まぁ確かに見た目はタイムリープでもしてきたのかと言わんばかりの旧式の中の旧式だが、最大積載量はむしろ増えたし使い勝手はいいし問題ないだろうと
外に用意しておいた飲み物をとって、姉御と二人してちょっと休憩。んーっと体を伸ばせば、背と腰から軽い音
ウマ娘のスタミナがあっても、疲れるものは疲れるのだ

「それで、これ全部中に運び込んじゃっていいの？」
「そッスね。ある程度余裕は持って始めてますけど、なるべく急ぐッスよ。早めに帰ってくるかもなんで」
「とりあえず手近なものから持っていくプーイ」

大八車の一番手前に積んだ箱からひょいと担いで部屋に運び込み始めるプイ先輩。それに続いて、飲み物を置いて自分達も搬入を開始する
積荷中身は様々だ。大量の飲み物が詰まった重いものもあれば、借りてきた大皿なんかの割れ物まで

「姐御、ウチは割れ物から持って行くんで出入り口だけ確保してもらっていいッスか？」
「オッケー☆」

と、その皿などが詰まったプラスチックコンテナをいざ持ち上げようとした、その時

「お手伝いしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす！！！！！！！！！！！！」

大気を震わす大音声。思わず姉御と共に身がのけぞってしまう程のその声は、ある意味今日この場において誰よりも活力に満ちているあの子のもの

「お、OKエールちゃん。大八車の後ろの方から運んで欲しいッス」
「わかりました！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
「あ、あとちょっと声のボリューム……行っちゃった」

内側から溢れ出るエネルギーを抑え込みきれないとでも言うように
姉御の言葉すら待たず、その名古屋元気娘は荷物を抱えてぴゅーんとプレハブへと消えてしまった

プキュン、と変な声出しながらプイ先輩が手を伸ばしたのは自分の耳。そこに指を入れて、何か取り出して見せてくる

「備えあれば嬉しいなプイ」
「色々間違ってるけど行動は正しいのがムカつくッスね」

耳栓つけてやがった。いつの間にというか、学習してた

●
あのレースの日。自分達全員、画面へと釘付けとなって遠い地での勝負を見守っていた
時間が多少遅くとも、眠ろうとするのは誰一人おらず。抜け出してきたプイ先輩も交えて、その結末を目に焼き付けようとただただ夢中で

「………け」

そして、全員が息を呑んだ静寂の中でぽつりと。本当に静かに、漏れた言葉
全員がそれを確かに聞いて。次に来るであろうものも予想がついて

「……いけ」

だけど、誰一人耳を塞がなかった。それどころか、誰もがその言葉を待っていた。その叫びは、きっと当然の権利だから
誰よりもその勝利を祈り、信じ、待っていた彼女のそれは誰にも邪魔できないものだ
そしてついに、レースの最終盤。届け、届けと。遥か遠い地まで、その咆哮よ、想いよ届けと言わんばかりに
それは、炸裂した

「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ！！！！！！！！！！！ソングラインちゃああああああああああああああああああああああああああん！！！！！！！！！！！！！！！！！」

あの時の自分を信じてくれた親友を、誰よりも信じたエールちゃんの叫び
そして、その勝負が決した時……その場にいた全員が、彼女の叫びに続いたのだ


●
「誰よりも待ってたのは、間違いなくエールちゃんッスからね」

祝勝会の企画準備、そのどれも最も精力的に動き回る姿は悦びに満ちていて
その後に企んでいる個人的サプライズも含めて……本当にいい親友同士だと見せつけられる

「でも、泣かなかったのは意外だったプイ。まぁ涙目にはなってたから我慢してたのはわかったプイ」
「まだダメだ、だって♪」
「プキュ？」

その勝利を見たエールちゃんが、あの感情ストレート爆発少女がその涙を堪えたのは理由がある
本当なら誰よりもその歓喜の涙を決壊させたかっただろうに…

「ソングラインちゃんが帰ってくるまで、ていうかソングラインちゃんより先には泣かないって。ちょっとした、親友同士での強がりッスよ」
「……エールちゃんがそういうのって珍しいプイね」
「ソングラインちゃんくらいにしか見せないんじゃないかな？そういう強がりって」

エールちゃんも一人のウマ娘だ。ウマ娘は、総じて負けず嫌いが本当に多い
それをよりストレートに表現できる一番の相手は、やはり彼女なのだろう

「さ、お喋りはここまでッス。どんどん搬入するッスよ。それ終わったら姐御はこっちで料理班に回ってくださいッス」
「うん、それじゃ食材入りのクーラーボックスは全部奥でいいよね？」
「ていうか早くしないと重すぎて大八車壊れそうプイ」

