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中西加奈子の特殊能力
慶太は、バイクショップ立岡ににお邪魔している。
高校の時に中古の原付バイクを買ってからの付き合いで、もうまる3年になる。
店長の立岡は35歳で未だ独身だ。
若者の面倒見がよく、兄貴の様な存在だ。
店長には、昨日から詳しい理由は言わずに場所を間借りしている。
斜め向こうに見えるマンションを見張るためである。
若い女性が出てきたら、すぐさま飛び出して行く慶太を見て、人探しをしているのは、立岡は分かっているだろう。
だが何も詮索せずにいてくれるのが、反って心苦しかった。
これが、立岡さんが若者に人気たる所以だろう。
仕事の手が空いた立岡さんは、缶コーヒーを持ってきてくれた。
「はい、これでも飲んで」
「ありがとう立岡さん」
「未だ待ち人来たらずか」
「うん、ゴメンネ立岡さん迷惑かけて」
「謝ることはないさ、犯罪になる様な事をしてるんじゃないんだろう」
「それは無い、約束する」
「だったら気にするな、何時まででもいたらいいさ」
缶コーヒーを一気に飲み干し仕事に戻る立岡さん。
その時だった。
黒い帽子にサングラス、紺のTシャツにジーンズ姿の女性がマンションなら出てきた。
向かって右側にあるき出す。
その姿はモデルのウォーキングに見えなくもない。
いや、松田直美が言ってたように、飛び跳ねるような歩き方がの方が適切にも思える。
立岡さんチョット出てくと言って、原付バイクに跨った。
道路を横断すると、追い越しざまに顔を確認するがよく分からない。
バックミラーで確認すると、バス停の前で立ち止まっている。
左折しバイクを止めて様子をうかがう。
5分程するとバスが来て、それに乗り込むのを確認した。
ガソリンは満タンだ、何処までも追っかけてやると決めた。
30分程走ると○○ボートレース場前で降りてきた。
黒い帽子が目印で分かりやすくて助かる。
何処に行くのかと思ったら、そのままボートレース場に入って行った。
バイクを止め後を追う。
今から8レースが始まるところだ。
彼女は投票券を慣れた手付きで記入し、発売機で購入する。
財布から3千円を出したのが遠巻きから確認した。
数分後、8レースが始まった。
このレース、一番人気のレーサーが失速し3着に終わる。
配当金が8750円がついた。
すると彼女はすぐさま払戻機に向かう。
通行人の振りをして後ろから覗く。
数十枚の1万円が払い戻されている。
彼女は、一点買いで当てていたのだ。
そのまま続けるのかと思いきや、レース場を後にする。
慶太はここで思い切った行動に出る。
レース場を背に声を掛けた。
「中西加奈子さんだよね」
彼女が振り向いた。
サングラスの為表情は伺えない。
「ひょっとして砂川君?」
サングラスを外し少し眉間を寄せた。
確かに美しく成ってる。
本当は初めから綺麗で黒縁眼鏡で隠していたのかもしれない。
「覚えていてくれてありがとう。凄いな、今のレース取ったみたいだな」
「何だ見てたの恥ずかしいわ。所謂、ビギナーズラックってやつね」
「ホントにそうか、俺には銀行のATMからお金を引き出す様にしか見えなかったが」
「何が言いたいの」
「君が超能力者だって事さ」
「バカバカしい。付き合っていられない。それじゃあ」
踵を返して立ち去ろうとする。
「俺はある人に、君が特殊能力を持っていると教えられたんだ」
再度振り返った加奈子は
「あなたと話をする必要があるみたいね」
これは認めたと同じだと慶太は思った。
「それじゃあ何処か店にでも入るか、それとも公園でも行って続けるか」
「私の家でいいわよ。どうせ私を尾行してたんでしょうから自宅も知ってるのよね」
「尾行と言われる変質者みたいで情けないけど一応知ってる」
慶太は頭を掻きながら言った。
「ここ迄どうやって来たの?」
「バイクだ。残念だけど原付きで二人乗りはできない」
「大型バイクでも後ろに乗る気はないわ、先に行っててタクシーで帰るから」
嫌われたなと慶太は思った。
もがく〜
兎に角、第一段階は成功だ。
バイクに跨りこう言い放った。
「ここからが本番だ」
バイクを走らせ加奈子のマンションを目指した。
バイクショップの立岡さんにバイクを保管してもらうとその足で向かいのマンションに向かった。
加奈子も丁度タクシーから降りてきた。
無言のまま彼女の後ろをついていく。
初めて女の子の部屋に入った。
一階の角部屋で間取りは1DKだ。
ドラマで見るような女の子らしい部屋を想像したが、あまりにも殺風景で必要なも以外は何もないという感じだ。
「どうして一階にしたの? 安全を考えたら上階の方が良かったんじゃないの」
素直に聞いてみた。
「エレベーターの中で、他人と一緒になるのが嫌なだけ」
不機嫌に答える。
「物があんまりないね。君の財力なら何でも揃えられるだろう」
「それどういう意味。私まだ肯定も否定もして無いんだけど」
「ゴメン、ゴメンそう膨れるなよ」
「兎に角、その辺に座って」
加奈子は小さな冷蔵庫からペットボトルのお茶をとりだしハイと言って渡した。
「じゃあどっちから話す?」
「当然あなたよ」
「どうして?」
「だってそうじゃない。例えあなたが私の事を吹聴して回っても構わない。そんな事したらあなたが頭おかしいって変人扱いされるだけ。だけどあなたは、私に何か目的があって私に近づいた。違う?」
この女、頭が回るなって慶太は思った。
「確かにそうだな。じゃあ俺から話そう。今から話す事は全部真実だ。君が信じてくれるかどうかは別だけどな」
慶太はことの顛末を最初から丁寧に話した。
中川レイコからの電話、ロト6の件、エジプト地震、彼女が未来の人間だと言うこと、そして特殊能力を持っている中西加奈子にコンタクトを取って話をしたがってる事等を順番に説明した。
「それを信じろと?」加奈子が言った。
「俺自身も正直言って混乱している。だけどエジプト地震だけはどうしても説明がつかない」
「その話を信じる信じないじゃない。あなたを信じるかどうかでしょう」
「確かに俺の作り話と思われそうな話だもんな」
慶太はペットボトルのフタを開け一口飲み、乾いた喉をを潤した。
「次は君の番だ。真実を聞かせてくれ」
加奈子の顔が少し厳しくなった。
「いいわ、聞かせてあげる。誰にも話したことの無い私の過去を含めて」
加奈子は決心したかの様に語りだした。
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