酒井信彦の日本ナショナリズム
岸田政権の北京冬季五輪への「玉虫色」の対応は歴史的大失策だ
『月刊日本』2022年2月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2022年1月22日
2月4日から北京冬季オリンピックが開始されるが、それに先立ってかねてから予想されていた、アメリカによる外交ボイコットが、12月6日に正式に表明された。ところで日本の岸田政権の対応はどうだったかというと、思った通りもたもたと逡巡して、方針を明らかにしたのは、12月24日になってからであった。
この経緯は、25日朝刊の朝日新聞「時時刻刻」欄に詳しい記事があり、 その記事のリードに、「政府は24日、北京冬季五論・パラリンピックに政府関係者を派遣しないことを表明した。同盟国・米国と足並みをそろえた事実上の『外交ボイコット』だが、中国にも配慮して、その言葉は使わず、理由も人権問題に言及せず『総合的な判断』と強調。米中双方の顔を立てたかっこうだ」とあり、要点がまとめられている。
表明は官房長官の記者会見でまず発表された。出席する人間は、あくまで国際オリンピック委員会からの招待であることを強調し、また派遣しない理由としては、人権問題を出さずに、「総合的に勘案して判断」した結果であると述べて、「外国ボイコット」という文言も使わなかったという。朝日ですら見出しで、「玉虫色」と表現するほどで、この問題に対する首相の極めて消極的な態度が、良く表れていた。
朝日は「日米双方の顔を立てた」と述べるが、この首相の判断で喜んだのは、もちろん中国の方であった。この記事では「中国外務省の趙立堅副報道局長は24日の定例会見で、『中国はJOCなどの関係者や日本選手が北京冬季五輪に参加するため訪中することを歓迎する』と日本を評価した。米英豪加の外交ボイコット決定時に『そもそも招待していない』などと突き放した対応とは、明らかに異なる」と説明されている。
この問題に関する朝日新聞の社説は、翌26日に出ている。冒頭近くで「粘り強い対話の努力とバランスのとれた賢明な外交が不可欠だ」と述べているから、「米中双方の顔を立てた」とする今回の岸田外交には、大いに賛成であるに違いない。ただしあまり絶賛することもできないので、「ただ、中国への配慮からか、その理由についてはあいまいな説明に終始している」、「しかし、香港の民主主義の弾圧や新疆ウイグルなどの問題に具体的に言及することはなかった」と一応不満な点を指摘するが、言うまでもないが、強い批判はあるわけがない。
これに対して、産経新聞の社説(主張)は、25日付けで直ちに出されており、これは朝日の社説と異なって、岸田政権の判断を、はっきりと正面から批判している。
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中国に一方的に利用され、最大の敵国に育てた愚かな日本
『月刊日本』2022年1月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2021年12月22日
12月1日、安倍元首相は台湾のシンクタンクが主催する、シンポジウムにオンライン参加した講演で、「台湾の有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもある」と、明確に発言した。2日の産経の記事によると、「台湾各紙は同日、電子版などで安倍氏の講演の詳細を大きく伝えた」とある。同日の朝日の記事の末尾には、「安倍氏の発言を受けて、中国外務省報道官は1日の定例会見で『強烈な不満と断固たる反対』を表明。『外交ルートを通じ厳正な申し入れをした』と、強く反発した」とあって、産経と朝日の報道姿勢の違いがよく出ている。
中国が安倍氏の講演に対して、神経をとがらせたは、台湾をめぐる国際情勢の各種の変化が原因であることは言うまでもない。その代表的なものが、アメリカ議会議員による台湾訪問である。それについては、12月3日の朝日新聞朝刊が、総合面と国際面の両方で報道している。そこには訪台議員の中心人物である、マイク・タカノ民主党下院議員に対する、朝日新聞のインタビューが載っている。同氏による、民主党と共和党では訪問目的が違い、民主党は民主主義で共和党は軍事だとの説を紹介するが、そのすぐ後で、台湾に対するいじめや不公平な競争に反対する点では一致していると書かれているから、結局はおなじである。
この記事には朝日らしく、中国側の言い分が比較的詳しく述べられている。その朝日でさえ、アメリカは台湾を軍事防衛することを明言しない曖昧戦略をとってきたが、「米国の台湾防衛は『公然の秘密』となっているのが実情だ」と書かざるを得ないのは注目すべきである。
さらにアメリカは12月9日・10日に、オンライン形式による民主主義サミットを計画している。このサミットの具体的な成果については、本稿の作成時点では確認できないが、世界の110の国と地域が参加する予定で、台湾は招待されているが、中国・ロシアは招かれていないところがポイントである。
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朝日新聞の政権へのネガティブキャンペーンの失敗
『月刊日本』2021年12月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2021年11月22日
