コロナ禍で歴史的なバラマキも、庶民に還元なし
この構造的な問題の一端が分かるのが、20年11月に公表された野村総合研究所の調査だ。コロナで休業を経験した労働者がどれほど休業手当を受け取っていたのかを調べたところ、正社員(女性)は62.8%と、どうにか6割の人が休業手当を受け取れているのに対して、なんとパートやアルバイトで働く女性では、わずか30.9%にとどまっていることが分かったのである。
労働基準法では、企業に対して正規、非正規を問わず休業手当の支払いを義務付けている。新型コロナによる休業に関しても、事業者側が「コロナで客が減ったんで今月は給料払えないわ」と開き直らないよう、国が休業手当の一部を補償する雇用調整助成金や、中小企業で働く人向けの休業支援金・給付金という制度をつくって、金をバラまいた。
が、そのカネは経営者のところでストップして、パートやアルバイトで生計を立てる女性の7割は泣き寝入りをしていたというわけである。
断っておくが、これをもってして経営者側が「搾取」をしているなどと主張をしたいわけではない。
飲食店などの小さな事業者にとっては、とにかく「店をつぶさない」が最優先事項となる。なので、国から「このお金で従業員の賃金を上げてくださいね」とか「これで生産性向上に取り組んでくださいね」と金を渡されても、言われた通りの使い方にはならず、会社存続のための「運転資金」に消えてしまう。もしバラマキによって資金難を乗り越えて多少の余裕ができても、それは賃金には還元されない。現金給付を受けた国民の多くが「貯金」をしたように、飲食店などの零細事業者は、先行きが不安なので、何かあった時に備えておかなければいけないからだ。
つまり、事業者に対して行われるバラマキというのはどんなに注文をつけたところで、ほぼ100%、「会社存続」に注ぎ込まれるので、労働者には還元されないものなのだ。
バラマキによって“死に体の事業者”が延命する一方で、そこで働く従業員の待遇はまったく改善されないという醜悪な現実は、2021年の「異常な倒産件数」を見ればよくわかる。
帝国データバンクによれば、なんと前年比23.0%減の6015件で、1966年に次いで過去3番目に少ない、歴史的な超低水準となったのだ。あれだけ経済が止まっていたのにこの結果ということは、歴史的なバラマキが行われたということだ。しかし、そのすさまじい額のカネは、末端の労働者にはゼロ還元だ。
厚生労働省が2月8日に発表した、2021年度の労働者1人当たりの平均現金給与総額は前年より0.3%増だったが、実質賃金指数は前年で横ばい。つまり、日本政府の歴史的なバラマキは、「つぶれそうな法人」を救っただけで、「低賃金にあえぐ個人」には何の恩恵もなかったのである。