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未来の記憶
Tシャツをなびかせる風が心地よい。
真夏だということ忘れそうだ。
ここは加奈子が住むマンションの屋上だ。
「流石に10階建てのビルの屋上だと見晴らしがいいな。最上階の家賃は高い筈だ」
遠くを眺めながら慶太は言った。
「未来の人間は収入が低いほど上階に住むのよ。どうしてだかわかる」
「全くわからない」
「誰もが自由に空を飛べるからよ。高さ200メートル飛行時間は1時間くらい」
「確かにそれなら高い所に住む必要はないな。・・・成功したんだな未来の記憶を受けることに」
「信じられる?想像じゃなくて記憶として残ってる」
「君が言うなら、そうなんだろう」
加奈子は目を合せようとしない。
「どこから話せばいいのか分からない」
「じゃあ最初に君が言っことに質問する。収入が低い人ほどって言ったけど、未来に格差はあるのか」
「ある程度わね。ヒエラルキーの最高位は科学者よ。ても貧困層は消えたわ」
「素晴らしいね」
「さあどうかしら。私には分からない」
加奈子が僕を見つめる。
「慶太、昨日の朝中川レイコがいった事覚えてるでしょう。私が2年後に自殺するって言ったの」
慶太は返事を返さない。
「あれはホントよ。だって私、ここに上がってくる度に時々思った。いっそ飛び降りようかなって」
「やめろよ、もういいよ」
加奈子指で目元を指で拭っている。
ハンカチを持っていないことを慶太は悔やんだ。
「中川レイコがどうして私に直接電話しないのか。それはね、私が死んだから、私の遺伝子が未来に継承されていないからなの」
「未来はDNAまで管理されているんだな」
「もし、あなたの遺伝子が500年後も続いていたらあなたの祖先は慶太が今日何を買ったかまで分かるのよ」
「それは無いよ。俺カード持ってないんだ。いつも現金主義さ」
「例え話で言ったの」
「ゴメンそうだよな」
慶太は頭を掻きながら笑った。
加奈子も笑い返す。
何故か嬉しい。
「だけど加奈子はもう死なないって事だよな。だって俺達未来を変えるんだから」
「そうなのかも知れない。だって私今楽しいもの。慶太と会う前の私と今の私は別人って気がする。慶太ありがとう」
「それは俺も同じだよ。レイコから電話がある前は生きる目的も意味も見いだせなかった」
二人はお互い似ているのかも知れないと思った。
何か漠然としたものを共有しているのだ。
「何かしなくちゃいけないけれど、何をすればいいのか分からない」
何時ものラップを披露する。
「何それ」
「俺の心の声。でももうこの歌とはオサラバさ」
「ねえ慶太、コンビニのバイトやめられないの」
「親に学費を払わせているからな、家賃ぐらいは自分で稼がなきゃ」
「私が払ってあげると言ったら怒る?」
「何だかこの歳でヒモみたいで嫌だな」
慶太は内心できればお願いしたいくらいだが、ここはグット我慢した。
「そうよね、傷つくよね」
慶太は、だったら私の家に一緒に住まないと言ってくれるかもと期待したが無理だった。
「そろそろ聞かせてもらおうか。加奈子の未来の記憶」
「そうねSF小説みたいな私の記憶。まずは朱雀太郎の話からしなくちゃ」
「朱雀太郎?誰それ」
「科学者よ。話は長くなるから部屋に戻りましょう。未来の話をするには、ここは風が強すぎる」
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