魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー) 作:嫉妬憤怒強欲
「報告します。司波達也に魔法を放ちましたが、例のキャスト・ジャミングもどきは見られませんでした。壬生紗耶香も司波達也に接触していますが、良い返事は貰えていないと・・・」
ビルの中、事務室のような場所に2人の男がいた。
両方とも眼鏡をかけており、1人は第一高校の制服を着ている。
「そうか、まぁ良い。司波達也は魔法による差別の撤廃を目指す我等にとって、喉から手が出るほどの逸材だ。必ず彼をこちら側に引き込め。進歩があったら、連絡しろ」
「わかりました、義兄さん」
♢♦♢
生徒会室でランチを取っていた達也と深雪。他にも生徒会長:七草真由美、風紀委員長:渡辺摩利、書記:中条あずさの三名がいた。
「ところで達也君、昨日剣道部の壬生をカフェで言葉責めにしてたと言うのは本当かい?」
「「「言葉責め!?」」」
ニヤニヤしながら口火を切った摩利の言葉に目を輝かせる真由美、困惑するあずさ、目が細くなる深雪、呆れる達也。
その反応は様々である。
「濡れ衣です。それに下品な言葉は妹の教育上良くないのでやめてください」
「おや、そうかい?壬生が顔を真っ赤にして恥じらっているところを目撃した者がいるんだがあれはどういう……」
そのとき生徒会室の温度が急に下がった。
「お兄様……一体何を?」
深雪の一段階下がった声音と共に生徒会室の備品が次々と凍っていく。
「CADを使わずに冷気を!?」
突然のことにビクリと震えるあずさ。その様子はさながら怯える小動物のようであった。
「深雪さんって事象干渉力がよっぽど強いのね」
「すまん。からかいすぎた……」
このような状況でも冷静に状況を分析する真由美に、冷や汗をかきながら謝る摩利。
「落ち着け深雪。ちゃんと説明するから」
そして深雪をなだめる達也。
「申し訳ありません……」
生徒会室の温度が元に戻り、凍っていた備品も元に戻った。
深雪は感情が高ぶるとこうして冷気を振り撒いてしまうことがタマにある。魔法師は魔法を使用するとき、常に冷静でなければならない。なぜなら能力が暴走して暴発してしまうことがあるからだ。先程の深雪がいい例だ。まぁ、それだけ彼女の能力が強力だということなのだが。
そして達也は気を取り直して話を戻す。
「では何があったのか、俺の方からご説明します」
達也の話によれば、壬生紗耶香から道場であった騒動についてのお礼を言われた。
だが彼女は別の目的で達也に近付いてきた。
それが【非魔法系クラブの同盟への勧誘】であった。
壬生自身、二科生であることに強いコンプレックスを抱いている。そして一科生と二科生で比較されることにも嫌悪感を抱いている。
壬生は言った。
『風紀委員の点数稼ぎのために今回の騒動で多くの部員達が風紀委員に取り締まられた』と。
壬生は風紀委員にも『点数稼ぎのために、取り締まっている』とあまり良い印象を持っていなかった。
「それは、勘違いだ。風紀委員に点数システムなどない。内申点などまったくないに等しい名誉職だ。成績や内申には影響されない」
摩利は反論する。
「ただ、風紀委員は学内での影響力は非常に高い役職ではあるわ。少なからず反感は出るのは仕方がない事よ」
真由美は風紀委員の立場についてからの見解を言う。
「何者かが印象操作を行っている可能性があります」
達也はそこで、本来言いたかった趣旨を言う。
「そのようなデマを流してるヤツらに心当たりは?」
「ううん、噂の出所なんて探しようが無いでしょ」
「あれば注意してるさ」
真由美はその意見に対し、言いにくそうに答える。何かを誤魔化そうとしている二人を見て、達也はこの二人は真相を知っていて隠そうとしてるんだと確信した。さっきから深雪が達也の袖を引っ張り、「踏み込みすぎでは?」と言う視線を向けているが、今の達也は踏みとどまろうとはしなかった。
