ウルトラの絆、平和を奏でる セブンの音楽家や亡き監督ら
ウルトラセブンなどウルトラマンシリーズの音楽を演奏するコンサートが広島市で開かれた。曲を手がけたのは、広島出身の作曲家、冬木透さん(86)。ともにシリーズの制作にかかわり亡くなった監督や脚本家の書き残したナレーションも披露され、平和のために戦うセブンたちの物語を音楽と言葉で伝えた。
東区民文化センターで23日、最初に披露されたのは、ウルトラセブンの主題歌などを取り入れた交響詩「ウルトラセブン」。「セブン、セブン……」の歌詞で知られるテンポ良いメロディーが吹奏楽に乗せて響いた。陸上自衛隊第13音楽隊(広島県海田町)が演奏した。新型コロナウイルス感染拡大のため、観客は関係者のみに限定した。
作曲した冬木さんは旧満州(現・中国東北部)で生まれ、戦後に母の故郷である現在の北広島町に引き揚げた。高校の途中からは、広島市内で過ごし、同市のエリザベト音楽短大(当時)に通った。その後、「ウルトラセブン」などシリーズの音楽にかかわった。
この日、曲の合間には、物語を説明するナレーションがあり、「セブン」の主人公、モロボシ・ダンについてはこう語られた。
《彼こそが、異星人や怪獣の脅威から地球を守る為に、遥(はる)かな星、光の国から派遣された平和の使徒ウルトラセブンなのだ!》
ナレーションを書いたのは、シリーズの監督や脚本を担い、昨年10月に89歳で亡くなった飯島敏宏さんだ。コンサートを企画した東区民文化センターの館長山本真治さん(60)が「シリーズを知らない人でも、世界観がわかるように」とナレーションを依頼。もともと昨年6月に予定されていた公演向けに書き下ろしたが、コロナ禍のため延期になり、本番を見ることはかなわなかった。
ナレーションの最後には、モロボシ・ダンが自分が「セブン」だと告白して空に飛び立っていく。それに続く冬木さんの音楽では、「セブン、セブン……」の旋律がゆるやかに、厳かに奏でられた。
続いて演奏された交響曲「ウルトラコスモ」ではシリーズで脚本を担い、2020年に82歳で死去した上原正三さんが書いたナレーションも読み上げられた。
シリーズが始まったのは1960年代で、冬木さん、飯島さん、上原さんはともに初期の作品にかかわった。シリーズでは、公害など当時の社会問題も取り上げられた。沖縄出身の上原さんは「差別」をテーマにした脚本も書いた。沖縄への「差別」への思いが背景にあったとされる。
飯島さんが監督と脚本を務めた回で初めて登場した人気怪獣「バルタン星人」は、核爆発で故郷の星を失って、地球に流れ着くという設定で、怪獣も「悪」とは言い切れない存在として描かれる。冬木さんは「(ウルトラマンたちは)悩みながら戦わなきゃいけなかった」と振り返る。
山本さんによると、飯島さんは「一緒に創作した人たちに捧げるつもりで書く」と依頼を引き受けたという。山本さんの心に残ったのは、「ウルトラマンは戦士ではなく『平和の使徒』だ」という言葉。「僕たちも平和のためにできることをやっていかないと」と受けとめる。
ユーチューブ公開へ
コンサートの模様は、東区民文化センターのユーチューブチャンネルで3月中旬から公開する予定。(岡田将平)