中西家の過去

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中西家の過去

  加奈子が自分に不思議な力があると感じたのば小学一年生の時だ。 仲のいい友達とジャンケンをしても、必ず勝つのだ。 その話が近所で話題になると母がジャンケンは3回に1回しか勝っちゃ駄目と厳しく言われた。 そして、中西家は引っ越した。  小学三年生の時は、友達に誘われ将棋を始めた。 ルールを覚えた一週間後には、友達の誰もが加奈子には歯が立たなくなった。 ある日、アマチュア将棋の有段者である友人の父親と将棋を指した時に、何と加奈子が勝ってしまったのである。 このアマチュア棋士は、加奈子が百手先を読んでいると確信する。 直ぐに加奈子の両親に、プロ棋士を目指すように掛け合った。 しかし、丁寧にお断りし町を出た。 加奈子には、将棋を止めさせた。 厳しく躾をする両親には加奈子は反発出きなかっのだ。 その後も度重なる転校を余儀なくされる加奈子は本来、明るい性格だったが、次第に友達がいない根暗な女の子になってしまった。 そして等々中学一年生の時に、加奈子の感情が爆発する。 思春期を迎えたせいかも知れない。 加奈子が一学期の最初のテストで、主要五科目ですべて百点を取ったのだ。 あっという間に学校で評判になる。 どんな勉強の仕方をしてるのか同級生に尋ねられたが、先生の授業と教科書を読むだけだと言っても信じて貰えなかった。 両親が喜ぶと思って報告すると   「目立ってはいけない」と言われた。 また引っ越しをすると言う両親を前に、きつい言葉で反論し号泣した。   「もうこんな生活いや。友達もできないし、悩みを相談する人もいないなんて。死にたい」 すると母は立ち上がり、ボールペンとメモ用紙を一枚取って、加奈子の前でスラスラと何かを書き出した。   「これ明日のプロ野球の試合結果と得点表よ。意味わかるよね」   「お母さんにも、私と同じ力があるの?」   「いつかは話さなきゃと思っていたけど、今がその時のようね」  母が語った過去の話は壮絶で悲しい人生だった。 母の名前は旧姓佐藤光子。 父義信、母清美の間に生まれた一人娘である。 彼女がまだ幼い時に、野球が好きな義信がテレビ観戦をしていた時の事だ。   「この試合巨人が6対3で巨人が勝つよ」と言った。 巨人ファンだった義信は嬉しがったが、試合が終わると本当に6対3で巨人が買って義信が大はしゃぎする。 その姿が面白かったのか光子のは次の試合でもその次の試合も予想しては当ててしまう。 余りにも的中する加奈子の予想に驚いた義信は、競馬の予想を光子に訪ねた。 半信半疑で加奈子が言った馬券を買って見たところ何とズバリ的中する。 これに味をしめた義信は、目立たないように競馬、競輪、競艇等で金を稼ぐようになる。 厳しかった父が、いつもお菓子やオモチャを買ってきてくれて優しくなったのが光子は嬉しかった。 本来腕のいい大工職人であった義信だが、大金を手にするようになると、仕事は辞めてしまった。 悪い輩と遊ぶように成ったり、外に愛人を持つようになる。 一日、二日と家に帰らなくなり、とうとう家に戻る時は光子に合う為だけになっていった。 その頃はもう、母清美は義信に嫌悪感が強くなり始めていた。 ある日、いつものように義信が呼び出し光子に競艇のレース予想を頼んだところ、   「お母さんがもう絶対に教えてはいけないって」 何とかなだめすかして聞こうとするが、   「もし教えたら、お母さんも居なくなるかもしれないから」 そう言って教えてくれない。 一旦諦めて帰った義信は、その日酒を飲み酔に任せて清美のもとへ走った。 光子は、ドアの隙間から両親の罵り合いを見ていた。   「お前が光子をたぶらかした」   「あんたが、光子を利用している」 そんな風な言い合いをしていた。 清美の怒りが頂点に達したのが、義信のこの言葉であった。   「光子は俺が引き取る」 怒りに狂った清美は、台所から包丁を持ち出し義信めがけて振り回し、脇腹に刺してしまった。 抵抗していた義信は、刺さった包丁を抜いて清美に襲いかかった。 今度は包丁の刃は清美の首を切り裂いてしまった。 大声で泣き叫ぶ光子の前で両親が殺し合いをしたのである。 その後、警察の発表で三角関係のもつれによる殺人事件とされた。 光子は自分の特殊能力が原因だと、警察には言わなかった。 親しい親戚がいない小学5年生の光子は、施設で暮らすようになる。 光子は自分の能力を秘密にしたまま、高校まで進んだ。 高校2年の時に、一人の男性が施設にやってきた。 相田智(アイダサトル)17歳。同じ歳だ。 幼い時に父親を病気で亡くし母親一人で育ててくれいたが、仕事で無理がたたりクモ膜下出血で倒れ亡くなったそうだ。 光子とサトルは、同じ悲しい環境を持つもの同士直ぐに打ち解け、恋に発展した。 高校を卒業すると二人は、就職した。 交際は続き二十歳の時にサトルは光子に結婚を申し込んだ。 悩んだ光子は、自身の秘密をサトルにさらけ出す事を決意した。 光子の両親がお互いを亡きものにした事、その原因が光子の特殊能力にある事を話した。   「あなたの妻は殺人者の娘になるのよ。それに子供はその孫になるの------黙っててゴメンナサイ」   「君の育った環境は知ってたよ」 光子はハッとした顔になる。   「それに、もし僕達の間に子供ができて君と同じ能力があったとしても、僕はそれを利用したりしない」 斯くして二人は結婚し、加奈子が生まれたのだ。      「悪かっな辛い過去を聞いちゃって」 慶太は下を向いて顔を上げない加奈子に優しく呟く。 指で目元をぬぐうと加奈子が言った。   「どうびっくりした。私は殺人者の孫よ」   「そんな風に言うのはやめろ。君は、イヤ君のお母さんも君も犠牲者だ。何も悲観する必要はない」   「ありがとう。そう言って貰えると気が楽になる」 加奈子はティッシュボックスから紙を引き抜くとまた目を拭う。   「つまり君もお母さんと同じ力を受け継いだんだね」 恐る恐る聴いてみた。   「そのようね。こんな話するの生まれて初めて。お母さんも二十歳の時に経験したんだった」 その話した相手とお母さんは結婚したんだと思うと、慶太は複雑な気持ちになった。 加奈子の事を愛おしく思えてきたのかは、まだ分からない。   「なあ加奈子。今度の水曜日の朝、また電話が掛かってくるら一緒に話を聞いてもらえないかな」 慶太は思い切って下の名で呼んでみた。   「分かった。砂川君の家に6時前に行けばいいのね」   「慶太でいいよ。お互い名前でいこう」   「分かった。私男の人を下の名前で呼んだことないけど、努力するわ」 慶太は、何だか心が弾む思いがした。        
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