「俺が聞いてるのは末端である事無い事吹き込んでるヤツらでは無く、その背後の連中の事です。恐らくですが、『ブランシュ』が絡んでると思われます」
この発言に、真由美と摩利は驚愕の表情を浮かべ、あずさと深雪は困惑の表情を浮かべた。前者の二人は何故達也がこの事を知ってるのかと驚き、後者二人はその組織の名前を知らなかったのだ。
反魔法国際政治団体『ブランシュ』。
魔法を持つものと持たざる者の政治的格差を改善するべく現代の行政システムに反対する政治集団である。魔法その物を否定するのではなく魔法を持つものと持たない者の収入格差の点から優遇されているという主張の元、差別撤廃を理念として掲げた組織だが、中身はほぼほぼテロリストだ。
この名前は秘匿情報扱いで、国が情報を完全にシャットアウトしているはずなのに、一介の高校生である達也が何故この名前を知ってるのか三人は気になったのだ。
「秘匿情報と言っても噂の出所を全て塞ぐ事は無理でしょう。こう言った事はむしろ全て公開しておくべきだと思います。会長を批判するつもりはありませんが、この件に関する政府のやり方は拙劣としか言えません」
「……達也君の言うとおりよ。魔法師を敵視している集団がいるのは事実なんだから、彼らが如何に理不尽な存在であるのか、そこまで含めて正しい情報を行き渡らせることに努める方が、その存在をまるごと隠してしまうのより効果的な対策がとれるのに……私たちは彼らと正面から対決することを避けて――いえ、逃げてしまっている」
達也が言った事を自分でも思っていた真由美は、落ち込んだようにそんな事を言う。
「仕方ないですよ」
「え?」
だから達也からの慰めの言葉があるとは思って無かったのだろう。仕方ないと言われ真由美は顔を上げた。
「この学校は国立の施設ですからね。会長の立場ならば国の方針に縛られるのは仕方ない事です」
「慰めてくれているの?」
達也がぶっきら棒に言い放った言葉に、真由美の表情が晴れていく。
「で、でも、追い込んだのも司波君では?」
あずさの発言に、摩利が便乗するように言葉を続ける。
「自分で追い込んで慰めるか、凄腕ジゴロだな」
この発言で、生徒会室に猛烈な雪が吹き荒れるのだが、達也の説得でなんとか深雪を落ち着かせたのだった。
♢♦♢
「あれから音沙汰なしかぁ……せっかく頑張って写真撮ったのにね」
「やっぱ匿名じゃ信用なかったのかなぁ」
「それもある」
達也が襲われた瞬間の証拠を撮り、学校内のシステム経由で生徒会に匿名で提出したほのかたちではあったが、あれから特に変わったこともなく、達也の苦労は変わらずだ。
それに溜め息をついていたほのかとエイミィだが、何か含みのある言い方をした雫に対してエイミィは疑問を浮かべる。
「それも?」
「そもそも魔法は写真に写らない」
「あっ……」
そう、魔法は写真に写らない。
もし写るのなら非魔法師に魔法が見えない道理がない。
「しかも発動の瞬間じゃなかった」
「ああああ……」
「もっと言うと、後ろからだった」
「何やってるんだろうね、私たち……」
「うん……」
完全なまでの蛇足にほのかとエイミィが再び溜め息をつく。
「やっぱり私たちだけじゃ無理だったのかなあ」
「でも卑怯なことがあったのは事実だし」
「襲った相手からなーんか嫌な感じがしたからそのまんまにはしたくないんだよね…………あっ」
「えっ、何?」
「あそこ、ホラ。剣道部の主将だよ」
エイミィの視線の先には剣道部主将の司甲がおり、校門へ向けて歩いているところだった。
「えっ、あの写真の?……あれ?今日は剣道部休みじゃないって聞いたけど……」
「そうなの!?…なんかあやしい」
新入部員勧誘週間中に達也を襲った襲撃者を調べてみると二科生の司甲であることが分かったのだが、このことに三人は疑問を抱いた。一年生、それも二科生の達也に取り締まられるのを面白くないと思っているのが一科生なのは分かるが、同じ二科生が達也を襲撃することに違和感を覚えたのである。
