栄養学と聞くと堅苦しいイメージを持つ人もいるかもしれませんが、最近は新しい視点で料理や食べることの楽しさを伝える若い世代の活躍が目立っています。そのなかでも個性あふれるスタイルで注目を集めているのが、ここに登場していただいたお二人。 NHK Eテレ『ごちそんぐDJ』にレギュラー出演。「くいしんぼうHIP HOP」を掲げて料理と音楽をかけ合わせ、小さい子どもから音楽ファンにまで支持されるミュージシャン、DJみそしるとMCごはん(通称、おみそはん)さん。 一方、和装がトレードマークのイケメン管理栄養士として人気の圓尾和紀さんは、日本人のからだに合った食を提案しながら、ファスティング(断食)の資格を取得するなど、既成概念にとらわれない柔軟な思考で健康生活を実践されています。 ともに大学で栄養学を学んだ後、独自の方法で「食や栄養の大切さ」を伝える活動を行う二人は、何をきっかけに料理や栄養に関心を持つことになったのでしょうか。さらに、せっかくの機会ということで、おみそはんの最新アルバム『ごちそんぐDJの音楽』で歌われる料理レシピを、圓尾さんが管理栄養士としてremixするというスペシャルなコラボも実現! 次々と新しいアイデアも飛び出し、ワクワクと食欲が止まらない対談となりました。
女子栄養大学出身の音楽家、DJみそしるとMCごはんとは?----お二人とも学生時代に栄養学を学ばれているんですよね? DJみそしるとMCごはん(以下、おみそはん):私は女子栄養大学なんですが、管理栄養士を目指す学科ではなかったんです。世界の食糧問題とか、料理の写真の撮り方とか、どうやってレシピを伝えるかとか、「食」をいろんな角度から研究する食文化栄養学科というところで学んでいました。 圓尾:面白そうですね。それがどうして音楽とつながったんですか? おみそはん:もともと保育園のときからエレクトーンを習っていたり、吹奏楽部やバンドで活動したり、音楽歴がずっと長くて。それが大学で勉強した「食」と合わさって、こういう音楽活動をすることになったんです。 DJみそしるとMCごはん 圓尾:ぼく、ヒップホップにはマッチョで強面なイメージがあったので、それと「食」を掛け合わせた音楽ってどういうことだろう? とおそるおそる聴いたんです。でも、ほのぼのした雰囲気でホッとしました(笑)。むしろ食育とか、親子でも楽しめる音楽ですよね。 おみそはん:ありがとうございます。やっぱり食べ物をテーマにしているから、みんなに聴いてもらえるのかなとは思いますね。あと、私の声がほわっとしているから、ちょっと毒舌なラップをしても全然怖くならなくて、それもラッキーだったなと。自分の声に感謝です(笑)。 DJみそしるとMCごはん『ごちそんぐDJの音楽』TRAILER MOVIE 生き物や人体への興味が、管理栄養士を目指すきっかけにおみそはん:圓尾さんの学生時代は、どんな感じだったんですか? 圓尾:ぼくは管理栄養士を目指す学科だったので、そのために必要な授業をひたすら受けてましたね。途中で1年間、交換留学でイギリスに行きまして、そこでも栄養学の授業を受けたんです。 おみそはん:日本とは違いました? 圓尾:基本的には同じだったんですけど、ベジタリアンに不足しやすい栄養素の授業があったりして、国が違えば食文化も違うんだなと実感することが多かったですね。 管理栄養士・圓尾和紀 おみそはん:日本だったら、ベジタリアンも納豆や豆腐を食べていれば、たんぱく質を補っていけると思うんですけど、欧米の人は肉食に慣れていますよね。何で補うんですか? 圓尾:TOFU(豆腐)と教わりましたね。向こうでもメジャーな食べ物になっているようです。あとは豆サラダとか、豆スープ。やっぱり豆類でたんぱく質を補いましょうっていうのは同じみたいでした。学生にもベジタリアンが多くて、1割くらいはいたんじゃないかな。 そのあとは普通に大学を卒業して、大学院に2年間行ったんです。そこでは臨床栄養学、いわゆる病気になった方の食事についての研究をしていました。食べたらいけないものとか、その食べ物がからだのなかで病気にどう作用するのかとか。 ----同じ栄養学でも、学ぶ内容はだいぶ違うんですね。 おみそはん:そうですね。特に私は管理栄養士を目指す学科ではなかったので、座学より調理実習なんかも多かったです。 圓尾:逆にぼくはあまり調理が得意ではなかった。大学によって違うと思いますけど、調理実習も2年生の前期に週1回だけ。しかも栄養学科は男子が少ないから、女子がパパッと調理して、ぼくなんかは皿洗いをして終わり(笑)。 ----管理栄養士さんだからといって、みんな料理が得意なわけではないんですね。 圓尾:そのとおりですね。大学のときは実家暮らしだったので、包丁も触らないくらいでした。 おみそはん:意外ですね。どうして栄養学を学びたいと思ったんですか? 圓尾:進学のときに、やりたいことが見つからなくて悩んだんですよ。それで子どものころから生き物や人体の構造が好きだったので、生物系がいいなと思って、たまたま出会ったのが栄養学だったんです。 それまで気にしたことなかったけど、すべての生き物のベースになっているものが栄養素なので、これを学べたら面白いなと思って。本当にギリギリで決めましたね。 おみそはん:じゃあ、食べることが好きとか、料理に興味があったとかではなく。 圓尾:食べたものが、どうやってからだのなかで処理されるんだろうとか、栄養素がどのようにからだに作用するんだろうとか、学問的に興味があったんです。だから栄養学は学べば学ぶほど面白くて。 おみそはん:性に合ってたんですね。じつは私も料理は得意じゃなかったんですが、音楽とか、絵を描くこととか、ものづくりが好きだったんです。でも進学のときに、美大生になって芸術家として生きていくなんて私には絶対に無理だろうと思って(笑)。 だけど、食べることは好きだったから、料理をものづくりとして仕事にできれば生きていけるんじゃないかって。食材を選んで、どういうふうに調理して、ひとつのお鍋で料理にしていくのかとか。 ----食材(音)の組み合わせで、どんな料理(曲)をつくれるのか、ということですね。 おみそはん:食材を選ぶことも、音色を選ぶことも、筆や絵の具を選ぶことも、全部一緒だと思ったんです。ただ、全然理系の頭じゃなかったので、管理栄養士は難しいなと思って。それで見つけたのが、栄養学だけでなく、そのほかの「食」のことも学べる食文化栄養学科だったんです。 次のページ |