殛閃のエクスアステラ ─Record of Automatiphilia ─
御淵頼咬
【序】殻を砕こうとした者
プロローグ 流転する遺志
『殻を砕かねば、次の世界は生まれない。殻に閉じこもる小鳥は、ひたすらに腐るだけだ。同志たち、スコープに敵を捉えよ。同志たち、スコープの先の敵を
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星霊暦一八八四年 十一月七日 木曜日 午前一〇時二六分
コルネルス王国南東 ドワレベス地方 ワーロッカル領西部 領都カルカット 中央広場
二日も続く雨だった。濡れそぼる伝統的な石畳が湿ったカビのにおいを立ち上らせており、噴水広場の周辺には人垣ができていた。軍人がそれらを押しとどめ、威圧的に銃を構える兵士を前に暴動騒ぎにはならないものの、それでも野次や罵声は飛び交う。
悪女、鬼、売女、死ね、淫売、イカれ女、死ね、死ね、死ね、息子を返して、お姉ちゃんを返して、母さんを返せ、弟はどこ、そんな叫びと嘆き。国を滅ぼそうとした組織の指導者であり、大量虐殺の主犯。大勢を殺し、そしてそれを反省することもなく、降りかかる血を浴びて戦い続けた悪鬼羅刹。
そんな史上最悪のテロ組織『黒い
四半世紀続いた内乱は、軍人だけで一二〇万人が死亡。民間人は死者・行方不明者四四〇〇万人にも達した。その指導者は、初代指導者は七年前に死亡。しかし既に二代目にバトンが渡り、内乱は終わることなく続いた。
アンリエッタ──彼女は全身を包帯で覆っていた。左腕は上腕から先がなく、両足も太腿から先がない。断面の包帯は赤黒く滲み、黄ばんだリンパ液があちこちにシミを作っている。僅かに覗く右目は白く濁り、口には機械がつなげられていて車椅子に付属している機器にコードが伸びていた。自発呼吸もままならない彼女は喉と胸にもコードを繋ぎ、酸素の供給と鼓動の持続を行なっていた。ぎゅるるる、と音を立てて排泄ポンプが動き、彼女は雨の中呆然としていた。
処刑を担当するのは英雄、と言われる将校だ。オーウェン・ストルゥムルズ少佐。彼がアンリエッタを倒して捕らえた。激しい戦いの末に、互いに満身創痍で。
オーウェンは全身に騎士甲冑めいたパワード・インナースーツを着込んでいた。強化倍力服という誰もが求める力の象徴である。アンリエッタの赤と黒の威圧迷彩が特徴的な機体、〈ニュクス〉は装甲のあちこちが焼け付いてボロボロになっていたものの、それは拘束用の鎖に締め上げられ、星十字聖教団が神聖なるものとして崇める十字架に締め付けられていた。曰く十字架は、星霊神が身に帯びていた十字剣をイコンとしたものらしい。
見上げるような巨体。平均して一八メートルから二二メートルに達するVARSASは、さながら聖なる槍で貫かれた星霊神のような異様を発していた。闇夜を支配する女神は、右腕と左足が吹き飛び、脇腹には大穴、頭部ユニットは粉々に砕けて、バーニアも右側の二つが砕かれていた。
「何か、言い残すことは」
英雄がボイスチェンジャーを用いた声で問うた。手にしたライフルを向け、安全装置を外す。身に纏うパワード・インナースーツと付属のヘルメットで顔は見えない。ボディラインからして男だというのは確かだ。白銀のVARSAS、〈エレボス〉が神々しさすら感じさせる威容を放ち、両膝をついて待機姿勢をとっていた。
「最期にあなたの手で死ねることに感謝しよう。神ではなく、あるべき運命の、その結末へ」
アンリエッタが合成音声でそう返した。電気信号を読み取った回路が合成ソフトへ音声データを送り、デバイスがそれを出力している。アンリエッタ自身の声帯は焼けており、もうごろごろ濁った息しか出せない。
オーウェンは一つ大きく息を吸い込んで、それから言った。
「新しい時代で、また会おう。……いつかまた、僕が迎えにいく」
乾いた銃声。カン、カラン、と音を立てて転がる黄金色の空薬莢。煙を吐き出す銃口に雨滴がふれ、じゅ、と蒸発した。周りから巻き上がる大歓声。オーウェンは、これが自分が守ったものなのかと思うと吐き気を催した。
こんなものが、僕が命を賭してまで守ろうとしたものなのか。これが、彼女が世界を変えたい理由か。この醜悪が、ヒトという種が進化の果てに手に入れた美徳なのか。
「今度は僕が変える。変えてみせる。君が望んだ未来に……僕と君といられる世界に」
英雄はその日、仮面を脱ぎ去った。正義の味方という馬鹿げたマスクを取り払い、与えられた力の使い方を変えた。だが彼は狡猾だった。表立った武装蜂起ではない。もっと上手い方法で立ち回り、最愛のアンリエッタの理想を求めた。
尚、これに際し〈ニュクス〉の戦闘補助AIの解析を進めている際、そのデータ情報が丸ごと抜き取られていることを情報技官が報告していたが、オーウェンはその報告を無かったことにし、巧みに韜晦したという。その真意と真偽は、定かではない──。
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大きく設定を変えて改稿しております。
パワードスーツ→大型ロボット兵器
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