しかし、同じ二科生で風紀委員をやっているのを気に入らないと思う人が少なからずいるかもしれない。だからと言って、一科生と二科生の間に溝が出来ているにも拘らず、それを棚上げにして手を組むと考えられなかった。
結局その後、有力な情報も得られずに有耶無耶になってしまった。
だが、その司甲が奇妙な行動をしていた。何かあるのではないかと彼女達は奇妙に感じたのである。
「ちょっとつけてみようか?」
「そうだね、気になるし」
「私も異論はないよ」
三人は司甲を追跡することを決意するが、それと同時に一抹の不安を覚えた。
しかし魔法を使えば、どうにかなると思っており三人はあることを失念していた。
自分達は魔法師の卵であると同時にまだ未熟な高校生であるということに。
その日の授業が終わり、オレは一人パソコン工房に来ていた。下校途中に発見したこの店は一般的に普及している最新型の情報端末機やネットで注文できない品などなんでも揃えている。最近たまに寄っていくことがあった為、平日の夕方の時間帯は客足が少なくなることは分かっていた。
店に置かれてるPCにフラッシュドライブを繋ぎ、中にあったファイルを開いて状況を確認する。
「なるほどな……」
これで大体の状況は把握できた。
必要ならこれから2、3仕掛ける必要があると思っていたが、1だけで充分のようだ。
上々の首尾に納得したオレはPCからフラッシュドライブを抜き、帰路に就くことを決める。
「有崎君?」
駅へ通ずる道すがら、達也の妹に遭遇した。そういえば達也の妹と二人だけで会うの初めてだな。
「司波妹か」
「もう、お兄様のことは名前で呼んでるのにどうして私の方は呼ばないのですか?」
勘弁してほしい。もし学校で名前で呼んだりしてしまえば殆どの男子生徒を敵に回す恐れがある。悪いがオレには真正面から立ち向かうまでの覚悟はない。
「それより、達也の話だと今日も生徒会の筈だがこんな所で何してる?」
「それよりって……はぁ、ちょっと生徒会のお使いに。有崎君は今お帰りですか?」
「ああ、今日はちょっと寄るところがあったからな」
『司波深雪』は誰が如何見ても美少女と評される容姿をしている。上流階級のお嬢様のようなその佇まいだけで、街にいる人の目をくぎ付けにしていた。
『今の子凄く綺麗だったわね』
『芸能人かな?』
『でも、あんな綺麗な人、芸能界に居たかな?』
『あの格好って魔法科高校の制服じゃない?』
このように女子同士の会話のネタになったり、恋人と一緒に居るのに他の女に見とれてたと彼女に制裁を加えられたりするなど、彼氏側から見れば多大な被害を被ったりしてる。
買い物ひとつするだけでもここまで注目を浴びるとは……美少女も色々と大変だなと思っていると、
「あら?」
「?どうした?」
「あの…あそこにいるのって」
司波妹の見ている場所に目を向けると、見たことのある面子がいた。
北山に光井、それに名前は知らないがルビーのような光沢の髪をした小柄な女子生徒(多分一年生)がこそこそと移動している。
物陰に隠れて誰かを尾行しているようにも見えた。
「何やってるんだ……」
市街地での魔法の使用は原則禁止だ。しかし、バレなければ特に問題はない。
右目を閉じて左手につけていた腕輪型のCADを操作し、光学系遠視魔法【アキュレイト・スコープ】を発動する。
その瞬間、まるで鷹が市街地を真上から見ているかのような光景が、右目のまぶたの裏に広がる。
三人の視線を追ってみると、その先にいたのは、痩せ型ながら注視すればよく鍛え上げられていることがよく分かる体つきをした、眼鏡を掛けた男子生徒だった。
「……これはマズいな」
「え?ちょ――」
司波妹に脇目も振らず、オレは地を蹴った。
私、ほのか、雫の3人ではじまった美少女探偵団(自称)は、ある人物を尾行中だった。その人物とは剣道部主将の司甲と言う3年生だ。
「何処まで行くんだろうね、そろそろ学校の監視システムの外に出るよ」
私の言葉にほのかも雫も頷いていた。だんだんと人が少ない通りになっていくのを二人もは気付いてるようだ。
「ちょっとだけ不安かも」
暗い表情を浮かべるほのか。
「実は私も」
