東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長(57)がこのほど、スポーツ報知の単独インタビューに応じ、新型コロナ禍の中、実施された大会を振り返った。五輪史上初の1年延期を経て閉幕した東京2020大会を、「今後の世界的イベントが開催できる一つのモデルをつくった」と自己評価。来年2月の北京五輪を経て迎える札幌市の2030年冬季五輪招致に向けた大会になったと語った。(取材・構成=遠藤 洋之)
静寂と熱狂が世界を包んだ1か月半。新型コロナの感染が拡大し、1年延期の末に開催された東京2020大会が閉幕してから100日あまり。橋本会長は大会をこう振り返った。
「無事に大会を終えたこと、そして世界との約束を果たせたことが非常に大きい。コロナ禍という誰も経験したことのない大会をどう乗り切るか。延期が決まってから、ずっとコロナ対策にかけてきたと言っても過言ではない。携わったすべての皆様に感謝しかない」
2月に女性蔑視(べっし)発言で辞任した森喜朗氏の後任に。就任以降も開催反対の世論が渦巻く中、準備を進めた。緊急事態宣言下の首都圏を中心に行われ、一部を除いて会場は無観客に。感染防止策をまとめた参加者向けの「プレーブック(規則集)」を作り、選手にも毎日の検査を義務づけた。前例のない大会は世界30億人が視聴する盛り上がりを見せた。
「よりいい物をつくり上げていこうという、今までにないスポーツの姿を感じた」
コロナ禍で実施した世界最大のイベント。簡素化により、ジェンダー平等、多様性と調和など、日本社会に隠れていた諸問題も大きくクローズアップされた。橋本会長も東京がモデルとなり、世界に新たなスポーツの価値を発信したという手応えを感じた。
「今後、(新たな)感染症が発生した時、世界的なあらゆる大会、注目するようなイベントが、今回を参考にしていただければと思った。東京で一つのモデルはつくったと思う」
五輪は東京から来年2月の冬季北京大会に続く。新たな変異株「オミクロン株」が世界で猛威を振るう状況下は東京と変わらない。
「東京大会の期間中もずっと北京の組織委の方々とはいろいろな会議を重ねてきた。大事なのは正しく恐れること。正しく恐れることが次の行動につながる。東京も非常に困難な状況の中でもやりきれたので大いに参考にし、ぜひ素晴らしい大会にしてほしいと願っている」
東京から北京、そして札幌市の2030年冬季五輪招致につながる。11月には札幌市が72年大会以来、2度目の招致に向け、30年五輪の大会概要案を公表。12月には超党派の招致議連が発足し、参院議員の橋本氏が会長に就任した。
「72年大会で札幌はウィンタースポーツの名所、観光都市に生まれ変わった。今度は50年先の町づくりを示す中で、付加価値がある大会になると思う。北海道は自然エネルギーの宝庫。SDGs(持続可能な開発目標)に配慮することができる大都市・札幌を世界に発信し、東京大会で実現できなかった完全な形での大会の開催を札幌で行えたらと思っている」
東京から札幌へ、再び聖火が戻ってくるための準備は始まっている。
◆東京2020大会アラカルト
▼開催概要 五輪が7月23日~8月8日、パラリンピックは8月24日~9月5日に開催。五輪は過去最多の33競技339種目に206か国・地域から1万1417人が参加。パラには22競技539種目に162か国・地域の4403人が参加して行われた(ともに難民選手団を含む)。
▼開催費用 12月22日の理事会で約1兆4530億円と報告された。招致段階の7340億円からは2倍近い費用。一時は3兆という数字も取りざたされたが、簡素化やほとんどの会場で無観客開催となったことなどによる人件費などの簡素化で、昨年の予算案で示された1兆6440億円から1910億円削減。
▼コロナ対策 来日時、および滞在期間中、関係者は毎日の検査を実施。スクリーニング検査は101万4170件を数え陽性者は299で0・03%。
▼来場者数 コロナ禍前は合計約1000万人を見込んでいたが、五輪は静岡、宮城、茨城県の会場を除いて無観客開催となり、約4万3300人に。パラは学校連携プログラムの1万5700人のみの入場。IOC発表では全世界の30億5000万人がテレビで競技を観戦。
▼日本勢の躍進 メダルは五輪が過去最多の金27、銀14、銅17の計58個。パラも史上2番目の金13、銀15、銅23の51個を獲得。スケートボード女子ストリートでは西矢椛(もみじ)が13歳330日の日本勢最年少で金メダルと若年層が大活躍。