ブレストで盛大な歓迎を受けた
軍港には「ブンカー」と呼ばれる、厚いコンクリートに守られた、潜水艦そのものを収容する巨大な防空施設兼工廠が15基も並んでいて、伊八潜は、ドイツ側の案内で左端の奥のブンカーに艦首を入れた。その瞬間、ドイツ海軍軍楽隊の演奏する「君が代」がブンカー内におごそかに鳴り響いた。ブンカーでは、ドイツ西部海軍司令長官のクランケ大将、日本海軍代表委員・阿部勝雄中将、駐独武官・横井忠雄少将ら、多くの関係者が出迎えた。
「ブンカーそのものや歓迎ぶりにも目を瞠りましたが、それよりも、女性が花束を持って出迎えてくれたのには驚きました。日本ではありえないことで、こんなこと、それまで経験したことがありませんでしたからね。
ブレストの潜水艦基地隊では、盛大な歓迎会を開いてくれました。その晩、私たちは久しぶりに陸上のベッドでぐっすり眠ることができた。ただ、乗組員同士では気になりませんでしたが、ペナン出港から66日、潜水艦には入浴設備がなく、一度も風呂に入っていなかったので、臭気は相当なものだったでしょう。身についた垢が、いくらこすっても次から次へと湧いて出てくるんですから。たたんで持参した軍服は汚れていませんが、着たきりの下着は、まるで醤油で煮しめたような色に変わっていました……」