週刊文春 電子版

大阪「コロナ死者急増」に吉村知事の言い訳《致死率は東京の3倍》

「週刊文春」編集部

NEW

ニュース 社会 医療

「連日、全国最多の死亡者数と報じられるので、吉村知事は次第にいら立ちを見せるようになりました」(大阪府担当記者)

 コロナによる死亡者数が全国最多の大阪府。2月19日までの累計死者数は3579人で、人口が1.5倍の東京の3431人を上回っている。

 とりわけ昨年12月17日以降の第6波での傾向は顕著だ。新規感染者数は大阪が約37万人、東京が約51万人だが、死亡者数は大阪が515人、東京は259人と大きく逆転しているのだ。

 なぜこうまで大阪に死者が多いのか。

 太融寺町谷口医院(大阪市)の谷口恭院長が、臨床現場における実感を語る。

「1〜2週間前から、重症化しつつある人でも入院できなくなっています。病院に電話しても受けてもらえず、保健所には『救急車を呼んでください』としか言われず、救急車を呼べても搬送先が見つからない。医療機関は、酸素投与や気管内挿管の必要な高齢者で埋まっているのです。高齢者が十分な治療を受けられずに死亡するケースが相次いでいると見られます」

 病床使用率は東京が59.9%に対し、大阪は77.8%(2月19日時点)。重症病床の使用率は40.4%で「非常事態の目安」の40%を超えた。医療体制の逼迫が高齢者を直撃している格好だ。

 吉村洋文知事も2月10日、大阪の死者が多い理由について、記者会見で「高齢者」に言及した。

「お亡くなりになった方の年齢層を見ても、80代以上の方が70%、70代以上を含めると90%。これは、これまでとは違う年齢分布。コロナがきっかけで原疾患が重くなったり、老衰でお亡くなりになる、高いリスク層のところに感染が広がっている」

 

 2月18日に開かれた府新型コロナウイルス対策本部会議の資料によれば、大阪では70代以上の新規陽性者は2月1日以降で全世代の11%だが、死亡者に占める割合は93%。軽症中等症の入院患者数も70代以上が77.3%と、第4波の60.4%、第5波の23.0%を上回る。

 だが、前出の記者は、吉村氏の説明に疑問を呈する。

「高齢者が多いのは大阪に限った問題ではない。大阪の高齢化率は27.5%。全国平均の28.7%を下回っているのです」

 吉村氏は、2月19日の読売テレビの番組ではこんな自説も展開。

「高齢者と若い世代の生活圏が非常に近いんじゃないかとおっしゃる方もいらっしゃいます。職場もそうだし、生活もそうだし」

 だが“高齢者と若い世代の近さ”については、全世帯数に対する3世代世帯の割合は全国平均9.2%に対し、大阪は4.6%と大きく下回っている(2020年国勢調査)。

「“高齢者が多い”だけでは説得力がないと感じたようで、知事は最近、別の理由を探し始めています」(前出・記者)

 記者から「東京都と比べて死亡者が多い理由を分析しているか」と問われた吉村氏は15日、「比較というのがどこまですべきなのか、正しいのか、は僕はどうかと思っています」とイライラを滲ませ、こう語った。

「陽性者に対する致死率の割合を是非、全国で見ていただけたらと思います。大阪はちょうど真ん中くらいになっています。陽性者においてお亡くなりになる率が群を抜いて高いという状況ではない」

 確かに第6波の大阪の致死率は全国平均の0.12%に少し劣る程度の0.14%だが、東京(0.05%)に比べれば約3倍に及んでいるのである。

 大阪に死者が多い一因として指摘されるのが、保健所の機能不全だ。

 地域のコロナ対応の司令塔となる保健所は統廃合が進められ、2000年には大阪市の24区それぞれにあった保健所が1カ所に集約。つまり人口270万人の大阪市を1つの保健所が管轄しているのだが、この態勢がコロナに追いついていないという。

 大阪府保健所に勤務経験のある、関西大学の高鳥毛敏雄教授(公衆衛生学)が語る。

予算84億円の施設は……

「大阪市保健所は感染拡大に職員補強が追いつかず機能不全になりました。1月中旬以降、大阪府が公表するクラスターの中に、大阪市の報告がなくなったのは対応できなくなっていたことを示します。大阪市の行政に府と市が権限争いをしているところに、感染力の強いオミクロン株が来襲し、大阪の死者数の増加につながった可能性があります。松井一郎大阪市長もリーダーシップを発揮して早く全庁的対応をとるべきでした」

 だが松井氏は日本維新の会代表でもあり、副代表の吉村氏の“上司”にあたるという、ねじれの関係だ。

「吉村氏が松井氏に指示するなどできない。大阪市にも対策本部会議は存在しますが、最後に開かれたのは昨年9月29日。大阪府の本部会議にオブザーバー参加して事足りると考えているのです。これでは細かな対策がとれるわけがない。本来なら吉村氏が松井氏に指摘すべきところですが……」(大阪府庁関係者)

 その機能不全は、吉村氏が危惧する高齢者施設に及んでいる。

 対策本部会議の資料では、クラスターが起きた府内426の高齢者施設、障がい者施設のうち、医療機関が介入できたのは3分の1の158施設。しかも192施設が「保健所回答なし」とある。野々上愛大阪府議が解説する。

「保健所が施設と物理的に連絡がつかなかったことを示しています。中には、職員も感染者や濃厚接触者となって電話に出るのはアルバイトとか、保健所の聞き取りに答える余裕も情報もないので保健所からの電話は着信拒否するといったケースまであったと聞いています。施設が行政から放置されている状況なのです」

 これまで吉村氏もトップダウンで対策を打ち出してきてはいた。それは議会を経ずに知事が独断で予算を計上できる「専決処分」の多さに表れている。20年度の補正予算に占める専決処分の割合は46.8%。全都道府県で群を抜く。

 だが、対策のスピードを重視するためとはいえ、府民目線のチェックが働かず、ミスマッチにつながっているという指摘もある。

 その顕著な例が、専決処分によって昨年9月に開設された吉村氏肝いりの「大阪コロナ大規模医療・療養センター」だ。イベント会場に1000床を確保し、宿泊療養施設が逼迫した際の患者を受け入れる施設。総予算84億円を見込むが、2月20日時点の利用者はわずか18人。早くも“負の遺産”になりそうなのだ。

「2月上旬、受け入れてほしい患者さんをセンターに無下に断られましたが、数日前から対応は良くなりました。ただ案内には『重症化リスク(基礎疾患等)のある方等はホテル療養をご案内いたします』とされており、ほとんどの大阪人は『そんなところに行くくらいなら自宅で過ごすわ』と考えるでしょう」(前出・谷口氏)

 
大阪の大規模医療・療養センター

 これらの指摘について、大阪府に訊いた。

 大阪府の致死率は「ほぼ全国平均」。三世代世帯の割合は、感染者の多い東京都と比べた場合「大阪の方が、三世帯割合が大きく、高齢者と若い世代の生活圏が近い」。大規模センターについては、当初は40歳未満を対象としたが、第6波では当初想定していた利用は少なく、60歳未満まで対象を引き上げた、とした。

 一昨年8月、「嘘みたいな本当の話」としてうがい薬がコロナ感染防止に効果ありという説を開陳した吉村氏。今こそ本当の、効果的な施策が求められている。

 

source : 週刊文春 2022年3月3日号

文春リークス
閉じる