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国連特別会合、ロシア非難相次ぐ 中国は「現状望まず」

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詫摩佳代さん他4名の投稿詫摩佳代渡部恒雄滝田洋一

【ニューヨーク=白岩ひおな】ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、28日に開幕した国連総会の緊急特別会合で近く採決される決議案が明らかになった。「ロシアが核戦力の準備態勢を強化する決定を非難する」との文言を盛り込んだ。ウクライナ侵攻については「最も強い言葉で遺憾の意を表する」との表現にとどめた。安全保障理事会が機能不全に陥るなか、加盟国の支持を広げてロシアの孤立を印象づける狙いがある。

日本経済新聞が入手した決議案では、ロシアに対し、軍の即時、完全かつ無条件の撤退も求めている。ロシアの「特別軍事作戦」宣言を非難し、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立承認についても無条件での撤回を要請している。

ロシアの軍事行動は「国際社会がこの数十年間欧州で見たことのない規模」と指摘した上で「この世代を戦争の惨劇から救うために緊急の行動が必要だ」と訴えた。国家間の法の支配の促進に向け、「国連憲章が最も重要であることを再確認する」と、ロシアの国連憲章違反を指摘した。

緊急特別会合の招集は今回で11回目。安全保障理事会の要請による招集は、イスラエルによるゴラン高原の併合をめぐり招集された1982年以来40年ぶりとなる。侵略行為などに対し「常任理事国の不一致で安保理が国際平和維持の責任を果たせない」場合に使われる措置だ。

28日の緊急特別会合では加盟各国が演説し、ロシアのウクライナ侵攻や、プーチン大統領がロシア軍で核戦力を運用する部隊に高度な警戒態勢に入るよう命じたことを非難した。

中国の張軍国連大使は「状況は中国が望まないところまで発展している。どの当事者にとっても利益にならない」と述べた。「新たな冷戦をあおっても何も得られない」とし「一国の安全保障が他国の安全保障を犠牲にして成り立ってはならない」とも語った。中国は25日の安保理決議案の採決を棄権するなど慎重な姿勢だが、ロシアが核態勢の強化に言及したことで、より踏み込んだ発言をしたとみられる。

グテレス国連事務総長は「核兵器による紛争や使用を正当化するものは何もない」とロシアをけん制。ウクライナとロシアの交渉について「紛争を終わらせるあらゆる平和的努力を歓迎し、奨励する」と言及した上で「国連は対話の努力を支援する用意がある」と呼びかけた。

ウクライナのキスリツァ国連大使は「もしウクライナが生き残れなければ、次に民主主義が陥落しても不思議ではない」と警鐘を鳴らした。フランスのドリビエール国連大使は「誰も視線をそらすことはできない。棄権は力が正しいということに同意する不名誉な選択肢だ」と賛成票を投じるよう各国に求めた。

これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は軍事作戦が自衛権の行使によるものだと反論した上で「ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟がレッドラインであることを再確認しておきたい」とも述べた。

ジョージア(グルジア)のイムナゼ国連大使は2008年のロシアによる旧ソ連のジョージア侵攻に言及し「ロシアの我が国に対する本格的な軍事侵攻は全ての人々にとっての警鐘となるべきものだったが、残念ながらウクライナで同様のシナリオが展開されることを防げなかった。同じことを繰り返してはならない」と行動を呼びかけた。

ベラルーシへの言及も相次いだ。カナダのレイ国連大使は「自国の領土を使用させ、ロシアの違法な侵略戦争に加担している」と批判した。スイスのバエリスウィル国連大使は「軍事作戦にベラルーシの領土が使用されていることを懸念している」と指摘。25日にロシアの拒否権発動で否決された安保理の決議案をめぐり、ロシアが紛争当事者として棄権すべきだったとも述べた。

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  • 詫摩佳代のアバター
    詫摩佳代東京都立大学 法学部教授
    分析・考察

    国連の一連の対応からは、国際機関の限界を認識せざるを得ないですが、他方、国連の役割とは、初代事務総長ハマーショールドが述べたように、’is not get us to heaven but to save us from hell’であることも改めて認識させられます。核をちらつかせ、実力行使を継続する露の横行に対し、一定数以上の加盟国の支持を得て、非難決議を採択できれば、対露制裁の後ろ盾を得ることになります。他方、強い言葉を並べても、露の横暴に対して牙のある措置に合意するわけではありませんから、実質的に露に対抗する、露の動きを止める措置を、引き続き有志国が結束して講じていくより他ありません。

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  • 渡部恒雄のアバター
    渡部恒雄笹川平和財団 上席研究員
    分析・考察

    常任理事国のロシアによる国連憲章を裏切る行為は、国連の存在意義自体を疑わせてしまう深刻な事態です。中国ロシアとの微妙な距離の取り方は、中国の国益達成において国連組織が引き続き重要であることも反映しています。中国にとって国連常任理事国のステータスは、ロシア(当時はソ連)のように国連成立時からあったものではなく、1971年までは台湾が中国を代表しており、新規に国連加盟したアフリカ諸国などを味方につけて、日米欧の多数派をひっくり返して得たものです。今も中国は国連の場でウイグルの人権問題を非難する日米欧に対抗し、アフリカ諸国などを味方につけて多数派を維持しています。国連を壊されては困るはずです。

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  • 滝田洋一のアバター
    滝田洋一日本経済新聞社 編集委員
    別の視点

    忘れてならないのは、中国が台湾の武力統一を排除していない点です。中国の張軍国連大使の発言は意味深長です。「状況は中国が望まないところまで発展している。どの当事者にとっても利益にならない」。要はロシアの電撃戦が成功し、ゼレンスキー政権の打倒を果たしていれば、中国の望むところだった、という気持ちが滲み出ている感じさえします。ロシアのウクライナ侵攻後も中ロは首脳会談を実施し、中国自身は対ロ経済制裁に加わっていません。中国が一番心配するのは、ロシア国民が政権への不満を募らせ、ロシアでも「カラー革命」が起きることのはず。ともあれウクライナ侵攻をくじかせることが、台湾への武力行使への抑止にほかなりません。

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  • 福井健策のアバター
    福井健策骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
    別の視点

    安保理の機能不全と拒否権にここまで脚光があたるのも何年ぶりでしょう。意見の中に、総会の特別決議でロシアを常任理事国からはずすべきというものがあります。調べてみました。 国連憲章ではソ連などの常任理事国化と拒否権は本文で明記され(23・27条)、憲章じたいの改訂にも常任理事国すべてを含む2/3の賛成が必要とあります(108条)。文面上は、限りなく難しそうですね。 安保理改革という宿題を胸に、当面は、現在の「安保理の機能不全」を理由とする総会決議の活用など、できる手段を尽くして行くことが現実的なようです。

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  • 伊藤さゆりのアバター
    伊藤さゆりニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
    分析・考察

    中国の国連大使の発言にある「一国の安全保障が他国の安全保障を犠牲にして成り立ってはならない」は、ロシアが昨年12月に米国とNATOに提案した協定案の第1条の文言と一致するものでもあります。 ロシアは、この「不可分性の原則」を根拠としてNATOの不拡大を求めて来ました。 中国の国連大使の発言には、大規模軍事侵攻という手段の正当性を認めるものではないし、ウクライナの状況を憂慮する、同時に原点にあるロシアの懸念は共有するといった意図が込められているようにも感じます。

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ウクライナ侵攻

ロシアがウクライナに侵攻しました。NATO加盟をめざすウクライナに対し、ロシアはかねて軍事圧力を強めていました。米欧や日本は相次いでロシアへの制裁に動いています。最新ニュースと解説をまとめました。

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