借りてきた食器に、用意した食材に、その他思いつく限りの諸々
疲れ果てているであろうあの子をまずはチームで盛大に迎えてあげるために、その準備を進めていこう
そうやってまずは一つ箱を担いで入り口まで行ったところで、待ち構えていたのは

「おーい、オメー携帯鳴ってねーか愚妹」

掃除担当で室内のスペースを確保していた、我が姉にしてちびっこ怪獣の姿

「え？特にそんなこと……あ、やっべ電源落ちてたッス」
「やっぱりか。頼んでたケーキの事でって電話しても出ねーからってこっちに連絡きたんだよ。何やってんだ」
「うっわ、マジッスか……やらかしたッス。ちょい電源入れ直してかけ直してくるッスね」
「いらねーよ、時間の確認だけだからこっちで済ませたわ。ていうかその箱早くどけろやこっちのテーブルが通せねえんだよ」

そう言って大人数集合用のテーブルを抱え上げて無理矢理脇を通って行く姉貴
姉貴もまた、ソングラインちゃんが勝利した瞬間によぉっし！！！！と思いっきり叫んでたし、あの子を祝い労いたい気持ちは確かなのだろう
だから、普段めんどくさがってる掃除担当なんてものもやってくれるわけだし
……頭に三角巾つけてエプロン姿のそれが、給食当番にしか見えないのは心の中だけで秘めておこう

「そっか、ケーキ来るから冷蔵庫のスペース確保しておかないといけなかったッスね……まぁ、ある程度は一時的にクーラーボックスに入れたままで保冷して……」

エールちゃんの祝勝会の時もそうだったが、こう言う時は本当にもっと大きな冷蔵庫が欲しくなる
ウマ娘の食欲を舐めてはいけない。一度それなりの人数が集まれば、冷蔵庫満載の食材など瞬時に消え失せるものなのだから
一人でも消し飛ぶことがある？それは、まぁ

「ああ、戻ってきていたか。ちょうどよかった、探してたぞ」
「あれ？聖剣先輩？」

この祝勝会の企画段階で。僻地とはいえ大人数で集まって騒ぐ関係上、念のために届け出ておいた方がいいかという話になった
その説明のために校舎に行っていた聖剣先輩に呼び止められ、手に持った紙束を見てうげぇっと思わず眉間に皺が寄ってしまう

「いや、大丈夫だ。特にダメとか言われたわけではないよ」
「ならいいんスけど……」
「ただ、チームの後輩たちの成績も積み重なってきたところだし、トラブルは起こしてくれるなよとは言われたがね」
「ハッハッハッ。この警戒されっぷり、逆に安心感まであるッスね」

まぁ、流石の流石に祝い事、それもレースの結果によることであれば文句などはないとは思っていたが

「それと、追伸だ。というか会長からだな」
「まだなんかあるんスか？」

ここ最近は突っ込まれるようなことはほどほどにしかしていなかったと思うが……しかも女帝さんじゃなくて会長からだと

「『差し入れはニンジンパイでいいか？』、だそうだ」

………あー、もう
これじゃ、身構えたこっちが悪者みたいじゃないか
夢を追いかけるウマ娘に、どこまでも甘く優しい人なのは知っていたが……悪目立ちするチームだからか、余計気にかかったか

「……ありがとうございます、ッスね」
「ああ。代表して、例を言っておいたさ。あの人が努力の結果を出した子に甘いのは今に始まったことじゃない」

………そういえば、同じ三冠バという括りにされることがある自分はあまりあの人とは多く繋がりを持っていないが
聖剣先輩は、時折話をしているとか聞いたことがある。そもそもこの人の交遊範囲も大概謎が多いのもあるが

「しっかり彼女のレースも見届けてくれていたそうだよ。夜ふかしになると、女帝殿から小言を言われたそうだ」

その女帝殿もしっかり見ていたそうだが、と付け加えたところで
その精悍な顔つきにさす……僅かな影

「……『君の無茶な走りに似たりせずよかったよ』と、心底安心したように言われたがね」
「……………………ッス」
「せめて、何か一言でも言ってくれないかな？……割と本気で、その、アレなんだが」

大変申し訳ないが……その点に関してはあまりこちらからコメントできることがない
まぁしかし、自分の走法を教えようとか考えてたあたりかなりソングラインのことは気に入っているのは知っていた
普段魔女っ娘を抑えてることが多いこの人だけど、なんだかんだ後輩たちのこともよく見てくれているのは誰だって知っている
いい先輩なのは間違い無いのだ。………このチーム特有の癖の強さがあるだけで

「あ、ここにいたプイ。なんか生徒会からお届け物が届いたらしいプイ。今度はなにやったプイ？」
「今ちょうどその話してたんスよ。今回は無罪なんで安心してくださいッス」
「今回はって入るあたり相当ダメなのは自覚してるプイ？」