10月31日に四年ぶりの総選挙が行われ、事前の予想に反して自民党が健闘し、安定多数を維持した。この選挙に関しては、朝日新聞は政権へのネガティブキャンペーンを展開し、立憲民主党と共産党の共闘を応援していたが、その期待に反した結果となったわけである。その無念ぶりは11月1日朝刊の見出しに典型的に表れていた。
まず1面では、黒字白抜きの横型の大見出しで、「自民伸びず 過半数は維持」とあり、縦見出しでは「立憲後退 共闘生かせず」とある。初めから自民の大幅減少が予想されたのであるから、「伸びず」は明らかに意図的にごまかした表現である。なおこの横見出しはデジタル版では同じ16刷りなのに、「自公、290議席超す」と変えられている。
2面の大きな横見出しは、「自民苦い再出発」で、縦見出しでは「幹部、相次ぎ選挙区落選」、「首相笑顔なく『信任された』」とある。予想外の議席を獲得できたのだから、「苦い再出発」であるはずがない。「首相笑顔なく」とあるが、そこに掲載されている写真の首相は、大笑いしているわけではないが、かすかに微笑んでいるようにみえる。
朝日がまったく歓迎しない、自民党の健闘が起きてしまったために、朝日の報道の焦点は、議席の数よりも、「幹部、相次ぎ選挙区落選」の方となる。それに関して、11月1日の社説「岸田政権、継続へ」では、「世論調査などで、安倍・菅路線からの転換を求める声が多いなか、森友・加計・桜を見る会といった『負の遺産』の清算に後ろ向きな姿勢も影響しただろう。疑惑についての説明責任から逃げ回った甘利氏の落選は、『政治とカネ』の問題に対する有権者の厳しい評価に違いない。首相に幹事長を辞任する意向を伝えたのは当然だ」と述べている。
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政権交代を機に公明党が独占する国土交通大臣ポストを見直せ
『月刊日本』2021年11月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2021年10月22日
自民党新総裁に岸田文雄氏が選出された。菅前首相が自ら辞任したためである。菅氏はメディアの権力によって、辞任に追い込まれたと言ってよい。菅氏はコロナ問題において、ワクチンの接種など、それなりに成功を収めていたにも拘わらず、朝日をはじめとする主流メディアは、成果を全く認めずに徹底的に批判した。それはまさに誹謗・中傷に満ちたものであったといえる。それによって内閣支持率は急速に下落して、首相の地元である横浜市長選挙まで、大敗を喫した。ショックを受けた首相は、自ら迷走を繰り返して、辞任のやむなきに至った。
オリンピック・パラリンピックの開催においては、、主流メディアの中止大キャンペーンにも拘わらず、これを実際に遂行した。ただし残念なことは、無観客開催にしてしまったことである。そのためチケット収入が消し飛んで、大幅な赤字を生み出すことになった。この点は、頑張り切れなかったわけである。
それによって日本が優勝したソフトボールも野球も、日本人は直接に観戦・応援することができなかった。オリンピックが終わると、プロ野球は公式に開催されて、多くの観客が観戦している。その人数は新聞のスポーツ欄に明記されている。無観客となったパラリンピック期間中も、そこには数千人から一万人を超える数字が示されているのである。
菅政権は短期間に各種の実績を挙げたが、反対に大きな失策も犯した。その代表的な例は脱炭素問題に関する、無謀な公約である。温室効果ガスを、2030年までに、13年比で46パーセント削減、2050年には全廃するというもので、これには大いに疑問が提出されている。そうなれば現在の日本で唯一の基幹産業である自動車産業に大打撃を与えて、日本は完全に没落するという。杉山大志氏など多くの論者が、口を酸っぱくして主張している。
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戦争犯罪・責任を少しも反省しない朝日新聞
『月刊日本』2021年10月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2021年9月22日
8月15日は終戦の日であるが、朝日新聞の日曜日のコラム「日曜に想う」は、編集委員・曽我豪の担当であった。そのタイトルが「終戦とはごまかしのことばだ」とあるのが目を引いた。終戦記念日のコラムのとしては、なかなか興味深いタイトルといえるだろう。
このコラムはまず冒頭で、「76年前の今日は終戦、いや、敗戦の日である。その事実をただちにごまかさず国民へ訴えようとした首相がいた」という。その首相は誰かというと、続けて「1945(昭和20)年8月17日、太平洋戦争を終結させた鈴木貫太郎首相の後を襲って陸軍大将で皇族の東久邇宮稔彦王が首相に就任、初閣議を開く」とあるように、その首相とは東久邇宮首相である。そしてその閣議の様子を以下のように説明している。
「初閣議では、国民に向け『今後に対処する覚悟』と題した声明を出すことが決まる。元朝日新聞副社長で今の官房長官にあたる内閣書記官長に就いた緒方竹虎氏が自ら原文を起草したが、そこに『終戦』の言葉があった」。
続けて「『終戦とはごまかしのことばだ』と断じたのが首相である。『いたずらに国民の覚悟を弛緩せしめるだけだ。これは敗戦の事実を認めてよろしく〝敗戦〟とすべきだ』と言葉の修正を求めた」。
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