@chablis777
シャブリ

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 心の声 (ひなた)あいつ 出番あんの?それも あんな立派な侍の扮装で。大部屋の下っ端の下っ端に出番なんかあるわけあらへんのに。
(轟)珠姫がお花を生けてるところへ悪党たち 上がり込んでくる。
…で 刀 突きつける。
珠姫は 助けを呼ぶ。(すみれ)はい。
はい それを聞いた従者。はい。
はい 急ぎ駆けつけるけれども悪党に ばっさり斬られて絶命すると。ええな?はい。いこう。
お願いしま~す。お願いします!
よ~い スタート。
(棒読みで)キヤ~。 何者じゃ そなたらは。
(棒読みで)キヤ~。
♪~
♪「君と私は仲良くなれるかな」
♪「この世界が終わるその前に」
♪「きっといつか儚く枯れる花」
♪「今、 私の出来うる全てを」
♪「笑って笑って」
♪「愛しい人」
♪「不穏な未来に 手を叩いて」
♪「君と君の大切な人が幸せである」
♪「そのために」
♪「祈りながら sing a song」
♪~
(棒読みで)そなたたちは 何者じゃ~。
くせ者! う~っ! ぐあっ。
ううっ! うわ…。おりゃ~!
(棒読みで)キヤ~!
(轟)カット! カット カット!(畑野)一回止めます!
相変わらずやな~ 美咲すみれ。
ねえねえ 轟さん。あっ 何です?
私 思うんだけど…お武家のお姫様がお花を生けるのっておかしくない?
何で?だって ほら お花ってポロッと首が落ちたりするじゃない。
お武家じゃあ不吉なんじゃないかしら。
ウフッ それが気になっちゃってせりふに集中できないのよ。
う~ん どうしろと。
お茶をたてる場面にしたら どうかしら。
お茶?そう。
今から?うん。いや~ それは…。
お茶の道具くらいあるでしょ?撮影所なんだから。
う~ん…。
指導の先生は?そんなすぐ つかまりませんよ。
フフ… やあねお抹茶ぐらい たてられるわよ。
何年 「黍之丞」シリーズに出てたと思ってるの。
あ… ハハッ そうでしたな。ハッハッハッ。
 心の声 こういうもんなんやろか…撮影って…。
(畑野)改めて テスト!(一同)はい。
よ~い スタート。
(茶しゃくを縁に打つ音)
(棒読みで)キヤ~!何者じゃ そなたらは。
うん。うん。
(棒読みで)何者じゃ。何者じゃ 何者じゃ。そなたたちは何者じゃ。くせ者!
ぐっ!おりゃ。うわっ! ぐっ…。
やあ!があ…!おりゃ~!
うわ…。(棒読みで)キヤ~!
カ~ット。 次 本番。(一同)はい。
本番 準備!(一同)はい。
ねえねえ 轟さん。(轟)はっ?私 思うんだけど。
(小声で)思わんでええ。えっ?
あっ いや…。 何です?
この斬られた従者と珠姫は恋仲だったんじゃないかしら?
はっ? いやいや いやいやそんな設定はありませんわ。
でも その方がこのシーンの深みが増すと思うのよ。
いや ここ そんな深いシーンとちゃいますけど… すんません。
ねえ 轟さん。 そう思わない?
(小声で)何で 監督はどなりつけへんねん。
(小声で)すみれちゃんが「黍之丞」に出とった頃まだ助監督やったんや。ああ…。
(轟)どうしろと?
(棒読みで)キヤ~!何者じゃ そなたらは。
うん。はっ。
(棒読みで)何者じゃ。 何者じゃ 何者じゃ。そなたたちは 何者じゃ。
あっ! くせ者~!おりゃ~!
(棒読みで)千代之介!
あ…。やあ~!うわ…!
(棒読みで)キヤ~!嫌~! 千代之介! 嫌~!千代之介! 千代之介~!千代之介 千代之介 千代之介~。千代之介!そなたの愛 しかと受け止めた!珠は生涯 そなた一人のものじゃ~!
(轟)カ~ット。(カチンコの音)
 心の声 何か よう分からんけどすみれさん ええ作品にしようと思て一生懸命なんやな。
(小声で)はあ~ 編集で 皆 切ってまえ。
(小声で)はい。
ほな 一旦 現場 整えま~す!(一同)はい。
あら。 □原さん いらしてたの?(□原)はい。
すみれさんのお芝居 拝見しよ思て。まあ うれしい。 ウフフッ。
 心の声 そやった。 □原さんにとってもこの撮影は大事なんや。よ~し。
あの…。ああ 大月さんもいてたん。
あの すみれさん。あっ 大月さん。 じき本番やから。
本番終わってからやったら遅いんです。(□原)えっ?
すみれさん。
なあに?