「えっ、エイミィも!?」
「完全に不安がないってわけじゃないけど、私たち三人なら大丈夫」
不安はあったが三人ならできると信じて尾行していく。
「あ!逃げた!!」
「追おう!」
途中で司甲が電話をし出したかと思うと、いきなり走り出した。突然の行動に反応が遅れた私達はそれを追い曲がり角を曲がったが、行き止まりには誰もいなかった。
「確かにこっちに曲がったのに!」
「逃げられた……」
「仕方ない、一旦もど……」
「もどろう」と私の言葉は続かなかった。ヘルメットをして顔を隠した数人が、バイクに乗って私達の周りを囲んだのだ。
「なんですか!貴方達は!?」
ほのかは叫ぶが、相手はお構いなしに近づいてくる。どうやら話は通じないらしい。
「(雫、ほのか!!CADを!)」
2人が頷く、どうやら伝わったようだ。「合図をしたら走って!」とアイコンタクトで伝えあう。
「私達をかぎまわるネズミどもが...」
「悪いが生きては帰さんぞ」
ヘルメットをした男達がさっきよりも距離を詰めてきた。
「今っ!」
雫の掛け声で三人は走り出した。
走り出した私達に相手は驚いたようだった。彼らは女子高生が大人相手にどうこうできると思っていなかったようだ。
「ただの女子高生だと思って……」
その隙を狙い、私は目の前の男達に向けて手をかざす。
「舐めないでよね!」
私の移動魔法によって男達は吹っ飛ばされ、道が開いた。
「エイミィ!流石にやりすぎじゃ」
「自衛的先制攻撃ってやつだよ!」
「~~~~!!!仕方ない。なら私も!」
ほのかも目くらましの閃光魔法を発動して男達の視界を潰す。
すべての男達を無力化したことで私達は全速力で走った。
これで「逃げ切れる!」と思った時だった…………
「くそ、化け物め………これでも喰らえ」
倒れていた一人の男の手から不可聴のノイズが発せられた。
そのノイズに当てられた私達の頭に痛みが走る。それにより、私達は身体に力を入れられずに倒れる。
「(っ!これって!?)」
「何これ、頭が痛い」
「ほのか……」
このノイズに苦しんでいるほのかを雫は見ていることしか出来なかった。
「はは、苦しいか魔法師。司様からお借りしたアンティナイトによるこのキャスト・ジャミングがある限り、お前達は一切魔法は使えない」
アンティナイト……。どうしてそんなものを……。
アンティナイトは一般市民が手に入れられるような代物ではない。
そんなものをどうして持っているのか考えようとするが、キャスト・ジャミングによるノイズが気分を悪化させ、思考を鈍らせる。
「手間をとらせやがって」
「では、指示通り」
「了解した」
相手は私達にナイフを向ける。目的はおそらく、私達の口封じだろう。逃げたいが、身体が動かない。
「誰、か……」
雫が振り絞るような弱い声で助けを呼ぶ。
意味もなく、理由も分からずに殺される。
ただ、友達の為に何かしてあげたい。そんな気持ちでやっていただけなのにどうしてこうなってしまったのだろう。
「我々の計画を邪魔する者は消えてもらう」
男の無慈悲な言葉を苦しんでいる雫達は聞きとることが出来ない。
「この世界に魔法は必要ない!」
相手はナイフを振り上げる。その痛みを想像し私は目をつむった。その時だった。
「──あんたら、何やっているんだ」
不意に投げられた男の声。
ライダースーツの男達のものでもない。
──じゃあ誰が……?
困惑し、瞼を開ける。
結論を告げるのならば、私たちの誰も死んでいなかった。
ナイフが私の顔に直撃するその直前で、ライダースーツの男の手首が摑まれたからだ。
「だ、誰……?」
割って入っていたのは同じ第一高校の制服を着た見知らぬ男子生徒だった。花冠の紋章がついていないことから二科生なのがわかる。
「え?……あ、有崎君?」
「どうしてここに……?」
ほのかと雫は彼のことを知ってるようだ。
「いつの間に!?」
「なんだ貴様は!?その制服…このバケモノの仲間か!?」
男達も突然の登場に驚いてるようだ。
「魔法が使えるだけで人をバケモノ呼ばわりとか……失礼な連中だな」
