広島がロケ地となった映画「ドライブ・マイ・カー」が、2月8日にアカデミー賞の作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の4部門にノミネートされた。
ロケ地となった場所をめぐり、あらためて映画の魅力に迫る。
濱口竜介監督、村上春樹原作の映画「ドライブ・マイ・カー」は、妻を亡くした舞台俳優で演出家の主人公を西島秀俊さんが演じ、演劇祭のため訪れた広島で運転手の女性と出会い、自身の悲しみを見つめ直す姿が描かれている。
この記事の画像(24枚)1月にアメリカのアカデミー賞の前哨戦に位置付けられる「ゴールデン・グローブ賞」で、英語以外の映画に贈られる非英語映画賞を受賞した。日本の作品の受賞は62年ぶりとなる。
この映画は当初、韓国で撮影される予定だったが、新型コロナの影響で撮影地を国内に変更。大部分が広島で撮影された。
ロケ地選定の段階から作品に携わった、広島フィルム・コミッションの西崎智子さん。これまでも、さまざまな映画に携わってきた。
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
(ゴールデン・グローブ賞の受賞は)本当にうれしくて、出た時は「やったー」と言ってしまいました。広島で撮ってくださったから、どの映画も宝物なんですけど、大きな賞を受賞すると、ご覧いただく方の数が全世界で圧倒的に広がるというのがうれしいです
映画と同じ“真っ赤な車”で街中をドライブ
作品に出てくるスウェーデンの車「サーブ」と年代が近い、マツダの初代ロードスター。映画と同じく赤い車で、ロケ地となった広島の街をドライブしながらめぐっていく。
この映画は、真っ赤な車が街を走る姿が印象的だ。
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
本当に俳優さんが運転するときもあれば、けん引車でっていうときもあったり
衣笠梨代アナウンサー:
ご自身で運転されているところもあるんですね
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
そこが、ちょっとびっくりしました。三浦透子さんが、この役が決まってから練習されて(免許を)とられた。もともと運転されていなかったから
衣笠梨代アナウンサー:
すごいですよね! いろんなところで本気度が見えますね
ロケの決め手のひとつ「広島市環境局・中工場」
最初に向かった先は、広島市環境局・中工場だ。
ごみ処理施設でありながら、美術館のようなたたずまいのこの建物は、ニューヨーク近代美術館なども手掛けた建築家・谷口吉生氏が設計した。
ここからは、映画館・八丁座の桑原由貴支配人と合流してめぐる。
さて、予告編でも印象的なシーン。
西崎智子さん・桑原由貴支配人・衣笠梨代アナウンサー:
まさにここですね。二人が(いた場所)、感動!
桑原由貴支配人:
吹き抜けって、どうなってるんだろうって思ってたんですけど、この風の通る道ね
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
海の方へ
西崎智子さん・桑原由貴支配人・衣笠梨代アナウンサー:
ここからも海が見えて、本当にきれいですね。ここ最高の場所ですね
中工場は、平和公園から海へのびる吉島通りの南端に位置し、原爆ドームと慰霊碑、原爆資料館を結ぶ「平和の軸線」と呼ばれる。その直線を遮らないように吹き抜けの構造となっている。
映画の中では、ドライバーのみさきが、お気に入りの場所として主人公・家福に紹介し、平和の軸線についても触れている。
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
濱口監督が台本を書くために場所を見てまわるのにお越しになった時に、「平和の軸線」の説明をしたら、(映画の)舞台となる国際演劇祭の開催地として、文化度が高くてぴったりだということで。中工場のおかげです
この場所が広島ロケの決め手の一つになり、脚本にも反映された。
桑原由貴支配人:
映画を見ると、一番にここに来たくなる場所ですよね。私も行ってみたいって、一番思いました。来られて感激です!
中工場の外の公園でも撮影が行われた。
さらにポスターもこの場所で撮影されたということで、3人になりきってみた。
「平和公園」で“何か”が起きる?
予告編のラストカットも広島の風景。広島高速4号線だ。
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
セリフの文量にあわせて、だいたいセリフが入りきるぐらいの感じでトンネルを抜けたいとか、いろんなリクエストがあって、この4号線がいいのかなって
衣笠梨代アナウンサー:
このトンネルを抜けた、広島の街がね~
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
本当にすごくきれいで良い場所ですよね
続いては、平和公園のシーン。
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
あそこが、ロケ地になった演劇の練習をしている野外稽古をしているところです
桑原由貴支配人:
木漏れ日がみんなを包んで、すごく幸福感に満ちた…
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
そこで「何か」が起きるというシーン
桑原由貴支配人:
私も何かが起きる瞬間を見ました
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
美術さんが演劇の舞台で、最後何かを起こさなきゃいけないっていう演出を、西島さん(演じる主人公)が一生懸命やっていたので、ここの落ち葉を集めて、東広島芸術文化ホールくらら(で撮影が行われた)舞台のところに敷き詰めていたんですよ
桑原由貴支配人・衣笠梨代アナウンサー:
わざわざ! すごい!
衣笠梨代アナウンサー:
普通に見ただけでは気づかないようなところにまで、思いがこもっていたんですね
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
スタッフさんがみんな同じ方向を向いて、良いものを作って、それぞれのシーンの深い意味を理解されているなと思った
一つひとつのシーンをあらためてじっくり味わいたい…。そんな作品となっている。
撮影時に使用した席で…「BAR CEDAR」
最後に訪れたのは、広島市中区袋町のバー「BAR CEDAR」。
西崎智子さん・桑原由貴支配人・衣笠梨代アナウンサー:
お二人が座られていた…。まさに映画のシーンだ。西島秀俊さんと岡田将生さんがこんな感じで…。すごく雰囲気がある。座れちゃった
この場所では、映画後半の重要なシーンが撮影された。
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
監督補さんが、ロケハンの後におひとりで来られて、プライベートで。それで次の日に「実はきのうの夜、良いところがあったんだけど、見に行ってみましょうか」ということで決まった場所なんですよ
衣笠梨代アナウンサー:
この雰囲気にビビッときて、監督も選ばれたんですね
広島フィルム・コミッション 西崎智子さん:
すぐに「ここで」っておっしゃいました
西島秀俊さん演じる家福と、岡田将生さん演じる高槻。二人が語る内容は…ぜひ映画で確かめてほしい。
このほかにも、瀬戸内の多島美を望む安芸灘大橋や、大崎下島の御手洗地区など、広島の美しい風景がふんだんに盛り込まれている。
アカデミー賞の授賞式は、日本時間3月28日に行われる。
(テレビ新広島)