あの… 茶しゃくの抹茶を払う時コツンて音 立てはらへん方がいいですよ。
あっ 私 友達のお母さんが お茶の先生でそれ すごく注意されたんです。
そやから…。
 心の声 よかった。 すみれさん 喜んでくれはった。
轟さん。はい。
休憩にして。えっ?気分悪い。
あ~ すみれさん今 押してるんやわ…。
こんな気分でお芝居なんかできるわけないでしょ!
謝り! 大月さん!謝る?
素人に所作の指導されたら気分悪いに決まってるやろ!
あの!
ごめんなさい。
いらんこと言いました。ホンマにすいません。
見てて 気付いたもんですから…。
すみれさんは ええ作品つくろうと一生懸命やってはんのやなあって。
(轟)おいおいおい!誰や このあほ入れたん。
私は ただその気持ちを応援したい思て…。
(五十嵐)出ていけ!お前のようなばかが いていい場所じゃない。
あんたが来いって言うたんでしょ!何!?
撮影の邪魔なんだよ。何で?
速く撮らなくちゃならないんだよ。何で!?
それがテレビ時代劇だからだよ。
いい作品つくるとか 一生懸命とかそんなこと誰も考えてない。お前みたいな ばかを喜ばせることしか考えてないんだよ。
はっ 何? 私みたいな ばかって。
毎回毎回 同じような展開を飽きもせず見てるやつのことだ。同じセットで同じ場所で 同じことが起きて同じクライマックス迎えて。大立ち回りで拍手喝采。
それを 速く 安く撮るから会社は もうかる。そういう からくりなんだよ。(畑野)おい おい おい!
そうかもしれへん。
おんなじセットでおんなじ場所で おんなじことが起きておんなじクライマックス。おんなじ大立ち回り。
あんたの言うとおりかもしれへん。
それでも…。
「キャ~! 誰か! 誰か!」。
「静かにしろ!」。「誰か…!」。
「暗闇でしか 見えぬものがある」。あっ 来た!
「暗闇でしか 聴こえぬ歌がある」。
「黍之丞 見参」。
黍之丞!「黍様!」。
それでも私は夢中やった。 黍之丞やおゆみちゃんの運命にハラハラしてた。
それが ばかって言うんやったら…私は…ばかでよかった!
お前…。
はあ…。
はあ ひきょうだぞ。ひきょう?
(五十嵐)そんな特殊な回のことを持ち出してくるなんて。
「黍之丞危機一髪おゆみ命がけ」。
「放してほしけりゃ 刀を捨てろ!」。
「いけません 黍様!お逃げください 黍様。これは わなでございます」。「おゆみ!」。
おゆみが止めるのも聞かず黍之丞は刀を捨てる。
「私のことはいいから。 ご自分のお命大切になさってください!」。
(五十嵐)極悪非道の悪党は おゆみを突き飛ばしその背中を袈裟斬りにする。「おのれ ひきょうなり!」怒りに燃えた黍之丞は次々と 素手で悪党たちを倒す。
素手。(五十嵐)まるでカンフーのように…。
(畑野)カンフー!?
そして おゆみに駆け寄る。すると おゆみは…。
目を開ける!
「黍様。 ご無事でよかった」。
「おゆみ!」と 背中の傷を確かめようとする黍之丞。 はっと驚く。
おゆみの羽織っていた綿入れの中には座布団が…。(五十嵐)「これは?」。
「黍様のために作った座布団です」。
「それがしのために…」。
「おだんごを食べてる時いつも お尻が冷たそうだから…」。
それ どういう設定?「黍様。ゆみのために刀を捨ててくださったのですね」。
「おゆみ」。
「ゆみは 三国一の幸せ者でございます」。
「おゆみ」。
おい!
そこの2人つまみ出し。(畑野)はい。
(せきばらい)
(畑野)再開しますか?
ああ。 すみれさん。 入れますか?
「おゆみ命がけ」。
轟さんが 初めて演出してくださった回ね。
ああ… 覚えてはるんですか。
もちろん。
フフッ 何やらせるんだって笑ってたわねモモケンさんも。
(轟)ハハッ…。当時 ブルース・リーが はやっててなあ。
ハハッ いらん演出すなって先輩に怒られたわ。
何で おゆみが座布団 背負て歩いてたんかいまだに よう分からんしなあ。
(笑い声)
♪~
はあ…。
お前のせいだからな。
今日の仕事が パーだ。
はあ? 仕事て。
斬られる役者さんのお芝居見て勉強してるだけでしょ。
衣装までつけて その気になって。あほみた~い。
けど…。
あんたも見てたんやな 「黍之丞」。
子供の頃から。
えっ。
あ…!
ちょっと!何で そうやって すぐ寝んの あんたは!
ホンマ どこまで ふざけたら気ぃ済むん?
ちょっと! 五十嵐。
何 寝てんの!ちょっと。


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