浜田省吾『悲しみは雪のように』と、歌い続けた反戦への想い
30年前のヒット曲をたどっていくこの連載。今回は浜田省吾です。

1992年の2月から3月あたりは浜田省吾の『悲しみは雪のように』が、テレビやラジオから流れまくり、そして、新しい娯楽として定着しつつあったカラオケボックスで歌われまくっていました。
売上枚数170.3万枚(オリコン)。それまでの浜田省吾の最大シングルヒットが79年の『風を感じて』で10.2万枚ですから、倍率何と17倍。パチンコで言えば「確変」状態です。
この連載で取り上げた他の大ヒット曲同様、この曲もタイアップの力が大きく加勢しました。40代後半以上の方なら説明不要、フジテレビのドラマ『愛という名のもとに』の主題歌。タイアップによる「確変」という「90年代あるある」。
脚本は野島伸司。彼が手掛けた『高校教師』(93年)の主題歌は『ぼくたちの失敗』(森田童子)、『ひとつ屋根の下』(93年)は『サボテンの花』(チューリップ。ただし主題歌は財津和夫によるリメイク版)、『未成年』(95年)はカーペンターズ――など、野島伸司作品において、過去の楽曲を主題歌にする流れの最初期のものになります。
もともとは浜田省吾のアルバム『愛の世代の前に』(81年)に収録されていた曲。そのリメイク版が、『愛という名のもとに』の主題歌に。ちなみに『愛という名のもとに』というドラマのタイトルも、同アルバム収録の同名曲からの引用。そういう意味で、このドラマは「浜田省吾色」がとても強かったのです。
内容は、山田太一脚本による80年代の名作ドラマ『ふぞろいの林檎たち』の90年代版という感じ。大学のボート部から社会に出て、社会の歪みに直面した7人の仲間が、恩師の葬式で再会して……というもの。7人を演じるのは、鈴木保奈美、唐沢寿明、江口洋介(ロン毛)、洞口依子、石橋保、中島宏海、中野英雄――。
野島伸司お得意の「社会派ドラマ」。パワハラや自然破壊や不法就労(ジャパゆきさん)などの社会問題に対して、バブル崩壊後の若者たちがどう立ち向かっていくか。これが、ドラマの本質的なテーマだったように思います。
しかし当時、登場人物と同世代の若手会社員だった私は、このドラマがどうにも苦手でした。「社会派ドラマ」として内容も濃厚過ぎるし、かつ、岡林信康が流れたり、ボブ・ディランの歌詞を読み上げたりという演出もまた濃厚。
あと、『悲しみは雪のように』という曲についても、アルバム『愛の世代の前に』に入っていた原曲より、重々しくリアレンジされていたことも苦手に感じて、このドラマをちゃんとは見ていなかったのです。
しかし、それでも、あのシーンはさすがに見ました――「チョロの自殺」。
「仲野大賀のお父さん」という説明が今やいちばんしっくりくる中野英雄が演じる「チョロ」というあだ名の証券会社員が、さまざまなトラブルに巻き込まれて、首吊り自殺するシーンです。「ドラマとしては苦手だったけど、あのシーンだけは憶えている」という方も多いはずです。
ボブ・ディラン『風に吹かれて』の和訳を、登場人物たちが朗読しながら並木道を歩くエンディングを迎えた最終回の視聴率は32.6%(ビデオリサーチ/関東)。こうして『愛という名のもとに』は、90年代を代表するドラマとなったのです。