ええい、余計なことを

「上を悩ませてるって意味ならそっちも……」
「プッキュン」
「あ、こら耳栓して逃げるなッス」

そんなやりとりを見てやれやれと笑う聖剣先輩は、やはりどこか楽しげな感じも見て取れる表情だった

●
「………まだですかね！！！！！！？？？？？」
「ステイステイ。今生徒会に報告行って戻るところらしいッスから、もう来るッスよ」

途中、魔女っ娘が持ってきた飾りを取り付けているときにプイ先輩が梯子から落下して魔女っ娘がカエルのような声を出して潰されるトラブルもあったが
一通りの準備を終えて、トレーナーからの連絡を受けた自分達はプレハブの前まで来て待機していた

「まだですかね！！！！！？？？？？」
「１５秒もたってねーぞ」
「尻尾が残像残して揺れてるって初めて見たプイ」
「小声でしか喋れなくなる魔法でも見つけようかしら…」

ソワソワと言う言葉の究極を見せつけるかのようなエールちゃんを抑えながら、その時を待つ
その上で、みんながもう言わずともわかっているかのように
エールちゃんを前に出し、自分達は少し後ろへと下がっていた

「………あ、きたきた！！」

姐御が指差す先。トレーナーらしき人影を伴って歩いてきた、遠い地から帰還した我々の後輩の姿
それを見た瞬間に……エールちゃんの足は、地を蹴り抜いて、その姿へと向かっていった

「…………ソングラインちゃん！！！！！！！！」

自分達も小走りで向かえば、俯いて、顔を上げないままのソングラインちゃん
誰もがわかっていた
最初に言葉を交わすべきは………この二人なのだ、と

「………うるさいぞ、メイケイエール」

そう言って顔を上げた、ソングラインちゃんの表情は………ああ、この二人は本当に、もう

「………勝った」

変なところで、似たもの同士だ
ニカっと笑ったその目に、まだだ、まだ零すものかと涙を溜めて

「勝ったぞ、メイケイエール………勝ったぞ！！！」
「はい！！！！！！！！見てました！！！！！！……見てましたから！！！！！」

だんだん震え出す、満面の笑みの二人の声
負けない、先には流さない、そんな強がりの鍔迫り合い
だけど、どうやらダメらしい
もう一度顔を伏せたソングラインちゃんが、肩を震わせ始め……エールちゃんが、横顔でもわかるほどに最後の抵抗で顔をくしゃりと歪ませて

「……………ソングラインちゃ」
「…………メイケイエール！！！！！」
「んきゅ！！！！！？？」

ズドンっと言うかのような音と共に、ロケット弾かのような勢いで飛びついたソングラインの頭がエールちゃんの腹部に直撃
一瞬白目剥きそうになったエールちゃんだが………その肩を、優しく、力強く掴んで

