ベン・メイブリーの英国談義:香川とアザールの評価の差

イングランド注目の新加入選手、評価の差の理由とは
今週火曜日のJスポーツ『Foot!』では、エデン・アザールとチェルシーを分析テーマとして取り上げた。だが、彼のイングランドへの移籍に対する反応は、マンチェスター・ユナイテッドの香川真司の加入に対するものとはなぜこれほどに異なっていたのだろうか?

ユーロ圏の経済危機や、それに関連する政治不安などがあろうとも、世界的な基準から見ればヨーロッパは今でも豊かで平和な場所であると言える。この大陸の中では、自分たちの境界線の外側で起こっていることを意識の外へ追いやってしまう傾向がある。これはイギリスにおいて特に顕著なことだ。この国は統一通貨に参加しようともしなかった(結局、賢明な選択だったようだが)し、そもそもシェンゲン協定にも加わっていない(こちらは少々偏屈な選択だ)。そんな様子だから、プレミアリーグの放映権を持つスカイスポーツは、この国のサッカーリーグこそが世界最高だと誇らしげに声を張り上げることに多くの時間を割くこともできる。だが、それが正当であるかどうかの詳細を追究しようとまでするのは余計なことだろう。視聴者はすでに、聞きたいと望む話を聞けているのだから。

実際のところ、この手法には利点がある。願望が現実を生むという働きのためだ。興奮を刺激された人々は、テレビやスタジアムでのサッカー観戦によりお金をつぎ込むようになり、イングランドのクラブはそこから得られる資金を通して欧州他国のライバルチームに対し優位性を得ようとすることができる(モラルや持続性の問題、インフレ型財政モデルの是非に関しては今後のコラムをお待ちいただきたい)。だがこのような姿勢が本当に問題となってくるのは、我々が外部からの情報をいかに吸収し、それに答えようとするかを考える時だ。

6月5日に香川真司のマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が発表された時、大衆やメディアの間で支配的だった反応は、オリンピックで銀メダルを獲得した選手に対するものと似通っているように感じられた。金メダルとはすなわち、この24時間前に彼らの腕の間をすり抜けていったエデン・アザールである。アザールは移籍金3200万ポンドでリールからチェルシーへの移籍が決定した。いつもならもう少し格調高い『ガーディアン』紙のジェイミー・ジャクソン氏でさえ、アザールの半分余りの移籍金での香川の獲得を「ユナイテッドの緊縮財政の新時代」らしい補強だと書きたてた。少なくともYouTubeくらいは閲覧し、香川がオールド・トラフォードでそれなりに活躍できそうなことは確認した上での記事だとは思うが。

だが実際のところ、英国の観察者たちが香川を「2位」の賞品だと軽視する一方で、同時にアザールを「欧州で最も将来有望な選手」と褒め称える理由はどこにもない。ブンデスリーガでの復権を望むボルシア・ドルトムントのファンが、J2から昇格したばかりのセレッソ大阪から35万ユーロで獲得した選手の能力を疑ってかかったとしても、それは仕方のないことだったかもしれない。だが彼らはすぐに、チームにも彼個人にも大きな名誉をもたらすことになった彼のゴールやアシストや全力でのハードワークに魅了された。一方のベルギー代表アザールは、ブンデスリーガよりわずかに劣るリーグアンの年間最優秀選手だが、昨季はその圧倒的なポテンシャルを本格的に形のある結果につなげることができた初めてのシーズンだった。違いがあるとすれば、アザールはより爆発力があり、香川はよりバランスよく完成されていると言うことができるかもしれない。

それでは、この一般的な評価(と移籍金)の差はどこから生まれたのだろうか? イングランドのファンがドイツよりフランスのサッカーをよく観戦するだろうか? もちろんそうではない。彼らはどちらのリーグも特に観戦しないからだ。国籍による違いだろうか? 悲しいことではあるが、それは多少影響しているかもしれない。とはいえ、それもわずかなことだ。実際のところは、それぞれの選手の周辺に形作られた表面的な話題性の大きさと、それがイングランドへの到着前にどの程度この国にまで伝わっていたか、という点に全てが集約される。アザールは自らのツイッターや代理人を通して、彼の移籍先候補であるクラブに効果的に売り込みをかけ、自身の名前が常に新聞紙上で取り上げられるようにしたことで、年俸とリールへの移籍金をオークションのように引き上げることに成功した。一方の香川は、ピッチ上での仕事だけに全力を注ぎ、ドルトムントで活躍することで新天地でのチャンスも手に入れようとしていた。

最終的な結果としては、両者ともに印象的な形でプレミアリーグでのキャリアをスタートさせることができた。アザールに関しては高い期待に応えたという受け取られ方をする一方で、香川の活躍はもう少し意外なものとして注目された。アザールはすぐに活躍しなければならないというプレッシャーの中でのスタートだったが、試合後のコメントを聞く限りでは、自らの最大限の力を発揮できるようにただ願うだけではなく、実際に発揮できるよう自分自身に冷静に要求しようとする姿勢に好感が持てる。ユナイテッドの26番は、ロビン・ファン・ペルシの加入によって「最大の新戦力」という立場から逃れたこともあって、チームに慣れるまでに十分な余裕を与えられている。だがウェイン・ルーニーの不幸な怪我により、いずれにしてもそのような特別な配慮は必要ではなかったと証明するためのチャンスはこれから継続的に得ることができそうだ。

アザールと香川の両方がそれぞれの新たな環境の中で輝きを放つことは、イングランドの全てのファンが望んでいることでもあるし、世界最高のリーグだと自己主張するプレミアリーグのステータスのためにもなる。2人の成長がどのような対比を描きながら進んでいくのか、興味深く見守っていきたい。

文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)

英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。今季は毎週火曜日午後10時よりJスポーツ3『Foot!』にてプレミアリーグの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@BenMabley