「あ、っ、つ!い、痛い痛い!」
有崎君という男子生徒に腕を掴まれていたライダースーツの様子が明らかにおかしい。
持っていたナイフを落とし、悲鳴を上げながら左手で必死に彼の腕をつかみ剥がそうとしている。
相当強い握力で握りしめられてるのか。いやそれ以前に……
「ば、馬鹿な!? このアンティナイトは高純度の特注品だぞ!? このキャスト・ジャミングの影響下で動けるわけが」
目の前の状況を飲み込めず、男達は混乱している。
「おい、もっと出力を上げろ!」
ノイズの強度は増してくる。だが彼の表情からは苦悶が一切見えない。
「悪いな。生まれつきそういうのに鈍くてな。アンタら程度のキャスト・ジャミングじゃオレには全く効かない」
「ハッタリだ。キャスト・ジャミングの影響下で魔法師がピンピンしてる筈が無い!」
狼狽える男に彼は溜息をつく。
「ほんとの事なんだがな……ま、アンタら三流に説明したところで理解できないか」
「ぐぼおっ!?」
そう言って彼は空いた手で掴んでいた男の鳩尾に膝蹴りを叩きこんだ。そして強烈な一撃を喰らった男が一瞬にして動かなくなるのを確認し、ゆっくりと歩き出す。
「く、くそぉぉっ!」
男達のうちの一人が彼に向かって走り出し、手に持ったナイフを突き出す。刃の先端が彼の腹に届くか届かぬかというところで、彼はナイフを握る男の手を払い、同時に身を軽くよじった。ナイフは空を斬り、彼の脇へと素通りする。そして次の瞬間には男の頭に強烈なアッパーカットが叩き込まれた。
「……流石にメット越しは痛いな」
彼はそんな軽い一言を言ってるが、たった一撃で男は軽く吹っ飛び、横の壁に激突して気絶した。
「ば、化け物が……!やっちまえ!」
男たちは次々と襲い掛かる。一対複数で狭い空間……普通なら凶器を持ってる男たちに分があるだろう。
だが……彼に男達の攻撃は一切当たらない。
一人目の頭部をメットごと蹴って壁に打ち付けて気絶させる。
二人目の鳩尾を肘で突いて卒倒させる。
三人目はすばやく投げ飛ばし、四人目は裏拳でメットごと殴りつけ、壁に強打させる。
その動きに全く無駄がなく、まるで一昔前に流行っていたアクション映画の様に的確に男たちの意識を奪っていく。
「これで、チェックメイトだ」
「ガハッ」
そして最後の一人が回し蹴りを叩き込まれ、崩れ落ちる。
すでに彼以外立ってる人間はいなく、路地裏は静寂に包まれた。
「……流石にやり過ぎたか」
不審者全員を倒したあと、オレはため息を吐きそうになっていた。
同じ学校の同級生の前で少し暴れた上に『チェックメイト』とか中二臭いことを思わず言ってしまった。なんか超恥ずかしい。もし学校でこの話が広まれば即登校拒否する自信がある。
終わったな。オレの穏やかな学校生活。
いや待て。諦めるのはまだ早い。
すぐにでもあいつらには今見たことは忘れてもらえば万事解決だ。
ああだが北山たちとは直接話したことがないからオレの言うことを聞くかどうかわからない。
ほんとにどうしようか悩みながら、よろめきながらも立ちあがる三人に声をかける。
「あー……お前ら大丈夫か?」
「……えっ、あっ、う、うん。大丈夫」
「ようやく頭痛が治まった…ありがとう。危ないところだった」
「北山と光井は無事の様だな。そっちのお前はどうだ?」
「……」
赤毛の女子生徒に声をかけるが、ジッとオレを見て固まったままで、返事が返ってくる気配がない。
「どうしたの?エイミィ」
「えっ」
固まったまま動かない女子生徒を心配した光井が声をかけた。それで魔法が解けたように動き出し、さっきまで弱ってたのが嘘かのように背筋をピンと伸ばした。
「だだだだ大丈夫!べ、べべべ別にどこも怪我はしてないよ!?」
大丈夫って言ってる割にはなんか挙動不審なんだが…そしてなぜ最後は疑問形?
「エイミィ大丈夫?なんかすごい挙動不審なんだけど」
「何でもない何でもない何でもない何でもない!」
首を横にブンブン振りながら四回言った。顔も少し赤いし本当に大丈夫か?