「勝ったぞ！！！！！！！！！！勝ったぞメイケイエール！！！！！！！約束守ったからな！！！！！！！！！」
「…………はい！！！！！！」

涙を相手より先には見せない
そんな意地っ張り同士の勝負は、ドローに終わって

「おめでとう！！！！！！！おめでとう、ソングラインちゃん！！！！！おかえりなさい！！！！！！！」
「ただいま…………ただいま！！！！！！！！」

エールちゃんに負けぬほどの声量で、ソングラインちゃんは帰ってきた
親友と、もう一度戦う日のために。絶対に遅れなど見せないために

「………なんだか。ちょっと羨ましいくらいプイ」

普段のおどけた空気を消したまま
優しく、穏やかに笑うプイ先輩の言葉に、目尻を擦りながら頷いて

「ソングラインちゃん！！！！！！おめでとう！！！！！！！！おかえり！！！！！！」
「うっ…………ぁぁぁぁあああああああああ！！！！！！」

ボロボロと涙を流しながらお互いの肩を抱く二人のもとに、自分達も駆けつけて
そろそろ、許されるはずだ
その言葉を言いたいのは、自分達だってみんな同じなんだからと

「おかえりなさいッス。………おめでとう」

本当、自分達は幸せ者だ
自分達の大切な後輩の勝利という、自分一人では決して手に入らない喜びを胸に

遠い地に勝利を飾ったソングラインちゃんを、心の底からの笑顔と涙で、おかえりと
おめでとうと、迎えてあげることができたのだ

以上。昨日の祝杯の続きで酒飲んだので舎弟した
ソングラインちゃん本当におめでとう

ほんとよかったよソングラインちゃん…

現実もあとは無事帰ってくるだけだソングラインちゃん

昨日はもうお祭り騒ぎだったね

ソングラインちゃんおめでとう！！！！

明るいニュースが多くて何よりだ

なんかこっちまで涙が出てきた

昨日はオルフェ産駒キズナ産駒勝利でウッホホイと思ったら
その後とんでもねえ馬も続きやがった！

>昨日はオルフェ産駒キズナ産駒勝利でウッホホイと思ったら
>その後とんでもねえ馬も続きやがった！
俺の息子すげえだろ～？

ここまでお互いの勝利を喜べる後輩たちがいるって舎弟たちも感無量ですよ

めでたいからもっと酒飲め

>俺の息子すげえだろ～？
多分日本中でそれを疑う人はいないんですよ

昨日ソングラインちゃん勝った後カレンチャンが帰っちゃって
なぜかと思ったらステイフーリッシュ！！

思わず久保田開けちゃったよね

多分昨日エールちゃん化して叫んだ「」は数多かったと思う

出遅れの後馬群からソングラインちゃんが出てきたときにいけー！！って声出たね

最初を親友同士に譲る先輩たち
プレハブは時折こうした優しさに満ちる

いい話だ

トレセン学園裏名物
大八車を引く金色の暴君

シルクロードからのサウジ遠征と物語としてホント良くできたストーリーになってると思う
ここらで育成終了になってもおかしくないくらい

こっからだぜメイケイエールとソングラインの物語は
いや本当に頑張って2頭とも

>大八車を引く金色の暴君
新入生は大概あれが三冠馬と気づかない

聖剣先輩
それについてはそのですね
はい

そろそろ誰かが聖剣先輩にできるかこんなもん！って言う必要がある

ソングライン　9戦4勝　賞金額2億4301万　重賞2つ
メイケイエール　9戦5勝　賞金額1億7628万　重賞4つ
キボンヌの新入りコンビだけど成績はもう現時点でも上澄みのエリートなんだよなあ
先輩たちが揃いも揃って化物だから仕方ないけど

多分この後エールちゃんがソングラインちゃんにこれ食べてこれも食べてって隣に座ってめっちゃ構い倒す

キズナ会でもお祝いするプボ～

メイケイエール！
ソングラインちゃあああん！！
メイケイエール！！
ソングラインちゃああああん！！！
メイケイエール！！！
ソングラインちゃあああああん！！！！

オーソリティはほっと胸をなでおろしてソングちゃんはやったぞメイケイエール！！しててステイフーリッシュはブックメーカーの自分のオッズ見てニマニマしてるイメージ

頂点クラスがワラワラいるから感覚狂いそうになるこのチーム…

大丈夫でした。会よりマシだ

>頂点クラスがワラワラいるから感覚狂いそうになるこのチーム…
半人前扱いのエールちゃんソングちゃんも上澄みも上澄みなんすよ

まずは賞金額ブラストワンピースを目指すんだふたりとも

ラストのプイプイは本当に羨ましいって思ってたんだろうな…

>ラストのプイプイは本当に羨ましいって思ってたんだろうな…
切磋琢磨し合える同期も喜びを分かち合う親友もいなかった英雄…

聖剣先輩は甥っ子が勝ったんだから親族の勝利を祝いたまえ！

飛び込んだのが腹だったからエールちゃんはダメージ食らった
もう少し上ならクッションがあった…

シンボリルドルフは生徒会長である為に少しお転婆なウマ娘達には顔を七色に輝かせ叱りつけることもある。しかし吉報にはシンボリルドルフも同調し1人のウマ娘として喜ぶ。そんな彼女の「一張一弛」は全校生徒の模範となるだろう。

>シンボリルドルフは生徒会長である為に少しお転婆なウマ娘達には顔を七色に輝かせ叱りつけることもある。しかし吉報にはシンボリルドルフも同調し1人のウマ娘として喜ぶ。そんな彼女の「一張一弛」は全校生徒の模範となるだろう。
岡部君。
君も彼女たちを祝いたまえ。

>見ててめちゃくちゃ興奮しました
いいチームだなぁ……

>飛び込んだのが腹だったからエールちゃんはダメージ食らった
>もう少し上ならクッションがあった…
その場合ソングちゃんが精神的なダメージを…いやご褒美かも…

>>飛び込んだのが腹だったからエールちゃんはダメージ食らった
>>もう少し上ならクッションがあった…
>その場合ソングちゃんが精神的なダメージを…いやご褒美かも…
メお
イの

ソングラインちゃんも成長してでかくなってるけど…
これは…筋肉…

>見ててめちゃくちゃ興奮しました
応援してる誰かの勝利で出る叫びっていいものですよね…

>おのれメイケイエール❤️

今年に入ってから毎月祝勝会やってるっスね姉貴～！

>>おのれメイケイエール❤️
メイソン！？
…イケる！