(社説)ウクライナ危機 秩序を壊す侵略行為だ
第2次大戦後の世界秩序を揺るがす暴挙である。隣国の領土を力で侵す行為を、国際社会は決して容認しない決意を示さねばならない。
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の一部地域を独立国家として承認した。ロシアが支える武装勢力が支配する二つの「人民共和国」を認め、ロシア軍を駐留させるという。
この「共和国」の指導者は、ロシアの傀儡(かいらい)だ。歴史的にも法的にも独立を主張できる正統性はない。プーチン氏の行動は隣国の領土の切り取りであり、事実上の侵略にほかならない。
米欧だけでなく国連事務総長も、「領土と主権の侵害」を非難した。世界の平和と安定に重責を負う国連安全保障理事会の常任理事国が、自ら国連憲章を踏みにじった衝撃は大きい。
プーチン氏は演説で、ウクライナは「我々の不可欠な部分」と訴えたが、これまでロシア自身が領土保全や停戦・和解などをめざす合意を結んできた。そうした経緯を無視した行動に正当化できる余地はない。
ロシアはさらに支配地域を広げ、ウクライナ政府に力で圧力を加える可能性もある。周辺の国々を巻き込み、ロシアと西側が対峙(たいじ)する冷戦期のような緊張が長期化する公算が大きい。
米欧などでつくる北大西洋条約機構(NATO)の首脳は、欧州の安保構造そのものが試練を受ける状態が「ニューノーマル(新たな日常)」になった、との警告を発している。
その危うさは欧州にとどまらない。国々の主権平等や法の支配の原則が軽んじられれば、アジア太平洋を含むあらゆる地域の未来は不安定化する。
米国の指導力が減退し、ロシアや中国などがそれぞれに強権姿勢を強める無極化世界が到来した、ともいわれる。だからこそ力ではなく、ルールが支配する秩序を築く責務を、日本を含む各国が果たすべきだ。
ロシアがクリミア半島を占領した際は、国際社会の対応に温度差があった。ロシアと近接する欧州と米国との間では意見の違いも目立った。当時の過ちを繰り返してはならない。
主要7カ国(G7)や欧州連合は、秩序の破壊を許さない結束の意思を発するときだ。効果のある経済制裁を発動するとともに、今なお残された外交解決の模索に全力を注がねばならない。国連安保理は紛糾するとしても、ロシアの責任をただすべきだろう。
日本政府は当面、他国の主権を顧みない国との平和条約交渉に意味はないことを悟る必要がある。岸田政権は米欧追随ではなく、率先して国際議論を主導する外交が求められる。
- 佐藤優作家・元外務省主任分析官2022年02月24日07時49分 投稿
【視点】 ロシアが「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の主権を承認したことは、ウクライナの主権と領土の一体性を毀損する行為なので、日本政府が非難するのは当然です。同時にこの地域の住民のほとんどがロシア人としてのアイデンティティーをもって
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