自宅などにいながらコンピューターでロボットを遠隔操作し、自分の代わりに博物館に行ってもらう、というSFのようなことが可能になっています。2020年6月、千葉県の病院に入院中の子どもたちが、こうしたロボットを使って国立科学博物館(東京都)を訪問してくれました。
小児がんで千葉大学医学部附属病院に入院中だったトラ君(仮名)は大の恐竜好きで、病室にはフィギュアや図鑑などがたくさんありました。トラ君のことを聞いた千葉県こども病院の沖本由理医師は、かつて入院していたタク君(同)が恐竜ファンで、私に会いに同博物館へ出掛けたことを思い出しました。そのようなつながりから、同県の小児がん患者を応援しているNPO法人ミルフィーユ小児がんフロンティアーズのロボットを操作して、トラ君が私に会いに来ることになったのです。
当日、トラ君は体調が悪くなってしまい、自分でロボットを操作することはできず、代わりにお母さんが質問してくれました。その後、別の病室の子どもたちがロボットを操作して展示室を動き回り、言葉のキャッチボールを楽しみました。中には画面で恐竜のフィギュアを見せてくれる子もいました。残念ながら、トラ君はその数日後に亡くなってしまいました。
群馬県立自然史博物館(富岡市)にも昨年10月、県立あさひ特別支援学校の子どもたちが遠隔操作のロボットを介して来館してくれました。さまざまな事情で現地に行けない人たちにとって、新たな外出の手段になるかもしれません。
先月、久しぶりに対面の講演会が実施され、私は兵庫県の宝塚市立図書館にいました。約160人が参加した講演会の終了後、個別に質問したい人たちが30人ほど残ってくれ、ホールで感染対策を取りながら話しました。
子どもたちが本にサインしてほしいと並んでくれるのですが、受け取ると恥ずかしそうに逃げてしまいます。私は「宝塚市のお子さんは奥ゆかしいですね」と笑いましたが、これは最近の全国的な現象です。新型コロナウイルスの流行により、家族以外の人たちと接する機会が激減してしまったことが、子どもたちの行動に影響しているようです。
前述の入院中だった子どもたちが画面で見せてくれた恐竜のフィギュアは、トラ君が一緒に入院生活を送っていた親しい子にプレゼントしていたものでした。好きな物や事は、近くにいる人に伝わります。同じ講演会場で聴衆同士で一体感を感じられたら、恐竜のことをもっと知りたいという気持ちが育まれることは間違いありません。
オンラインでも参加者の一体感を醸成するためには何をすれば良いのか。毎回、いろいろな試行錯誤を続けています。
【略歴】専門は古脊椎動物。国立科学博物館副館長。多数の書籍図鑑の監修を担当している。東京都出身。英ブリストル大学大学院修了。博士(理学)。
2022/2/26掲載