなされず、本誌のみならず、一部のキリスト教関係メディアからも、先行きを疑問視する報道が当時なされた。ところが、この会見から1年近くが過ぎようとしていた2019年春、立ち上げ時の関係者の口ぶりからすると意外な情報が飛び込んできた。クリスチャンプレスが招き入れた旧クリスチャントゥデイのスタッフたちの内、複数が既に脱退してしまい、クリスチャンプレス内部は混乱状況にあるというのだ。
どうしてそんなことになってしまったのか。以下は、クリスチャンプレスの現状について、筆者が掴んだ情報の一端である。クリスチャントゥデイ脱語組の一人で、広告営業を担当していたA氏が辞めたのは、2019年3月のこと。その直後、クリスチャンプレスの営業活動は一時的にストップしてしまったという。ウェブメディアでは、既存の新聞や雑誌等のように特定のスポンサーに広告枠を売るのではなく、個々の読者の検索・閲覧履歴により、その度に個別の広告が表示され、PVに応じて広告代理店から広告料が払われるインタレストマッチ広告やターゲティング広告が一般的 だ。だが、クリスチャンプレスでは広告出稿主になり得るキリスト教関係の団体や企業への直接の働きかけ(※広告営業)によって広告が集められており、その結果、殆ど一人で営業を担当していたA氏が辞めてしまった結果、営業部門も一時的に止まってしまったということのようだ。今回、A氏への直接の取材は叶わなかったが、筆者が得た内部情報からは、A氏がクリスチャンプレスを見限った理由もわかる。今、筆者の手元に日本聖書協会の会計資料の写しがあるのだが、それによると、協会はA氏に対し、月額9万円程しか報酬を支払っていなかったのだ。なお、A氏が協会と結んでいた契約は業務委託契約であり、この場合、協会側は最低時給を保証する必要等はなく、A氏の報解がいくら低くても即違法ではない。しかし、キリスト教界の事情に詳しい然る関係者は、こう言う。「Aさんは、可処分時間のほぼ全てをクリスチャンプレスの為に使って働いていました。そんな人に、一人の大人が真面に生活することも難しい低い報酬しか払わなかったのは、道義上問題でしょう。またAさんは、協会から『他の仕事はするな』と命じられていたとも聞いています」。一般に業務委託契約では、発注者は業務を委託する者に業務の進め方についての指揮・命令をすることはできない。A氏が本当に「他の仕事はするな」と言われていたのならば、これは労働基準法や職業安定法、労働者派遣法等に抵触する“偽装請負”という犯罪行為に該当する。「同じく、クリスチャントゥディ脱落組のB記者もクリスチャンプレスにて業務委託で働いていたが、原橋一本あたりの報酬は最高で1万数千円。また、編集長から他媒体に寄稿しないよう求められていたらしい。そのB氏も結局、クリスチャンプレスを辞めてしまった」(同)。
更に取材を進めると、こうした謂わばブラック労働はクリスチャンプレスに限らず、日本聖書協会全体に広がっていたこともわかってきた。協会では聖書やキリスト教関連書を販売する為の拠点として、全国に6つの直営当店を抱えているのだが、2019年4月、その内の2店で店長を務めていた協会職員のC氏が、未払い賃金や渡部総主事によるパワハラ被害の慰謝料の支払い等を求め、東京地裁に提訴しているのだ。C氏は東京と大阪の2店舗の業務をカバーする為に、時間外労働や休日出勤、深夜残業もこなしてきたのだが、協会はC氏が管理監督者に当たるとして、時間外割増手当等を一切払っていなかった。労働基準法では、一般の労働者と管理監督者を分け、後者を労働基準法の適用外としているが、これは“労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な関係にある者”が対象で、一般的な用語としての管理職とは全く異なる(※通常は中小企業ならば役員以上、大企業ならば部長以上が該当する)。10年程前に『日本マクドナルド』等の飲食チェーンで、店長を名目上の管理監督者と扱い、残業代の支払いを違法に免れていたことが発覚し、社会的非難を浴びるケースが多発したが、C氏への処遇は、この“古典的違法行為”に該当する可能性が極めて高い。C氏は提訴に先立つ2018年12月、東京地裁に労働審判の手続き申立てもしているが、ここで審判官は協会がC氏に和解金を払う形での和解を勧めた事実も、それを裏付けている。にも拘わらず、本格的な法廷闘争に突入したのは、協会がここに至っても自らの非を認めず、和解案を拒否したからである。
なおC氏によると、協会の事務局には契約社員4人を除く26人の職員がいるが、その内、主任以上の肩書きを持つ者は管理監督者である為、残業代が払われておらず、これに該当しないのは4人しかいないという。常識的にはあり得ない数だ。こうした協会を巡る様々なトラブルの責任者として、多くの関係者が名指しするのが、前述の渡部総主事である。そして、渡部氏は職員らにブラック労働を強いながら、自身だけはかなりの役得を享受しているという情報があるのだ。協会の会計資料によると、協会では東京都中央区にあるタワーマンションの一室と付属の駐車場、トランクルームを借り上げ、その費用として毎月約40万円を計上している。これは渡部氏の“社宅”なのだという。しかも、その一方で渡部氏は協会に、東京都板橋区から電車通勤しているとも申請しており、その為の交通費として約6万円の通勤定期代を半年毎に受給しているのだ。これに加えて多くの関係者が批判するのが、渡部氏が国際会議への出席、若しくは海外研修等の名目で頻繁に海外への、しかも2週間前後もの長期出張を行なっていることである。確かに、筆者が入手した協会の内部資料から渡部氏の2018年のスケジュールを見ると、2月には『米国国家朝餐祈祷会』出席等を名目に、18日間の日程でアメリカとチェコを訪ねている他、6月には聖書協会世界連盟の行事でキューバに11日間滞在する20等、ほぼ毎月、海外出張に出かけている。そして、2018年に海外で過ごした日数は、優に100日を超える。この意味を、然る関係者は次のように語る。「渡部氏の出張費用は、1回につき300万円にもなる場合がある。約20年の在任期間中、彼がこうした活動に費やしたお金は数億円規模にもなると思う。全国各地の教会や諸団体、個々人が『よりよい聖書刊行の為に』と捧げてくれた献金を、あまりに放埓に使ってはいないか」。以上の取材内容を基に日本聖書協会へ問い合わせると、協会及び渡部総主事から以下のような回答があった。
また、日本聖書協会の本来のトップである大宮博理事長(※『東洋英和女学院』理事長)にも、提訴されている件等についてコメントを求めたが、「その件は総主事に任せており、自分としては細かいことまでは知らない」との回答だった。日本聖書協会に財団法人格が与えられているのは、一定の公益性が期待されているからであり、その資金面にも当然ながら高い透明性が要求される。協会の理事たちは宗教者として、もう少し自らの責任を自覚すべきではないのか。 (取材・文/ルポライター 古川琢也)――クリスチャンプレスの元スタッフに対し、「他の仕事はするな」と命じたのは事実か。
「そんなことは言っていない。事実無根だ。業務契約書の通りに対応している」
――職員から訴えられている件に反論は。本当に22人もの職員を管理監督者扱いにしているのか。
「現在係争中の案件につき、回答を控えさせてもらう」
――社宅、海外出張については。
「社宅、交通費の扱いは前任者と同じだし、理事会から総主事として招聘された際に理事会から提示されたもの。海外出張の日程は、総主事の務めを果たす為に必要な最低限と認識している。何れも税務署の調査を受け、“個人の所得には当たらない”ことは確認している」
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