「いくら何でも酷いよね。相当焦ってるんだな」
自民党の閣僚経験者は公明党が課した“鬼ノルマ”についてこう語る。
参院選に向け、自民と公明の“亀裂”が深まっている。焦点は「相互推薦」だ。
「公明党の重点選挙区である兵庫や埼玉など五つの選挙区で、自民が公明候補を推薦する一方、自民が野党と一騎打ちになる一人区では公明から推薦を貰う仕組みです。2016年の参院選から本格的に始まりましたが、今回はまだ決まっていません」(政治部デスク)
発火点は兵庫。改選定数三の兵庫は、前回、維新の候補がトップ当選する中、自民候補は公明候補を下回り、3位で何とか当選した。
「自民党の兵庫県連は、『推薦によって公明に票が流れた』と怒り、今夏の相互推薦に猛反発。遠藤利明選対委員長が県連の説得に回ったものの、公明の山口那津男代表は『自力で選挙準備を進める』と公言するなど、“対決姿勢”を強めています」(同前)
自民党内にも不満が燻る。
「茂木敏充幹事長は『公明党は北朝鮮と一緒だ』と漏らしたと囁かれている。交渉を有利に進めるために派手な“ミサイル”で危機感を演出しているだけだ、という意味でしょうが、ただ、ブラフとも思えない。公明党に太いパイプを持っていた菅義偉前首相と違い、岸田文雄首相にはそれがない。岸田氏は『公明党だって台所事情は良くないんだろ』と強気の姿勢で、選挙まで5カ月を切った今も調整の目途は立っていません」(自民党関係者)
落とし所が見えない中、公明は更なる攻勢に出ている。公明党関係者が語る。
「自民の先生方に対して重点選挙区に拠点を持つ企業や後援者名簿の提供を依頼しています。それを元に戸別訪問や電話作戦を行うのです。中でも重視しているのが兵庫。伊藤孝江氏は16年選挙で末松信介文科相に次ぐ2位で当選したものの維新候補に約1万票差まで肉薄された。今回は更なる苦戦が予想されます」
“兵庫対策”の布石は全国各地で打たれている。小誌は関西圏以外の自民党員に配られた、〈企業(有力者)カード〉と題するペーパーを入手。そこには重点選挙区に加え、大阪や岡山、京都についても、〈※兵庫県に繋がりがある場合はご紹介ください〉と綴られている。
これまでも自民が公明に名簿を提供することは慣例化していたが、あくまでお願いベース。ところが、今回は具体的な数字を挙げ、鬼のような“ノルマ”を告げるケースもあったという。前出の公明党関係者が明かす。
「2月中に200社以上の紹介を依頼したこともあります。先方からは『兵庫なんて選挙区外ですから、そんな数は無理ですよ』と困り顔で言われましたが……」
関東地方の自民党議員秘書もこう語る。
「昨年末に名簿提供の依頼があり、3月上旬までに数100件の名簿を送る予定です。なかには、兵庫で3000人の後援者名簿を求められた例もあるそうです」
渋る相手には、こんな殺し文句が飛び出すことも。
「達成できなければ、あなたのところの次の衆院選に影響が出ますよ」
東京選出の自民党ベテラン衆院議員が語る。
「学会票を人質に取られれば断れません。実際、衆院選では、第一次、第二次推薦で公明党のリストから漏れた甘利明前幹事長が小選挙区で敗れ、推薦を依頼しなかった石原伸晃氏は落選しましたから」
選対委員長の遠藤氏に相互推薦について尋ねると、
「我々としては丁寧にやっていくしかない。(名簿の提供は)程度はともかく、これまでもやってきた。ただ、ノルマがどうこうという話は聞いていません」
公明党はこう回答した。
「選挙の取り組みに関することであり、相手方のお立場もありますのでこちらからお答えすることはできません。ただし、党から創価学会に名簿提供を依頼している事実はありません」
16年、19年と続いた相互推薦。「仏の顔は二度まで」だった?
source : 週刊文春 2022年3月3日号