まだキャスト・ジャミングの影響が残ってるか心配になってると、後ろから声をかけられる。
「皆……大丈夫!?」
振り返ると、手にCADを持ちながら魔法を起動状態で待機している司波妹がいた。
「え、深雪!?なんでこんなところに」
「私は生徒会の先輩が発注を間違えて、買えていないものを買いに来たところ、みんなの姿が見えて…その後有崎君が突然走り出してすぐノイズのようなものを感じてもしかしてと思って……どうしてこんなことに?」
「それが、剣道部主将を尾行していたら――――」
三人がついてきていた司波妹と話している間、オレは後処理をしていた。と言っても、男達が逃げ出さないように縛り上げる程度である。連中を縛り上げるにはそれ相応の代物が必要であるのだが、襲撃者達の着ているものはすべてライダースーツだ。そうなると縛れるものは身に付けているものだけと言う訳で、完全に身動きが取れないようにするには彼らには下着一丁になってもらう必要があるのだが、そんなものを年頃の少女に見せるわけにもいかないため、靴紐で両手と両足を後ろ手に縛る程度にする。それも結び目は蝶々結びではなく、もがけばもがくほどきつくなっていくタイプのものだ。
男達を縛り上げている途中、念には念を入れて、携帯端末と指に付けていたアンティナイトを回収する。下っ端にまでこんな高価なものを支給してるとはな……。
全員縛り上げた後、司波妹が話しかけてきた。
「それにしても驚きました。有崎君お強いのですね。ほのかたちの話だと全員を素手で倒したようですが、中学になにか習ってましたか?」
「言っておくが武術は何も修めてないぞ。ピアノと茶道、あとは書道をやってたけどな」
「えっ」
嘘ではない。実際のところ、オレは本当にピアノと書道、そして茶道をやっていた。ここにピアノがあれば……そうだな、ヴェートーベンの交響曲第九番を弾いても良い。
「まぁ、できればこのことは他言無用にしてほしい。オレは不用意に目立つことはしたくない」
「……わかりました」
司波妹の返事と共に、他の三人も了承する。
「それで、この人たちはいずれ監視システムに発見されるけど警察に通報したほうがいいかな?」
「私は少し、大事にしたくない事情があるのだけれど。被害者のみんなが訴えたいなら止めはしないわ」
「ううん、必要ない。監視カメラにもとられてないし、有崎君のおかげでなにもなかったから」
「それでしたらこの男たちの処遇は私に任せておいていただけませんか?」
男達の処遇に悩んでいると、司波妹がそんなことを言い出す。
「なにか警察の伝手でもあるのか?」
「え、ええ」
……成程。そっち関係か。連中がこの後どんな目に遭おうとオレの知ったことじゃないか。
「そうか。俺はあまりこの件には手を突っ込むのも面倒だし、何か手があるなら任せる。光井たちはどうする?」
「わ、私たちも深雪にお任せする。どうしようもないし」
「同じく」
「私も」
「分かりました。では有崎君は三人を駅まで送って貰えませんか?」
「……えっ」
「え?」
「あっ、いや……わかった」
♢♦♢
「これでよし…と」
シンヤたちが襲われた現場から少し離れたところで、サイオンシールドと音波遮断を発動した深雪は電話をかける。聞かれないようにした状態での電話の先は、兄の達也の体術の師匠である忍の九重八雲だった。
『おや、深雪君が電話をくれるなんて珍しいね。どうしたんだい?』
「いきなりこのようなことを申し上げるのは誠に不躾かと存じますが、先生に御助力いただきたい件がございまして」
『いいよ。僕にできることなら』
頼みを快く引き受けてくれることに深雪は安堵する。
「ありがとうございます。実はつい先ほど学校のすぐ近くでクラスメイトが暴漢に襲われまして」
『一高の近くで? それはまた大胆だね』
「その者達はアンティナイトを持っていました」
『へぇ、ただのごろつきではないのか。それにしてもさすがは深雪君だね。キャスト・ジャミングをものともしないとは』
「いえ、それは私ではなくお兄様の友人が……私は直接は見てませんがクラスメイトの話だと武術だけで倒したようです」
『ふむふむ、なるほどなるほど』
電話越しではわからないが、この時八雲の目付きが少し変わっていた。
『それで、アンティナイトを持っていたけしからん輩は今どこに?』
「その友人が倒した状態で放置しています」
『つまり、僕が警察や仲間より先にその暴漢の身柄を確保すればいいのかな?』
「先生は何もかもお見通しなのですね。それともうひとつお願いが…」
『その達也君の友人がどのような人物か、かい?』
「!…はい。その通りです」
『わかった。その友人の名前を教えてくれるかい?』
「有崎シンヤ、という名前です」
『わかった。そちらも調べておこう』
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
電話が終わると、先ほどまでの深刻な表情はなく、いつも通りの司波深雪がそこにいた。
ふと彼女は空を見上げる。赤く染まった空には月が昇り始めようとしていた。
おまけ
シンヤに駅まで送り届けられた後の三人
「ボ~……ハッ!しまった!」
「?どうしたの?エイミィ」
「今日はいつもより変」
「あの人の名前聞くの忘れてた!」
「…ねえ雫、もしかして」
「うん、もしかするかも」